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アラブ君主制国家の存立基盤
- 書店発売日
- 2017年10月16日
- 登録日
- 2017年10月5日
- 最終更新日
- 2017年10月5日
紹介
「アラブの春」と称される政治変動は、アラブ諸国の国内政治と社会のあり方はもとより、地域をめぐる政治状況に多大な変化と混乱をもたらした。情勢が混迷を深めるなかで際立ったのは、アラブ君主制8 カ国(サウジアラビア、クウェート、バハレーン、カタル、アラブ首長国連邦[UAE]、オマーン、ヨルダン、モロッコ)の体制の安定性であった。本書は、アラブ君主制諸国が示した政治変動に対する耐性に着目し、体制の安定性が維持されているメカニズムの解明をめざしたものである。
アラブ君主制の存続と崩壊は、サミュエル・ハンティントンが近代化とともに君主制が直面する「国王のジレンマ」問題を論じて以来、中東政治研究において主要なテーマのひとつである。伝統的な宗教や部族社会の紐帯に着目した文化的アプローチや、国王の超越性や国家と社会の関係に着目した制度的アプローチ、石油や外国からの援助などのレント収入や政治的な地位・権力など恩恵の配分に着目した資源配分アプローチに整理される多様な観点から分析がなされ、政治体制の存続と崩壊を分ける要因やメカニズムの解明が進んでいる。しかし、そこに君主制ならではの特性を見いだすことは難しい。
君主制ならではの特性を浮き彫りにするために、本書は、複合的なアプローチを採用し、君主が主張する統治の正統性原理と、それに対する国民からの主体的な受容のあり方に焦点を当てている。国民と君主をつなぐ多様なチャンネルに着目し、君主制の枠組みのなかで、国民が主体的に関与し得る制度について検討し、国民が君主制にいかなる存在意義を見いだしているのかを明らかにするとともに、君主制の安定性について分析するための新たな独立変数ないし媒介変数を提示したい。
目次
まえがき
第1章 総論-アラブ君主制国家の存立基盤- 石黒 大岳
はじめに
第1節 先行研究
第2節 方法論
第3節 本書の構成と各章の概要
おわりに
第2章 クウェートの議会政治と王党派の形成 石黒 大岳
はじめに
第1節 クウェートの国家形成とサバーフ家による統治の正統性の原理
第2節 社会的亀裂と王党派の形成・再編
おわりに
第 3 章 ふたつの「マジュリス」-バハレーンにおける国民の政治参加と統治体制の安定性- 村上 拓哉
はじめに
第1節 バハレーンの社会構造と統治体制
第2節 もうひとつの「マジュリス」
おわりに-マジュリスの限界と今後の見通し-
第4章 オマーンの統治体制の安定性における国王による行幸の役割 村上 拓哉
はじめに
第1節 オマーンの社会的亀裂と部族勢力の取り込み
第2節 カーブースによる行幸
おわりに-行幸制度の限界と今後の見通し-
第5章 君主体制と建国記念日-UAEにおける政治的正統性と忠誠の検討- 堀拔 功二
はじめに
第1節 UAEにおける国家・体制・国民の現在
第2節 建国記念日の公式/非公式行事
第3節 UAEにおける建国記念日の役割
おわりに
第6章 モロッコ王制の安定性におけるバイア(忠誠の誓い)儀礼の役割 白谷 望
はじめに
第1節 ネイション・ビルディングにおけるイスラーム的正統性の積極的な採用
第2節 バイアの儀礼
第3節 バイアの機能-ムハンマド 6 世期を中心に-
おわりに
第7章 ヨルダン王制の安定性-国王の権威を支える諸要素- 錦田 愛子
はじめに
第1節 弱い君主制?
第2節 君主制を支える諸要素
おわりに
第8章 サウジアラビアの聖地管理と再開発 石黒 大岳
はじめに
第1節 国家建設とサウード家による統治の正統性原理
第2節 ナジュドとヒジャーズの統治者から二聖都の守護者への転換
第3節 アブドゥッラー国王による再開発事業の展開
おわりに
上記内容は本書刊行時のものです。