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忠岑と躬恒
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2012年2月
- 書店発売日
- 2012年2月7日
- 登録日
- 2012年1月18日
- 最終更新日
- 2012年4月13日
紹介
うたの森に、ようこそ。
柿本人麻呂から寺山修司、塚本邦雄まで、日本の代表的歌人の秀歌そのものを、堪能できるように編んだ、初めてのアンソロジー、全六〇冊。「コレクション日本歌人選」の、忠岑と躬恒です。
壬生忠岑と凡河内躬恒。
和歌への関心が高まった時代、ともに古今集撰者として活躍した三十六歌仙のふたり。
忠岑と躬恒 ただみね・みつね
紀貫之とともに古今集時代の歌壇を支え合った歌人、壬生忠岑と凡河内躬恒。いずれも『古今集』の撰者に抜擢され、三十六歌仙に入る。貫之らとの親交を重ねる中で和歌表現を研鑽し、屏風歌や自然詠などに貴族生活を彩る知的で斬新な表現を追いかけた。その洗練された自由な詞藻は、貫之をしのぐものがあると見られたほど。貫之同様、官位は低いままに終わったが、当代の職能的専門歌人として後の貴族和歌の基盤を作った功績は大きい。
目次
壬生忠岑
01 春立つといふばかりにやみ吉野の山もかすみて今朝は見ゆらん
02 春来ぬと人は言へども鶯の鳴かぬかぎりはあらじとぞ思ふ
03 春はなほ我にて知りぬ花盛り心のどけき人はあらじな
04 暮るるかと見れば明けぬる夏の夜をあかずとや鳴く山郭公
05 夢よりもはかなきものは夏の夜の暁がたの別れなりけり
06 ひさかたの月の桂も秋はなほもみぢすればや照りまさるらん
07 雨降れば笠取山のもみぢ葉は行きかふ人の袖さへぞ照る
08 神奈備の三室の山を秋行けば錦たちきる心地こそすれ
09 千鳥鳴く佐保の川霧立ちぬらし山の木の葉も色まさりゆく
10 春日野の雪間をわけて生ひ出でくる草のはつかに見えし君はも
11 風吹けば峰に別るる白雲のたえてつれなき君が心か
12 月影にわが身を替ふるものならばつれなき人もあはれとや見ん
13 命にもまさりて惜しくあるものは見果てぬ夢のさむるなりけり
14 有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし
15 ひとりのみ思へば苦しいかにして同じ心に人を教へん
16 陸奥にありといふなる名取川なき名取りては苦しかりけり
17 思ふてふことをぞ妬く古るしける君にのみこそ言ふべかりけれ
18 大荒木の森の草とやなりにけん仮りにだに来てとふ人のなき
19 落ちたぎつ滝の水上年つもり老いにけらしな黒き筋なし
20 かささぎの渡せる橋の霜の上を夜半に踏みわけことさらにこそ
凡河内躬恒
01 月夜にはそれとも見えず梅の花香をたづねてぞ知るべかりける
02 春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる
03 春日野に生ふる若菜を見てしより心を常に思ひやるかな
04 桜花のどかにも見ん吹く風を先に立てても春は行かなん
05 起きふして惜しむかひなく現にも夢にも花の散るをいかにせん
06 いつの間に散り果てぬらん桜花面影にのみ色を見せつつ
07 散りぬとも影をやとめぬ藤の花池の心のあるかひもなき
08 今日のみと春を思はぬ時だにも立つことやすき花の陰かは
09 行く先を惜しみし春の明日よりは来にし方にもなりぬべきかな
10 なでしこの花咲きにけりわぎもこが恋しきときのよき形見草
11 塵をだに据ゑじとぞ思ふ咲きしより妹とわが寝る常夏の花
12 夏と秋と行きかふ空の通ひ路はかたへ涼しき風や吹くらん
13 心あてに折らばや折らん初霜の置きまどはせる白菊の花
14 立ちとまり見てを渡らんもみぢ葉は雨と降るとも水はまさらじ
15 道知らばたづねもゆかんもみぢ葉を幣と手向けて秋はいにけり
16 初雁のはつかに声を聞きしより中空にのみ物を思ふかな
17 わが恋はゆくへも知らず果てもなし逢ふをかぎりと思ふばかりぞ
18 伊勢の海に塩焼く海人の藤衣なるとはすれど逢はぬ君かな
19 頼めつつ逢はで年ふるいつはりに懲りぬ心を人は知らなん
20 衣手ぞ今朝は濡れたる思ひ寝の夢路にさへや雨は降るらん
21 冬の池に住む鳰鳥のつれもなく底に通ふと人に知らすな
22 離れはてん後をば知らで夏草の深くも人の思ほゆるかな
23 吉野川よしや人こそつらからめ早く言ひてし言は忘れじ
24 睦言もまだ尽きなくに明けぬめりいづらは秋の長してふ夜は
25 挿頭せども老いも隠れぬこの春ぞ花の面は伏せつべらなる
26 かくばかり惜しと思ふ夜をいたづらに寝て明かすらん人さへぞ憂き
27 別るれどうれしくもあるか今宵より逢ひ見ぬ先に何を恋ひまし
28 人につく便りだになし大荒木の森の下なる草の身なれば
29 引きて植ゑし人はむべこそ老いにけれ松の木高くなりにけるかな
30 照る月を弓張りとのみいふことは山の端さして射ればなりけり
歌人略伝
略年譜
解説「忠岑・躬恒の評価へ向けて」(青木太朗)
読書案内
【付録エッセイ】擬人感覚と序詞の詩性(馬場あき子)
上記内容は本書刊行時のものです。