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宝島
原書: TREASURE ISLAND
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年7月22日
- 書店発売日
- 2020年7月22日
- 登録日
- 2019年12月20日
- 最終更新日
- 2020年9月29日
書評掲載情報
2020-09-20 | 北海道新聞 朝刊 全道版 |
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紹介
宿屋の息子の少年ジム・ホーキンズは、老海賊が残した“宝島”の地図を手に入れる。
やがて、ジムはその宝を探しに医者のリヴシィ先生や一本脚の海賊シルヴァーらと大海原へと出航する。海賊たちの反乱、裏切り、銃撃戦に遭遇したジムは、果たしてその財宝を手にすることができるのか……。
目次
第一部 老いたる海賊
第二部 船の料理番
第三部 海岸での私の冒険
第四部 防御柵
第五部 私の海の冒険
第六部 シルヴァー船長
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
本書はイギリスの小説家で詩人でもある、ロバート・ルイス・スティーヴンソン(1850-94)が児童用として書き上げた海洋冒険小説『宝島』の全訳であります。原本の初版は一八八三年である。一四〇年近くも前になる。しかもこの数年に、日本語版の新訳が数冊刊行されているし、彼の作品『ジキル博士とハイド氏』も新訳が出ている。『宝島』にしろ『ジキル博士とハイド氏』にしろ、大勢の読者に知られ愛読されてもいる。彼とわが国は相性がいいのだろう。作家によっては、高く評価されていてもあまり広く読まれない作家もいる。その意味では、彼は幸せな作家と言えよう。
本と読者との出会いにも幸不幸があって、私など戦後のどさくさに少年時代を過ごしたせいで、『宝島』を読んで少年らしく胸をときめかし夢を描く機会に、残念ながら恵まれずに終わってしまった。初めての出会いは、ずっとおくれて高校の英語の時間だったような気がする。先生がわざわざ教材に選んでくれたのだろうが、どんな名作もどういう訳か教材に使われるとその面白さを失ってしまう。
ご存知のように、この作品は肺を病んで病弱なスティーヴンソンが、再婚した女性の子供ロイド・オズボーンのために書いたと言われている。『宝島』は図らずも、絶海の孤島へ宝探しに行くことになった少年の、まさに波乱万丈の冒険物語だが、少年が成人してから書きまとめた体裁になっており、そのために子どもには話が、とりわけ心理描写が複雑ですこし難しすぎるのでは、とりわけ中心人物であり、海賊の一典型ともなっているシルバー船長の変わり身の早さなど分かりにくいのではと、訳しながらいらざる心配をしたり、むしろ夢を失いがちな大人の読み物ではないかなどと考えたりもした。しかも、『ジキル博士とハイド氏』の心理分析から発展して、シルバー船長が誕生したのではないかなどとひどく見当違いなことまで考えてしまった。この『宝島』が長い時代を経ても幅広い層に支持されているのは、この作品には少年ばかりでなく大人の、未だ見ぬ世界への憧れや冒険心をかき立てる夢があるからだろう。そのあたりにこの作品が幅広い読者層に支持されている所以がありそうだ。
詩人でもある心優しいスティーヴンソンは、子どもの遊びや夢を題材にした童心に満ちた詩集、『子供の詩のお庭』(1885)や『下ばえ』(1887)なども世に送り出している。ほかに小説としては、『誘拐されて』(1886)、『黒い矢』(1888)、『パラントレー家の御曹司』(1889)などがある。『ハーミストンの堰』とおなじく『セント・アイブズ』は共に未完となる。九四年一二月に、彼が脳溢血のために倒れ死去したため。わずか四四歳であった。
ここで、彼の経歴に簡単に触れておく。彼は一八五〇年、スコットランドのエディンバラで、灯台建築技師の一人っ子として生まれる。エディンバラ大学の土木学を専攻するが法科に転じ弁護士となる。幼い時から肺結核に冒され、二〇代になると病状はさらに悪化、保養を兼ねてのフランスやベルギー旅行中に作家を志すようになる。そのころの体験を記したものとしては『内陸船旅』(1873)がある。三〇歳の時に、離婚成立後のアメリカ人のファニー・オズボーンと結婚。彼女の連れ子のロイド・オズボーンのためにかかれたのが本書『宝島』である。そのロイドとは合作もしている。『難破船略奪者』(1892)と『引き潮』(1894)である。たとえば『引き潮』だが、南太平洋で食い詰め物の男三人がくり広げる冒険物語で、彼のG・K・チェスタトン(1874‐1936)も愛読していたという。関心のある方には,一読をお勧めする。先にも触れたが、享年四四歳。しかし、彼はいまも生き続けている。
二〇一九年 中山 善之
上記内容は本書刊行時のものです。