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アフリカの教育開発と国際協力
政策研究とフィールドワークの統合
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2007年11月
- 書店発売日
- 2007年11月29日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2016年12月28日
紹介
アフリカ地域の多くの国々において、教育の普及と質的改善は喫緊の開発課題である。世界有数の援助供与国である日本をはじめ国際社会にとってアフリカへの教育分野の国際協力は最優先テーマの一つといえる。本書は、日本の国際教育協力およびアフリカ支援を概観し、各国別の初中等教育の現状と諸問題を現場体験と調査データを元に論考し、さらに今後の他の開発途上国への共有化を考察する。
目次
序章 アフリカの教育開発と国際協力 ―問題の所在―
1 本書の目的
2 アフリカの教育開発経験
3 アフリカに対する国際教育協力と日本
4 貧しい人々の学校に対する期待と失望
5 国際教育協力の限界と課題
第1部 日本の国際教育協力とアフリカ支援
第1章 国際教育協力の日本的特質 ―複雑性と優位性―
1 1990年代の国際教育協力の動向と日本
2 日本の開発援助に対する国際的批判
3 日本の国際教育協力の特質
4 変容する日本の教育協力プロジェクト
5 欧米追従の援助からの脱却
第2章 日本の開発援助の非西欧的特徴 ―自助努力に対する支援―
1 日本の開発援助哲学
2 自助努力支援をめぐる援助理念の起源
3 日本的自助努力と欧米のオーナーシップ
4 日本のODAに対する自信
5 アフリカにおける自助努力の有効性
第3章 アフリカに対する教育援助の展開 ―日本の役割と可能性―
1 アフリカの教育開発の現状
2 アフリカの開発と国際援助
3 日本の教育援助政策の特徴
4 日本のアフリカに対する教育援助の展望
5 日本独自の貢献
第2部 アフリカ諸国における教育開発の諸問題
第4章 ガーナ ―ポリテクニック教育改革の展望―
1 教育政策と技術教育の位置づけ
2 ポリテクニックの創設と現状
3 ポリテクニック改革の方向性
4 ポリテクニック教育を取り巻く社会環境
5 ポリテクニックの将来展望
第5章 エチオピア ―初等教育の量的拡大と質的改善―
1 UPE政策と教育の質
2 初等教育の現状と課題
3 教育セクター開発プログラム
4 地方分権化政策と教育の質
5 量的拡大と質的改善のトレードオフ
第6章 ケニア ―受験中心主義の初等教育―
1 KCPEの概要
2 受験対策中心の学校生活
3 KCPE成績から見える教育格差
4 学校間格差の実態
第7章 ザンビア ―国際教育協力とオーナーシップ―
1 初中等教育の現状と展望
2 国際的教育援助の方向性
3 日本の教育支援アプローチ
4 オーナーシップと文化的配慮
第3部 ケニアの初等教育と学校調査 ―新たな研究手法の試み―
第8章 ケニアの初等教育開発と国際協力 ―失われた20年からの復興―
1 東アフリカ3カ国の比較
2 初中等教育の概観
3 教育費用と教員給与の問題
4 教育改革の動向
5 国際協力の状況
第9章 ケニアにおける初等教育完全普及への取り組み ―無償化政策の現状と問題点―
1 アフリカ諸国の教育発展
2 初等教育の現状と教育改革
3 1990年代の問題分析と初等教育の無償化
4 初等教育無償化政策の妥当性とインパクト
5 無償化政策の自立的持続発展性
第10章 ケニアの小学校における留年と中途退学の実態 ―生徒のトレース調査から―
1 初等教育の現状と課題
2 留年と中途退学の論点
3 調査対象校の現状
4 調査の方法
5 留年と中途退学の実態
第11章 ケニア小学校教師のライフヒストリーから学ぶ ―教育開発の新たな知の構築―
1 教育開発研究におけるライフヒストリー法
2 小学校教師のライフヒストリー
3 ライフヒストリーから学んだ新たな視点
終章 新たな国際教育協力の展開へ向けて ―研究の意義と価値―
1 日本の新たな国際教育協力の展開
