発行:明石書店 この版元の本一覧
四六判 236ページ 並製
定価:2,200円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2911-6 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2009年01月 書店発売日:2009年01月16日
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病気/健康、男/女、老/若、日本人/外国人、異性愛/性的マイノリティ等、私たちのアイデンティティを形成し自身を分断するさまざまな境界線について問いなおす。様々な分野の研究者が領域横断的に取り組んだ横浜国立大学教育人間学部連続講義を書籍化。
目次
第1章 「子どもの世紀」という逆説——「子ども」を大人から差異化する視線(高橋勝)
はじめに
1 「子ども」を大人から差異化する〈まなざし〉
2 進歩思想に支えられた近代学校
3 不登校の増加と一元的発達観の限界
4 重層的発達観と多世代の共生ー結語にかえて
第2章 心の病の境界線(石垣琢麿)
1 心の病
2 正常と異常とを分ける四つの基準
3 疾患と病気
4 幻覚を考える
5 まとめにかえて
第3章 中国医学における精神と身体(長谷部英一)
はじめに
1 中国医学における身体の基本的概念
2 中国古代における「こころ」
3 中国医学における精神疾患
4 鬼と交わる
おわりに
第4章 「国語」という装置とナショナリズム(府川源一郎)
1 制度やモノが作りだした近代教育の「差異」
2 言語教育に関わる「差異」
3 「国語」が作りだした「差異」と「境界線」
4 訛音矯正の思想
5 「方言」との共生へ
第5章 性差はどう語られてきたか——世紀転換期の日本社会を中心に(加藤千香子)
はじめに
1 性差に関する科学的言説の登場
2 「良妻賢母主義」と性差の科学
3 「新しい女」論争と生物学
4 性の科学と女性
5 「性」の科学と優生学の時代
おわりに
第6章 エスニック・マイノリティとフランス共和主義——移民とコルシカを事例に(長谷川秀樹)
はじめに
1 フランスにおける移民
2 フランスにおける領域的エスニック・マイノリティとコルシカ
3 エスニック・マイノリティとその差異を否定する共和主義
第7章 「青少年問題」という視線——サキ「話し上手な男」を題材に(渡部真)
はじめに
1 「話し上手な男」と「伯母さん」
2 「青少年問題」の諸相
第8章 フェミニズムの他者——外部の他者/内部の他者〈化〉(金井淑子)
1 マジョリティの女を相対化する語り
2 マイノリティとは誰か? 誰がマイノリティを構築しているのか?
3 セクシュアル・マイノリティという他者の表象、フォビア
4 「第三世界の女性」という他者表象
5 マイノリティの中の差別・排除——ある在日韓国人レズビアンの怒り
6 差異の境界線とアイデンティティの複数性
7 「理解のエポケー」の少し先に
第9章 〈自然〉を脱構築する——オスカー・ワイルドと同性愛のポリティクス(宮崎かすみ)
はじめに——〈自然〉の隆盛と〈嘘〉の衰退
1 〈自然〉の降盛と〈人為〉の失墜
2 ワイルドの同性愛ポリティクスと〈自然〉
3 自然の覇権と生物学のアポリア
4 ルソーの〈自然〉と〈内面的自己〉の発見
5 ワイルドによる〈自然〉の脱構築
6 性的欲望が〈自然〉化される
おわりに——〈自然の愛〉と〈自然に反する愛〉
前書きなど
はじめに—境界線を問いなおす
男/女、大人/子ども、日本人/外国人、異性愛/同性愛、健常者/障がい者、などなど、わたしたちの認識の基盤にあるこうした二項対立。わたしたちはこうした対立的概念を何の疑いもなく受け入れ、それに基づいて思考し、「他者」と「わたしたち」の間に線を引いて「わたし」のアイデンティティを組みたてている。だが、近年の人文科学は、以下のようなことをわたしたちに突きつけてもいる。こうした概念の形成とて、その多くは、西欧近代が国民国家として編制されたとき、「市民」を定義するために措定しなくてはならなかった「市民ならざるもの」を「他者」としてつくりあげたことに由来する、きわめて歴史的かつ近代的な現象にすぎないのである、と。そうすると、わたしたちは歴史的にたかだか数百年来の概念をフレームにして思考していることになる。それを人間性の本質だとさえ思い込まされている。
本書は、教育学、精神医学、歴史学、社会学、フェミニズム、文学研究などの知見から領域横断的に、種々のカテゴリー概念と、そのカテゴリーを形成する境界線を問いなおしてみようという思いから、異なる分野の専門家によって紡がれた論考集である。さまざまな「他者」をつくる境界線について、それぞれの分野から光を当てたらおもしろいのではないだろうか。そしてそれを一冊の書物にまとめることによって、民族、階級、性差等といったさまざまな問題とて、その根っこは一つであり、過去の時代や現在の他の問題とも絡まりあって現在の状況がつくりあげられていることが明らかになるのではないか。そうした思いがこの本をつくるきっかけとなった。異なる分野の思考をぶつけ合うことで、わたしたちがそのなかで生きている、というより生きるほかない「制度」の構造を俯瞰する視点を、いくらかでも読者にもたらすことができれば、本書にとってそれ以上の望みはない。
(…中略…)
本書におさめられた論考はいずれも、わたしたちのアイデンティティを形成するのにかかわるいくつかのカテゴリー概念について、その境界線を、笑い飛ばすとまではゆかずとも、せめて妥当性を問いなおしてみようという動機から書かれている。異なる分野からの眼差しゆえ、論者の意見が完全に一致するわけではないこともある。だが、すべての論考の根底にあるのは、概念の境界線に揺さぶりをかけてやろうという知的冒険心であり、その境界線が引かれることで被害の立場におかれる人々(自らも含めて)への理解と共感であり、これらことごとくの境界線の集積である言語というものによって認知を行う人間の知性に対するひそやかな疑念である。そして願わくば、そこからくる謙虚さをも。
本書で扱っている問題は、恣意的に選ばれたごく一部にすぎない。以降、さまざまな切り口による続編が書き継がれてゆくことを第一作の編者として心待ちにしている。
(…後略…)
著者プロフィール
宮崎 かすみ(ミヤザキ カスミ)
横浜国立大学教育人間科学部准教授(英文学・思想史)
[主な著書・訳書]
『百年後に漱石を読む』トランスビュー、2009年(3月刊行予定)。
金井淑子編『身体とアイデンティティ・トラブル−ジェンダー/セックスの二元論を超えて』明石書店、2008年(金井と共著)。
John Arnold and Sean Brady eds. What is Masculinity? Historical Perspectives and Arguments, Palgrave Macmilan, 2009 (Forthcoming).
橋本槙矩・高橋和久編『ラディヤード・キプリング』松柏社、2003年(共著)。
アルベルト・メルッチ『現在に生きる遊牧民—新しい公共空間の創出に向けて—』岩波書店、1997年(共訳)他。
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