部落史の視点から新・カムイ伝のすゝめ
中尾 健次:著
発行:解放出版社 この版元の本一覧
四六判 294ページ 並製
定価:1,800円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-7592-5135-7 C0021
在庫あり
奥付の初版発行年月:2009年09月 書店発売日:2009年09月11日
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紹介

『カムイ伝』が描く壮大な世界を読み解く!!/学生運動が高揚した1960年代、白土三平による『カムイ伝』の連載が始まった。『カムイ伝』は、武士や庄屋などの支配階級との闘いを通して、非人をはじめ下人、農民など社会の下層に置かれた人びとの、力強い生き様をリアルに描く。その1コマ1コマにはさまざまな意味があり、読めば読むほど味わい深い作品である。
 本書は『カムイ伝』を特に部落史の視点から見つめ直したもの。作品中にあらわれる部落史と関連する点について、単にその批判をするのではない。視角に訴える貴重な資料としての価値、また作品全体を貫く思想を再評価する。
 旧版である『カムイ伝のすゝめ』では語り尽くせなかった「部落史とカムイ伝」(本書、第三部)を全面改稿し、図版は旧版の10倍以上を掲載。
 旧版発行から12年――この間の研究成果をふまえて、近世部落史研究の第一人者である筆者が『カムイ伝』を読み解く。

目次

はじめに
第一部『カムイ伝』概論
第一章『カムイ伝』はなにを描こうとしたか?
最初のプラン―シャクシャイン叛乱/非人の子カムイと白オオカミ/『カムイ伝』の軌道修正/あたらしいテーマへ/差別問題は?/連載の開始に当たっての長井と白土/やはり差別問題をモチーフに/商人代表の新主役・七兵衛/白土の政治評論とその立場
第二章『カムイ伝』の舞台―日置藩はどこにある?
最初は東北だった日置藩?/大雪の山、綿の栽培、漁業も?/海に面して京都所司代の管轄下/和泉と紀州の境にある小藩?
第三章『カムイ伝』の差別論
権力による〈分断工作〉/〈近世政治起源説〉に基づいた差別論/白オオカミの世界/白いゆえの差別/オオカミの世界と人間の世界/〈差別〉の論理/差別・被差別を超えた真の連帯とは?
第四章 日置藩の秘密とは?
〈日置藩の秘密〉/幕府のかげ/公儀隠密の真の任務とは?/城代家老の自信/土井大炊頭利勝の遺書/その秘密はカメに?/カムイがつかむ〈日置藩の秘密〉/あきらかとなった〈日置藩の秘密〉/新城主の突然の帰国/日置藩の領地没収/松平伊豆守の〈陰謀〉/「徳川家康賤民説」について

第二部『カムイ伝』の人物論
第一章「正助伝」
正助と一九六〇年代/活かされなかった正助の母親/〈民主的知識人〉としての正助/〈偏見は損をする〉/正助の〈個人主義的立身出世〉/なぜか敬愛される正助/ナナと正助/正助を支える百姓と非人/ついに決起する?正助/それでもオポチュニストではない正助/合理主義は差別を超える/非人による農業手伝い/正助の助命を求める運動/ふたたびナナと正助/正助の自己変革とはじめての挫折/非人と百姓の身分をなくすために/大衆運動家への脱皮/非人に対する農耕の禁止/日置藩の経済政策と一揆/大規模な逃散計画/日置大一揆と正助の〈最期〉
第二章「苔丸(スダレ)伝」
玉手騒動のリーダー・苔丸/スダレの被差別体験/竜之進と一角の場合/竜之進へのスダレの弾劾/スダレの解放論/生きつづける苔丸(スダレ)
第三章 個人の解放と挫折、そして死
1 赤目―自己解放とその挫折
天才忍者・赤目/牢屋敷の民主化運動/金の亡者・七兵衛との出会い/赤目の〈夢〉/赤目の〈死〉
2 水無月右近―挫折したニヒリズム
〈剣〉への疑問/かなわぬ恋・アテナへの思い
3 左卜伝の実存主義
海と人と船/生きる延長にある〈死〉

