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『万葉集』における帝国的世界と「感動」
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年3月
- 書店発売日
- 2017年4月4日
- 登録日
- 2017年3月15日
- 最終更新日
- 2017年4月4日
紹介
万葉集の“豊かな感情表現”は政治的な文化装置として創り出された。
歌に詠まれた喜びも悲しみも、時代を超えて通じているようにみえる。しかし、現代人の感動と万葉人の感動は、果たして同じものなのか。歌の背景に存在する、天皇を中心とした古代帝国的世界を見つめ、感情表現という根源の正体に迫る。
万葉集にみえる政治制度と歴史意識を解き明かした衝撃的な講演録。
目次
はしがき(小川靖彦)
講師紹介(小川靖彦)
Ⅰ はじめに
『万葉集』との最初の出会い
英訳に対する感動
原文に対する感動
感動と翻訳
Ⅱ 『万葉集』の世界のありよう
古代日本の帝国的世界
帝国的世界と文字
歌と感動
近代における『万葉集』像
『万葉集』における想像の帝国
Ⅲ 『万葉集』における「感動」の世界
主権者に対する感動
集団的感動と個人的感動
個人的感動の位置づけ
感動の帝国的空間性
「泣血哀慟歌」に立ち戻って
Ⅳ おわりに
『万葉集』の言語
世界文学と日本文学
講演を聴いて―コメントとレスポンス(トークィル・ダシー×小川靖彦)
文学研究の基礎にある「感動」
創られたものとしての〈感情〉
枕詞の翻訳の難しさ
「帝国」ということばについて
古代と近代における〈天皇を中心とする世界〉
『古今和歌集』をどう捉えるか
『万葉集』の「君」という呼称
■会場からの質問への回答
(1) 『万葉集』の歌を英訳する時に、特に重視していることは何か。
(2) 柿本人麻呂「泣血哀慟歌」と潘岳「悼亡詩」の違いは、帝国的世界像と関係するのか。
(3) 『万葉集』の歌に女性的な印象を受けたが、それはどこから生まれているのか。
(4) 柿本人麻呂「泣血哀慟歌」の、死者が山中に居るという死生観をどう受け止めているか。
「泣血哀慟歌」全文(トークィル・ダシー英訳)
青山学院大学文学部日本文学科主催
講演会「古代日本の世界像と万葉集」について(篠原進)
前書きなど
講師紹介(小川靖彦)
青山学院大学文学部日本文学科主催の講演会「古代日本の世界像と万葉集」を始めたいと思います(なお、本書ではタイトルを「『万葉集』における帝国的世界と「感動」」に改めました)。講演会に先立ち、講師のトークィル・ダシー Torquil Duthie氏についてご紹介いたします。
トークィル・ダシー氏は現在カリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAアジア言語文化学部の准教授でいらっしゃいます。ダシー氏は、一九九二年にロンドン大学東洋アフリカ研究学院SOASをご卒業になりました。その後、北海道大学大学院修士課程に進学され、ここで、『万葉集』の作品論的研究で目覚ましい業績を上げられている身﨑壽氏の指導のもと、修士論文「人麻呂歌集旋頭歌の研究」をまとめられました。一九九八年に同課程を修了され、二〇〇二年から二〇〇三年には早稲田大学フェロースカラーとして日本で研究された後、コロンビア大学大学院博士課程で、アメリカの日本文学研究の第一人者であるハルオ・シラネ Haruo Shirane氏のもとで研究を進め、二〇〇五年に、博士論文“Poetry and Kingship in Ancient Japan”(「古代日本における詩と王権」)で博士号Ph.D.を取得されました。ピッツバーグ大学准教授を経て、現職でいらっしゃいます。
ダシー氏のご専門は、日本古代文学です。UCLAのホームページに掲載されている、ご自身で書かれた教員紹介には、特に詩歌、神話、歴史叙述、とあります。「歴史叙述」が挙げられているところにダシー氏の研究の特徴が表れています。つまり、歴史学者のように『万葉集』や『古事記』『日本書紀』によって、〝事実としての歴史〟を復元するのではなく、これらの書物がどのように〈歴史〉を描こうとしていたのかを明らかにするのが、ダシー氏の研究です。文学の側から、〈歴史〉とは何か、という根本的な問題に迫っているのです。また、十七~十八世紀の国学、およびその近現代の文献学との関係も、研究テーマとされています。これも国学や近現代の文献学が、〈古代〉をどのように捉えているのかという関心に基づくものです。
二〇一四年にダシー氏は、Man'yoshu and the Imperial Imagination in Early Japan (『万葉集と古代日本における帝国的想像力』)という四六一頁からなる重厚な研究書を出版されました。この本は、『万葉集』がどのようにして〈歴史〉を創っていったかを考察したものですが、実はその前半は、国学や、日本近代における政治制度と歴史意識を論じています。『万葉集』についてはもちろん、近世・近代の思想史の本としても、刺激的な見解に満ちています。二〇一五年には、東京大学の「東アジア古典学の次世代拠点形成──国際連携による研究と教育の加速」というプログラムにおいて合評会が開かれたように、多くの研究者がこの本に注目しています。この他、二〇〇五年には、『古今和歌集』のスペイン語訳も出版されています。ダシー氏は幼い日々をスペインで過ごされ、その時にイギリスの御祖母様から送られてきた本の中に、日本に関するものがあり、日本文学に関心を持たれたそうです。
『万葉集と古代日本における帝国的想像力』は現在翻訳が進められていますが、刊行は少し先になるとのことです(笠間書院刊)。本日の講演は、翻訳書に先駆けて、この本で論じられたことをダシー氏自身が紹介してくださる貴重な機会です。しかし、それだけではなく、最近、日米の学術雑誌に発表された研究成果も組み込みながら、〈『万葉集』における「感動」とは何か〉という新たな、そして本質的なテーマについて、お話しくださいます。
上記内容は本書刊行時のものです。