発行:明石書店
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四六判 316ページ 上製
定価:2,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2699-3 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年01月
書店発売日:2008年01月09日
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メルボルン大学の卒業パーティで起きたとされるセクハラ事件。被害の女子学生が告訴したのは学寮長だった。この一見単純な事件の背後でうごめくフェミニスト陣営と男性社会権力者の思惑に翻弄される著者が見たものは。現代社会の性と権力の問題をえぐる著者渾身のルポ。
目次
序
セクシュアル・ハラスメント 性と権力の迷宮(ラビリンス)
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき(抜粋)
本書『セクシュアル・ハラスメント 性と権力の迷宮』(原題" THE FIRST STONE: Some questions about sex and power ")は、オーストラリアの伝統ある名門カレッジ(学寮)で起こったセクシュアル・ハラスメント事件のルポルタージュである。
若い二人の女子学生がカレッジの学寮長にセクハラされた、と警察に駆け込んだことから強制猥褻事件となるが、両者の証言は真っ向から対立し、真相は藪の中。ヘレンはこの事件を新聞報道で知り「なぜ二人が警察に行ったのか?」と疑問を持ち、その理由を探るため、藪の中に敢然と攻め込む。その結果、事件の背後には学内の権力抗争、名門大学、学寮の男性中心の社会がひとつの温床ともなった強力なフェミニストの存在、そして彼女たちによる二人の女子学生の支援——ひいては男性権力集団に対する反発、闘争が事件と密接に複雑に絡み合い、当事者のみならず多くの人々が大きなうねりに呑み込まれ、事件がエスカレートしていくさまが浮き彫りにされる。本書のテーマは、サブタイトルSome questions about sex and powerにあるように、「性(セックス)と権力(パワー)」についての幾つかの疑問、問いかけである。このストーリーは、セクハラは権力の濫用、権力の行使とする新フェミニストたちと、この考え方に疑問を持ち、性と権力は複雑に絡み合い、もつれ合い、簡単にほどけるものではないとの信念を持つフェミニスト、ヘレンとの対決を軸に展開する。
片や、性差別禁止法、セクハラは犯罪であると法で保護されている世代であり、片や、セクハラあるいはそれ以上のことに、法律の後盾なしに自らの力で果敢に立ち向かってきた百戦練磨の世代である。
オーストラリアでは、二〇〇七年十一月二十四日の総選挙で労働党が、ハワード首相率いる保守党連合(自由党と国民党)から十一年ぶりに政権を奪回した。
この事件の起こった一九九一年は労働党政権下(一九八三—九六年)であったが、労働党は女性の地位向上をスローガンに八三年政権の座に就くや、矢継ぎ早に女性政策を強力に推進した。現在の女性政策の核心がつくられたと言っても過言ではなく、八四年には「性差別禁止法」(連邦法)が制定されセクハラは一種の差別として違法となった。この法は職場はもちろんのこと、教育、コミュニティーなどほとんどの社会生活で男女共に適用される。九二年に幾つかの大きな修正が加えられたが、特にセクハラ条項に大きな修正があり(詳しくは拙著『オーストラリアの女性』〈ドメス出版、一九九七年〉を参照されたい)、セクハラの被害を受けることが多く、弱かった女性の立場を強固なものにした。
事件はこうした社会情勢を背景に起こったのだが、本書が一九九五年三月出版されるや、ヘレンの考え方に理解を示し支持する人たちと、新フェミニストを中心にセクハラは権力の行使とする人たちとの間で一大論争が巻き起こった。ヘレンの取材に一切協力しなかった大学、学寮関係のフェミニストを中心とする人たちは、
「ヘレンはフェミニズムを二十年も逆戻りさせた」
「フェミニストの大義を裏切った」
「他人の不幸で暴利をむさぼっている」
などと激しく非難する一方で、この本を「読まない」「買わない」のが正しい姿勢だと檄を飛ばした。
にもかかわらず、この本はベストセラーになった。そしてヘレンの許には、穏健なフェミニストを含む多くの人たちから好意的なメッセージが数多く寄せられ、また自らのセクハラ体験を綴った手紙も続々届けられた。
読者は老若男女を問わず広範囲にわたり、男女の比率はおおよそ三五%対六五%だったという。
ベストセラーの要因は幾つか挙げられるが、そのひとつはセクハラ事件、セクハラ問題を興味本位ではなく、ひとつのテーマの下、これだけ徹底的に追求した類書はないということである。セクハラ事件は申立人も申し立てられた側も、裁判の結果はともあれ、深い傷を負う現実を含め示唆に富んだストーリーは、セクハラ問題を改めて考える書として多くの人々の共感を呼ぶ。
二人の女子学生に対するインタビューの切望(結局最後まで実現しなかった)をはじめとして取材するヘレンの前には、厚い壁が立ちはだかり、結果的に、特定の事件としてではなく普遍的な問題として描くことになった。しかし、そのためかえってセクハラ事件、セクハラ問題を、幅広い社会的背景、視点で総体的にとらえたわかりやすい作品となっている。スケールの大きな骨太のストーリーを支える土台は、事件の関係者、周辺のさまざまな人物への執拗なまでの徹底的な取材である。
この豊富な素材、鋭い観察、事件をめぐる人々の微妙な心理の動きに加えて、赤裸々な自らの体験の告白や、曝け出した内面の葛藤を交えて縦横に綴る迫力は、精緻な描写、華麗な筆致と相俟って人々をぐいぐいストーリーに引き込む。
前述のように本書のサブタイトルは、「性と権力についての論争」ではなく「性と権力についての幾つかの疑問、問いかけ」である。
そして、答えより疑問、問いかけの方が遙かに多い。
男女、年齢、職業を問わず、本書を繙くすべての方々が、随所で立ち止まり、答えを模索し、セクハラ問題といま一度真剣に向き合ってくだされば、訳者の喜び、幸せこれに過ぎるものはない。(…後略…)
著者プロフィール
ヘレン・ガーナー(ガーナー,ヘレン)
1942年生まれ。現代オーストラリアを代表する作家・ジャーナリストの1人。主な作品として、小説にMonkey Grip (1977), Cosmo Cosmolino (1992)、ノンフィクションにThe First Stone (1995), Joe Cinque's Consolation (2004)、脚本にTwo Friends (1986)などがある。
石橋 百代(イシバシ モモヨ)
日本女子大国文科卒業。日本テレビ報道局外報部記者を経て、フリーランス・ジャーナリストに。著書『オーストラリアの女性』(ドメス出版、1997年)。
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