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米兵犯罪と日米密約
「ジラード事件」の隠された真実
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2015年7月
- 書店発売日
- 2015年7月30日
- 登録日
- 2015年7月21日
- 最終更新日
- 2015年7月21日
紹介
昭和32年、群馬県の相馬ヶ原演習場で日本人主婦が射殺された。「弾拾い」の女性を雀でも撃つように銃撃した米兵に、「重罪」としないという日米密約によって、日本の司法が執行猶予四年の判決を下した。何を裁き、何を裁けなかったのか? 今、鋭く検証する。
目次
まえがき
第一章 米兵ジラードの犯罪
一 薬キョウによる殺害
二 意外な情報源
三 相馬ヶ原
四 弾を拾う
第二章 米兵を立件する
一 社会党の追及
二 困難な米兵の立件に挑む
三 裁判権をめぐる係争
第三章 「ジラード事件」と昏迷するアメリカ
一 裁判権で迷走するアメリカ政府
二 ジラード側、政府を訴える
三 新聞と世論
四 紛糾する議会
第四章 下された判決と日米の密約
一 裁判権の行方と密約の存在
二 公判はじまる
三 判決とその評価
あとがき
前書きなど
まえがき
(…前略…)
本書は、日本とアメリカ双方の視点から事件を検証し、その全貌を明らかにしようとしている。
「ジラード事件」はアメリカで“Girard Case”と呼ばれ一九五七年の一〇大ニュースのひとつに挙げられたほど、アメリカ人の大きな関心をかった。しかし、日本ではこの事件をアメリカ側の視点で論じたものは限られている(前掲の末浪靖司の論文と倉林直子の「駐留米軍をめぐる政府と議会の関係――ジラード事件への対応を中心に」麗沢大学紀要93、平成二三年一二月)。アメリカにおける研究でも、在外米軍の基地や駐留、あるいは岸信介の対米方針などの論述に付記としてその概略が記されるに留まっている。論文としては唯一、ゴードン・B・ボールドウィンが一九五八年に米兵の裁判権の放棄について、法律論の見地から論じたもの(“Foreign Jurisdiction and the American Soldier ‘The Adventures of Girard’”, Wisconsin Law Review)のみが確認されている。
「ジラード事件」の裁判権は日米の専門委員会の合意で、事件から三か月半ほど経ったころにいったん日本に渡される。しかしこの決定は、米兵の裁きを米軍の専権事項とするアメリカ議員たちの反発に遭い覆されてしまう。ともあれ、駐留米兵の犯罪は冷戦期の同盟諸国、なかでもその被害が深刻なアジア友好国との関係を悪化させる一大懸案事項であり、「ジラード事件」のあつかい次第でアメリカはこの地域で「孤立」に追い込まれる危険を孕んでいた。ジラードの裁判の行方は国務省が中心となって、日本との外交問題として調整がはかられるが、議会の動向や米軍による兵士の管理という国内の利害とも絡んで議論は混迷し、最終的には大統領アイゼンハワーの判断を仰ぐのである。こうした折衝のなかでジラード裁判を日本に移管する代償に、彼の刑罰を軽減する密約も成立していく。司法の場では「米兵の憲法の権利」へと論争は拡大していき、地裁と最高裁で判断は対立する。一方、議会では自国兵の専権的な裁判権を希求する議員たちが法案を準備して同盟国との協定の修正をもとめ、議場は対ソ連の戦略論争に及んで白熱し、賛否は真っ二つに割れる。国論を二分する「ジラード事件」および米兵論議は一九五七年夏の新聞紙面を賑わし、ジラードの名は人々の記憶に深く刻まれる。日本の米軍基地内で軟禁されていたジラードは本国に不在のなかで、全米が注視する「時の人」となっていった。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。