赤いコートの女
宮下 忠子
発行:明石書店
この版元の本一覧
四六判 332ページ 上製
定価:1,600円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2708-2 C0095
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年01月
書店発売日:2008年01月25日
※送料は無料です
※版元より営業日2~5日でお届けします
※お支払いは郵便振替(到着後後払い)・クレジットカード(VISA、MasterCard、DC、JCB、AMEX、Diners、Nicos、UFJ)がご利用になれます

紹介

様々な事情を抱え路上生活に堕ちながらも気高く生きる女たち。永くその支援に奔走してきた筆者は、彼女たち一人一人に寄り添いながら自分に何ができるか、社会には何が必要かを探ってゆく。女性たちの生き様と筆者の温かな眼差しが心に響くノンフィクション。

目次

プロローグ

赤いコートの女
黒いジャンパーの女

エピローグ

あとがき

前書きなど

プロローグ

 灼熱の太陽が、汗ばんだ体にへばりつく。
 汗を拭きながら職場の入口に入ろうとした瞬間、
「ねえっ! そこ行く姉さんよっ! 気取るんじゃねぇよ。あんただって私と同じもの持っているんじゃねえか!」
 背後から、酔った女性の罵声が投げ掛けられた。
 その声に愕然とした。私は立ち止まり、振り返った。夏の蒸し暑い一夜を野宿した男たちの中に見知らぬ中年女性がいた。その女性は、振り返った私と目線が合うと、自嘲的な笑いを浮かべながら酔った手を振った。そして、また男たちの輪の中に身を崩した。
 その時、私は震えていた。「そう、あんたの言う通りなのだ」と心の中で呟いた。底の見えない奈落の底に堕ちていく女性の現状を目前にしながら、同じ性を持つ私はどう行動すればよいのかと最も悩んでいた時だった。彼女は、私の心を見透かしているのだろうかとさえ思えた。さらに、私に助けを求めている叫びだろうかとも思った。私は震えを抑えながら、
「ねぇ、話においでよ。待っているよ」
 と、男にもたれているその女性に、少し姐御っぽく言った。

 一九七五年から東京都城北福祉センター(現、財団法人城北労働・福祉センター)で医療相談員として働いた。生活相談をしたり緊急患者を乗せた救急車に添乗する仕事では、相手はほとんどが日雇い労働をする男性であった。
 一九五八年に売春防止法が実施された。この法によって、売春を行う、またはその可能性のある女性を婦人相談員(現、女性相談員)が指導援助し、保護更生させるという活動が続けられてきた。私の職場は、旧遊郭、吉原に隣接していたので、簡易宿所街の路上には、旧吉原から流れてきた女性を含めて、一時は街娼が八百人を超えた。当時この地域の婦人相談員であった丹あや子さんは、夜を徹して困窮した女性の救済に走り回ったという。私が路上の女性に出会うようになった時には、売春防止法成立から二十年の歳月が経過していた。当初は、地域の福祉事務所から婦人相談員が派遣されていたが、女性の生活相談が減少していたのを理由に福祉事務所へ戻っていき、その後は私が女性の生活相談をする事もあった。目前にいる少数の女性の現実は、社会状況の変化に流されながら過酷であった。その背景も中身も複雑化していた。
 たまに現れる女性の生活相談者の主訴を聞いた上で、該当する福祉事務所に措置依頼書を書いて向かわせるのだが、翌日、再び路上で当人に出会いがっかりすることもあった。路上にいる女性には矯正的な要素の強い施設入所という保護のあり方が馴染めない人もいた。それは、根底に女性差別があることを敏感に感じ取った彼女たちの、社会構造からの逃走なのではないかと思えた。生活苦から、買い物籠をぶら下げた主婦や若い女性が夕闇迫る街灯の下に立つと、町民は法を犯す者として排除する。まるで街のゴミを排除するかのように。
(…後略…)

著者プロフィール

宮下 忠子(ミヤシタ タダコ)

 一九三七年生まれ。大学卒業後、高校教諭を経て、都立社会事業学校卒業。一九七五年から東京都城北福祉センターの医療相談員となる。その間、アルコール依存症回復者と「アルコール問題を考える会」「コミュニティワーカー制度を考える会」を組織する。九五年に退職。現在は、路上生活者たちへの巡回相談などボランティア活動、執筆活動を精力的に続けている。一九九六年二月二〇日「心の賞」受賞。
 元東京都精神保健センターアルコール問題家族教育プログラム講師、元日本ジャーナリスト専門学校講師、元ハンセン病・国家賠償請求訴訟を支援する会会員、等。
〈主な著書〉
『隔離の里——ハンセン病回復者の軌跡』大月書店、一九九八年
『ミニー神父とアルコール依存症者たち——やさしいアメリカ人』東峰書房、一九九六年
『山谷曼陀羅(ヤママンダラ)』大修館書店、一九九五年
『全盲の母の記録——堀木文子の半生』晩声社、一九八〇年
『山谷日記』人間の科学社、一九七七年、など多数。

※送料は無料です
※版元より営業日2~5日でお届けします
※お支払いは郵便振替(到着後後払い)・クレジットカード(VISA、MasterCard、DC、JCB、AMEX、Diners、Nicos、UFJ)がご利用になれます


タグで関連している本:

コメントとトラックバック »

まだコメントとトラックバックはありません

TrackBack URI : http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7503-2708-2.html/trackback/

コメントをどうぞ

お寄せいただいたコメントは、当サイトに掲載されますが、内容によっては削除させていただく場合がございます。なお、コメントへの回答は原則としていたしておりません。当サイト・著者・各版元へのお問い合わせの際は、お問い合わせフォームをご利用下さい。

▲ページの上端へ