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新装版 人間と放射線
医療用X線から原発まで
原書: RADIATION AND HUMAN HEALTH
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2011年9月
- 書店発売日
- 2011年9月1日
- 登録日
- 2011年8月25日
- 最終更新日
- 2011年9月2日
紹介
低線量放射線が人に与える影響について、学問的・体系的にまとめた名著の復刊。著者ゴフマンはエリートに支配されてきた科学を社会に開放し、市民が放射線の影響について計算と評価ができるようにと本書を執筆。放射線と生きざるをえなくなった私たちの必携書。
目次
謝辞
日本語版の序
単位についての注
第1章 放射線と人の健康
第2章 放射線の種類と性質
第1節 放射線のエネルギー
第2節 放射線による生態影響の仕組み
第3節 放射性崩壊の性質と測定
第4節 線量と吸収エネルギー
第3章 ガンの起源
第1節 ガンとはなにか
第2節 染色体の基礎知識
第3節 ガン細胞の染色体異常
第4節 細胞の放射線損傷とガン
第5節 染色体とガンの遺伝
第4章 放射線によるガンと白血病
第5章 放射線と発ガンの定量的関係の基礎
第1節 最大1ラド当り過剰率と追跡期間不足の補正
第6章 放射線によるガンの疫学的研究
第1節 広島・長崎のガン
第2節 強直性脊椎症の関連ガン
第3節 広島・長崎の悪性リンパ腫および多発性骨髄腫
第4節 甲状腺ガンおよび甲状腺腫
第5節 唾液腺腫瘍
第6節 脳腫瘍
第7節 皮膚ガン
第8節 骨盤内臓器ガン
第9節 職業上の被曝による放射線誘発ガン
第10節 年齢別最大1ラド当り過剰率の総合評価
第11節 広島・長崎に基づく値がもっと大きい可能性
第12節 自然放射線と医療放射線に対する補正
第7章 乳ガン
第1節 乳ガンの定量的解析
第2節 乳ガンデータの総合評価
第8章 年齢別のガン線量
第1節 年齢別最大1ラド当り過剰率
第2節 年齢別ガン線量の算出
第9章 ガン線量の具体的な適用
第1節 個人が被曝した場合
第2節 集団が被曝した場合
第3節 BEIR委員会等の危険度との比較
第10章 部分被曝と臓器別ガン線量
第1節 最大1ラド当り過剰率の共通性
第2節 臓器別ガン線量
第3節 臓器別ガン線量の使い方
第4節 複数臓器の被曝と臓器の部分被曝
第5節 ガン線量を変更する手順
第6節 ガンの発生率と死亡率
第7節 倍加線量
第11章 線量‐反応関係と「しきい値」
第1節 直線性と上に凸の曲線
第2節 低線量で1ラド当りの影響は減少するか
第3節 分割照射であれば安全か
第4節 しきい値の存在
第5節 公衆の健康
第12章 内部被曝と被曝線量の評価方法
第13章 アルファ線による内部被曝:ラジウムとラドン娘核種
第14章 人工アルファ線放出核種:プルトニウムと超ウラン元素
第15章 プルトニウムの吸入による肺ガン
第1節 大気圏核実験降下物による影響
第2節 プルトニウム被曝労働者
第16章 プルトニウム社会における肺ガン
第17章 原子力社会がもたらす被曝とその影響
第18章 自然放射線、生活用品、職業による被曝
第1節 自然放射線とその影響
第2節 工業製品や生活用品に伴う放射線核種
第3節 職業上の被曝とその影響
第19章 医療用放射線による被曝
第1節 X線:被曝線量のあいまいさ
第2節 X線:被曝線量があいまいなときどうするか
第3節 医療に用いられる放射性ヨウ素
第20章 白血病
第1節 発症追跡調査:広島・長崎データ
第2節 広島・長崎の被曝線量評価に関する重大な疑問
第3節 白血病に関する履歴比較調査
第4節 医療被曝白血病に関する3州調査
第5節 リノスらによる医療被曝白血病の研究
第21章 胎内被曝による先天的影響
第1節 非確率的影響:中枢神経系、骨格、臓器、代謝系
第2節 胎内被曝の確率的影響:ガン、白血病
第22章 放射線による遺伝的影響
第1節 はじめに
第2節 遺伝障害の種類
第3節 遺伝子・染色体病は過小評価されている
第4節 突然変異率と平衡発生頻度の関係
第5節 広島・長崎被爆生存者の子どもの若年死
第6節 放射線で誘発されるトリソミー
第7節 1世代1ラドの被曝により生じる遺伝子・染色体障害の数
第8節 不規則遺伝病の新しい解釈
付章 大きい数、小さい数、および単位のあつかい
主な放射能の特性一覧
訳者あとがき
著者紹介
参考文献
索引
前書きなど
放射能汚染と向きあう時代に―――『人間と放射線』の復刊にあたって(今中哲二)