第三部 部落史と『カムイ伝』
第一章 近世の身分制度とかかわって
意図的に「エタ」の語を避けた?/「エタ」の表記を避ける背景とは?/「エタ」「非人」は近世でも差別的な語だった/『カムイ伝』に登場する「エタ」の語/「別の社会として疎外された」?/「非人独自の社会」?
第二章 弾左衛門支配について
『カムイ伝』にあらわれた弾左衛門/〈頭支配〉と〈頭村支配〉/近世初頭の弾左衛門/非人頭車善七/弾左衛門、非人支配を画策/弾左衛門支配の拡大/弾左衛門の〈相当仕置き〉について/乞胸と願人/乞胸の由来と仁太夫のこと
第三章 被差別民の仕事について
「差別と貧困」の部落史/「生産の労働」の部落史へ/『カムイ伝』における「草場」/実際の皮革生産を見る/その他の生業/「才蔵市」と乞胸/貧困ゆえの知恵と工夫/乞胸の生業は「十二種」/香具師の稼業について/乞胸と香具師の争論/天才芸人・松川鶴市
第四章 被差別民の役負担
『カムイ伝』に描かれた「死罪」/近世幕府領での刑罰/「市中引き回し」と「三日ざらし」/刑罰の人足に見られる地域差/大坂の長吏組織/大坂町奉行と「垣外」/村々の非人番/「風聞探索」について/黒田数馬脱獄の一件/情報探索の実際
第五章 『カムイ伝』と部落史学習
視覚教材としての『カムイ伝』/社会科教科書にあらわれた部落史像/『カムイ伝』に描かれた百姓一揆/元禄時代のあらたな動き/野鍛冶に対する差別

補論 『カムイ伝』が映す世界〈対談〉中尾健次×田中優子
『カムイ伝』との再会/「差別」について/皮革産業を追う/「河原」という空間/貧困史観/皮の質にみる東西/弾左衛門と組織化/「同和」とは何か/同和教育と部落問題学習/差別と一般化/成長と喪失/正助が問う現代/最底辺から視る
あとがき

前書きなど

 (略)
 ここまでが「旧版」の再現である。それから一二年が経過し、状況もかなり変化した。まず、「旧版」当時、『カムイ伝』第二部は連載が中断し、再開のメドも立っていなかったが、その後再開、『ビッグコミック』誌上では二〇〇〇年四月まで連載され、それが二〇〇六年一二月、『カムイ伝全集』(第二部・一二巻)の発刊に際し、最後の部分が付けくわえられ、かなりのテーマを残しつつ、一応終了した。
 さらにこの間、『カムイ伝』をテーマにしたすぐれた著作が、つぎつぎに出版された。まず四方田犬彦さんの『白土三平論』(作品社 二〇〇四年)があり、松岡正剛さんは、書評サイト『千夜千冊』の一二三九夜(二〇〇六年五月八日)で、『カムイ伝』を取りあげている。また田中優子さんは、小学館のサイトに「カムイ伝から見える日本」を連載し、それをさらに充実させて、『カムイ伝講義』(小学館 二〇〇八年)として発刊された。
 これらの著作では、「旧版」が先駆的な仕事として紹介されており、筆者にとっては身にあまる光栄であった。しかし、わたし自身は「旧版」に心のこりがあった。
「旧版」は、「部落史の視点から」というサブタイトルを付けながら、そこがもっとも貧弱だった。「旧版」は、第一部「『カムイ伝』概論」、第二部「『カムイ伝』の人物論」、第三部「部落史学習と『カムイ伝』」の三部構成であった。そして、サブタイトルからすれば、第三部こそメインでなければならなかったのだが、『カムイ伝』にかけた白土三平さんの熱意に魅せられ、結果として、第一部と第二部に精力をそそぐことになってしまった。しかし、第三部こそ、わたし自身が、もっとも精力をそそがねばならない部分だったはずなのである。
 先にあげた三人の方の作品は、それぞれすぐれた内容をもっている。
(中略)
 しかし、これをお三方に要求することは、やはり無い物ねだりだ。これこそ、わたし自身の課題でなければならない。そもそもが「旧版」でやるべきだったのだ。つまり、部落史研究の現状を踏まえ、『カムイ伝』に描かれた部落史観を批判的にとらえ直すこと、これこそ、わたしに与えられた課題なのだ

関連書

白土三平作『カムイ伝』『カムイ伝第二部』『カムイ外伝』
四方田犬彦著『白土三平論』(2004 作品社)
田中優子著『カムイ伝講義』(2008 小学館)

著者プロフィール

中尾 健次(ナカオ ケンジ)

中尾 健次(なかお・けんじ)
一九五〇年、大阪生まれ。
大阪教育大学教職教育研究開発センター教授。
〈主な著書〉
『江戸社会と弾左衛門』一九九二年
『部落史をどう教えるか』(共著)一九九三年
『弾左衛門――大江戸もう一つの社会』一九九四年
『同和教育への招待』(共著)二〇〇〇年
『部落史50話』二〇〇三年
『映画で学ぶ被差別の歴史』二〇〇六年
『絵本 もうひとつの日本の歴史』(文)二〇〇七年 いずれも解放出版社
『江戸の弾左衛門』一九九六年
『江戸時代の差別観念』一九九七年
『江戸の大道芸人』一九九八年 いずれも三一書房

上記内容は本書刊行時のものです。
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