カナダのメディア・リテラシー教育
上杉 嘉見
発行:明石書店
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A5判 268ページ 上製
定価:6,200円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2717-4 C0037
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年02月
書店発売日:2008年02月15日
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紹介

メディア・リテラシー教育とは、マスメディアが個人と社会に対して持つ意味を批判的に検討し、その公正なあり方を模索する学習活動のこと。その先進的な実践を行っているカナダにおけるメディア教育を主題とし、社会的背景と特徴を鋭く分析した意欲作。

目次

はじめに

第1章 メディア・リテラシー論の誕生
 第1節 「低俗メディア」批判
 (1)リーヴィス主義による大衆文化批判モデル
 (2)映像の教育利用の可能性
 (3)「良質なメディア」への姿勢の転換
 第2節 イデオロギー、表象、オーディエンスへの注目

第2章 英国のメディア教育と情報社会への順応
 第1節 メディア教育の制度化の功罪
 (1)ナショナル・カリキュラムにおける位置
 (2)英国映画インスティテュートの構想
 第2節 経済資源としての期待
 (1)映画への執着
 (2)映像教育の教材開発
 第3節 批判的メディア教育学の終焉?
 (1)オーディエンス中心の方法論
 (2)制作活動の重視

第3章 オンタリオが目指す新たなリテラシー
 第1節 もうひとつの「アメリカ」のプロフィール
 (1)カナダ国民の形成
 (2)戦後オンタリオの政治
 第2節 映画教育からメディア・リテラシー教育へ
 (1)映画教育の隆盛
 (2)テレビ時代の危機意識
 第3節 メディア科の出発
 (1)『リソースガイド』の成立
 (2)混迷するアプローチ
 第4節 英語科における周辺性
 第5節 現職教育の展開
 (1)専門資格認定コース
 (2)教育委員会によるワークショップ

第4章 メディアの教科書が見る世界
 第1節 マスメディアへの視点
 (1)『マスメディアとポピュラー・カルチャー第二版』の先進性
 (2)コード/価値観/産業/オーディエンス
 (3)ジャンル、ジェンダー、暴力表現の分析
 第2節 ポピュラー・カルチャー
 (1)ポピュラー・カルチャーの定義
 (2)ショッピングモール
 (3)ファーストフード
 第3節 ジャーナリズム
 (1)情報統制とプロパガンダ
 (2)ショーアップされたニュース報道
 第4節 広告
 (1)広告の技術
 (2)学校におけるマーケティング
 (3)カルチャー・ジャム
 第5節 英語科教科書における取り組み

おわりに


資料
参考文献
索引

前書きなど

はじめに(一部抜粋)

(…前略…)
 二〇〇一年の新学期、州都トロントの市内に位置するモナーク・パーク高校のメディア・リテラシーの授業は、メディアに表れた身体イメージを性や人種、社会・経済的な観点から分析するという課題を設定していたが、その直後の九月一一日を境に、教師はテーマを「メディアと戦争」に切り替えた。読み解く対象は、事件現場の惨状や遺族の悲愴、そして米大統領の発言を連日報道するメディアであり、それらが表象する社会の戦争的状況であった。筆者が観察したその授業からは、明らかに、報道とそれが埋め込まれた社会の現実に対する批判の意識が感じ取れた。
 しかしながら、後述するように、日本におけるオンタリオのメディア・リテラシーの考え方に向けられる評価は、吉見のような肯定的なものばかりではなく、そもそもそれはかならずしも正確に理解されているとは言えない。
 日本では、民主主義の根幹を揺るがしかねないマスメディアに対して常に警戒を怠らないというような現代世界からの要請は、学校とそれを支援する研究者によって十分に受けとめられていないどころか、拒絶される傾向にある。民主主義の擁護者としての期待を盾に取りつつ、実際にはその基礎を掘り崩してもいるマスメディアという権力に対して、教育は従順あるいは無関心という態度を示しているようにも見える。そして、その一方で、デジタル機器を活用したメディア作品の制作活動の重要性がおそらく必要以上に強調されている。ここに、日本の学校を取り巻く保守的な社会環境、あるいは政治的な思考を忌避する文化が作用していることが認められよう。
 こうした問題意識に基づき、本研究はメディア社会の現実を直視する必要性を日本のメディア教育に訴えることを目的とし、そのために、生徒の批判的認識の形成に努めているカナダの姿を、オンタリオ州の事例に焦点化して描き出すことを課題とする。
 オンタリオは、世界に先駆けてメディア・リテラシー教育を教育課程に正式に位置づけたことでその名が広く知られているが、その取り組みは程なく全国に普及した。現在は、メディア・リテラシー教育を推進する各州の教員団体を統括するカナダメディア教育協会(Canadian Association for Media Education Organizations)が設けられ、ブリティッシュ・コロンビア、アルバータ、サスカチュワン、マニトバ、オンタリオ、ノバスコシア、ニューブランズウィック、ニューファンドランド・ラブラドールに加えて、フランス語圏のケベックの教員らも参加している。これらは、全国一〇州・三準州のうちの九州に当たる。
 このように国内外から注目されることが多いオンタリオであるが、当然のことながらそこでの実践もさまざまな問題を抱えている。それは、これから本書が明らかとするところである。
 そのような問題も含めて、オンタリオから私たちが学ぶべきことは少なくないであろう。無数のメディアに囲まれて暮らす私たちの未来は、そこからどれだけのことを学べるかにかかっていると言っても言い過ぎではない。
(…後略…)

著者プロフィール

上杉 嘉見(ウエスギ ヨシミ)

1975年生。東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター講師。博士(教育学)。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2006年より現職。主な論文に、「カナダ・オンタリオ州におけるメディア・リテラシー教育の発展過程——社会批判的カリキュラムの追求と限界」(日本教育学会『教育学研究』第71巻第3号、2004年)、「アメリカの食育に見るコマーシャリズム——学校の市場化に対する批判的検討」(『アメリカ教育学会紀要』第18号、2007年)など。

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