3月11日の東北地方太平洋沖地震をきっかけに発生した,福島第1原発事故の進展を追いかけながら,「ついにチェルノブイリになっちゃった」と私が実感したのは,3月15日午前の記者会見で枝野官房長官が「2号機建屋内で水素爆発と思われる爆発音がして格納容器が破損したもようである」と発表したときである。格納容器が破壊されたということは,チェルノブイリ同様,放射能が遮るものなく大気中へ漏れ出すということであった。
(……)
福島第1原発事故によって私たちは「放射能汚染と向きあう時代」に入ったと思っている。言い方を変えるなら,日本の国土のかなりの部分が放射能汚染を受けてしまった以上,「どこまでの汚染を受け入れるのか」,「どこまで被曝を我慢するのか」と問いながら生きていかざるを得ない。そのように私が言うのは簡単であるが,普通の人々にとって“ベクレル”や“シーベルト”を理解し,“被曝のリスク”を自らで考え,“どこまで我慢するか”自ら判断するのは容易なことではない。
ゴフマンのこの本は,そうした普通の人々が,放射能汚染と放射線被曝,それにともなう健康影響リスクを“自分で考える”ことができるようになるために書かれた本である。第1章でゴフマンは次のように書いている。
放射線がガンや白血病のような深刻な影響を生じさせることは,広く認められている。一方,それは次の二つの主張によって絶えず攻撃されている。その主張が誤りであることを示す膨大な科学的知見にもかかわらずである。
1.「そのとおり,放射線は本当に有害な影響をもっています。しかし,それは線量がきわめて高いときだけです。低レベルの放射線の影響は知られていないのです。」
2.「本日,放射線漏れがあった。しかしその量は少なく,公衆への障害はないであろう。」
科学者も,公衆衛生の行政官も,技術者も,医師も,ジャーナリストも,誰もかれもがこのような主張には本当に当惑する。私や他の学者が,低線量放射線の影響は知られており,証拠によっても論理によっても放射線に安全量はない,と断言するのを読んだり聞いたりしていれば,とくにそうだろう。誰を信じればいいのだろうか。
私はこの疑問に対して,わかりやすい答えを用意している。いまや誰もが吟味できる証拠があるのだから,専門家を信じる以外にないという状況はなくなった。何らかの権威を信じるのではなく,証拠が考えの基礎にならなければならない。私はこの本において,人間に関する証拠の現状すべてを示すように努めた。そのためには,最高の科学的基準を満足させることが重要である。それは単に証拠と結論のみを示すのではなく,両者を関係づける根拠をも示すことである。かくて読者は,得られた結論を独自に検証できるのである。私としては,健康影響のすべての計算と評価を,読者自身が導くことができるようにしておきたい。
この本の原書が出版されたのは1981年で,私たちの翻訳本が出たのは1991年であった。この本でゴフマンは,当時のあらゆる証拠に照らして被曝量とガン死の関係についてのモデルを設定し,利用できたすべての疫学データを適用し,放射線被曝にともなうガン死リスクは,全年齢男女平均で270ラド(2.7シーベルト)当たり1件と見積もっている。このリスクは,1ミリシーベルトでガン死が0.37%増加することに相当し,当時のICRP(国際放射線防護委員会)によるリスク見積もりの約40倍であった。
ゴフマンが最も重視した疫学データは,12万人の広島・長崎被爆生存者を対象に放射線影響研究所が実施している寿命追跡調査(LSS:Life Span Study)である。ゴフマンが利用できたのはLSS調査第8報(1950-1974)であるが,彼の評価のすばらしさは,1974年までのデータを基に,将来発生するであろうガン死を含めた“ガン死影響全体”を見積もっていることである。もちろん,その後のLSS調査結果は,ゴフマンのモデル通りの結果を示しているわけではない。LSS調査の最新報告(1950-1997)に照らして,ゴフマンモデルとの違いをあげるなら,若年時被爆者の相対ガン死リスク(被曝のない人に比べてガン死が何倍か)の大きさが到達年齢(ガン死が起きたときの年齢)とともに減少していること,被爆から40年を越えても過剰ガン死の減少が認められないこと(被曝から40年後が過剰ガンのピークになるというのがゴフマンモデル)の2点である。前者はゴフマンモデルがいくらか大きめに,後者はいくらか小さめにガン死リスクを見積もっていることにつながっているだろう。といって,ゴフマンの仕事の価値をいささかも損ねるものではない。
(…後略…)
追記
訳者からのメッセージ
〈今中哲二〉
「放射能汚染と向きあうための知恵を私たちに提供してくれる本。放射能汚染と放射線被曝、それにともなう健康影響リスクを「自分で考える」ために」
〈小出裕章〉
「被曝とは何かを知るための必須にして最高の本。そのうえ、科学的とはどういうことかも教えてくれる。今このときの再刊をありがたく思う」
上記内容は本書刊行時のものです。