2 アフリカ諸国の教育開発への取り組み
3 ケニアでのフィールドワークから
あとがき
初出一覧
索引
前書きなど
序章(一部抜粋)
1.本書の目的
サブサハラ・アフリカ(以下、アフリカ)地域には、現在48の国家がある。エチオピアや南アフリカを除くと、1960年代初頭に英国、フランス、ポルトガルなどの旧宗主国から独立した国々である。独立当初、国際的経済環境にも恵まれ順調な成長を遂げていたが、1970年代のオイルショックおよび一次産品の国際価格の下落の影響を受け、1980年代の国民所得は減少した。これらの国々の大半は、後発開発途上国あるいは最貧国に今も分類されており、急速に発展した東アジア諸国とは対照的である。
アフリカ諸国は、独立以来、教育を重視した国造りをしてきた。ユネスコ主催によるアフリカ地域会議が1961年に開催され、1980年までに初等教育の完全普及(普遍化)を達成することを目標に掲げた「アジスアベバ・プラン」が採択されたが、このような世界経済の悪化とも相まって、教育機会の拡充は期待通りに進まなかった。それどころか、アフリカ地域では1980年代に就学率が低下し、教育の質が悪化した国がほとんどである。
(中略)
従来の日本の国際協力に関する研究は、その制約や限界を分析するものが大半であるが、本研究では日本の比較優位性を再検討し、そのポテンシャルを発掘することに重点を置いた。21世紀に入り、日本の国際協力は教育分野を中心として、急速に変容を遂げつつあり、日本の国際協力の可能性は、特に欧米諸国との比較において、正当に評価されるべきであるし、そのようになっていないのは、日本側研究者の努力不足もある。さらに言えば、主要援助国の中では唯一の非西欧国であり、そもそも開発と国際協力あるいは教育のあり方に対する考え方が欧米諸国と異なる中で、そのような自己主張を国際社会に対して行うことを敢えて避けてきたところもある。
日本は、アフリカにおいて国際的なインパクトを持つ教育開発研究をほとんど行ってこなかったが、これはそのような関心を持つ研究者がこれまでいなかっただけであり、これからは違うだろう。世界のアフリカ教育研究を概観すると、その研究資金の多くが援助機関から拠出されている。自由な学術研究は少なく、研究分野や研究アプローチにも偏りがある。一つの事例を深く掘り下げたような研究は少なく、政策分析や計量分析が中心であり、それを補完するようなフィールドワークを基礎とした調査が不足している。特に、アフリカのような多様な社会では、統計的に処理し、平均化された数値だけでは、教育全体の課題や問題点を把握するには不十分である。数字に目を奪われ、ことの本質を探る努力を怠っているのかもしれない。
(後略)
1-2 本書の構成
本書は、序章と終章を除き、本論部分は3部から構成されている。まず第1部において、日本の国際教育協力の援助思潮と諸政策の特徴や政策決定の複雑性を欧米諸国と対置し、日本的な特質を明らかにすると共に、日本の比較優位性を探索している。独善的な日本の優位性の主張ではなく、精緻な文献レビュー、筆者の経験および関係者とのインタビューに基づき、多角的に分析を行ったつもりである。第2部では、アフリカの教育発展の過程を概観し、複雑に入り組む教育開発の現状分析を国別に行い、解決しなければならない教育課題の解明を試みた。初等教育の急速な拡大を別の切り口から捉え直している。第3部は、ケニアにおける5年間以上にわたるフィールドワークを通して、教育政策など制度面での解析を行うと共に、小学校における継続的な定点調査を行い、学校レベルの実態を理解するミクロ研究への糸口をつけた。
このように、本論部分では、日本の国際教育協力について国際的な視点からの位置付けを行い(第1部)、具体事例を含めアフリカの教育開発と国際協力の実態を批判的に検討し(第2部)、ケニアでの長期にわたる調査によりマクロおよびミクロを結びつける教育開発研究を行い(第3部)、これまで明らかにされてこなかったアフリカの教育開発と国際協力の諸相を総合的に解明しようとしている。終章においては、本研究の総括的意義と価値、ならびに今後の課題についても触れている。
上記内容は本書刊行時のものです。