書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
チョムスキー 21世紀の帝国アメリカを語る
イラク戦争とアメリカの目指す世界新秩序
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2004年4月
- 書店発売日
- 2004年4月30日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
21世紀の「帝国」として一極支配の世界を推し進めるブッシュ・アメリカの野望を世界を代表する言語学者が透徹した視点から鋭利に分析する。イラク戦争開戦に向けて,戦争以後の世界について,ブッシュ・アメリカはどのような虚偽を並べ立てているのか。
目次
訳者まえがき
1 イラク戦争後
1 恣意的・選択的記憶と不誠実な政策原理――サダム・フセイン拘束の後に
2 米国はイラクに民主主義をもたらすか
3 イラク戦争と民主主義への軽蔑
4 “最高の犯罪”としての予防戦争――イラク侵略は不名誉なものとして残るだろう
5 プロパガンダの過去と未来
6 何が起きつつあるのか
2 イラク戦争前
7 重大な危機の中にあるクルド人――ロンドン・セントポール寺院での講演から
8 対イラク戦争――他国の政権を転覆する権利があるのか
9 米国の干渉・介入――アフガニスタンからイラクまで
10 緊迫するイラク問題
11 ひび割れた鏡――「テロの時代」への重大な疑問
12 トルコで中東平和の見通しを語る――トルコ・ディヤルバクルでのクルド人に向けての講演
解説 イラク戦争の前と後――テロ「帝国」アメリカの目指す世界新秩序
前書きなど
私はこの数年、インターネットに載せられているチョムスキーの発言を翻訳し、私の管理するホームページ「平和研究翻訳博物館」で紹介することを続けてきました。本書は、その中のイラク戦争に関するものを選んで時系列に並べ直したものです。 時系列といっても新しいものから古いものへと順に並べてあるので、チョムスキーが現在のイラク情勢をどのように分析し何を発言しているのか、その発言は情勢に応じてどのように変わったのか(あるいは変わらなかったのか)を知ることができます。 本書を通じて読者の皆さんは一般のメディアでは知ることのできない米国の姿を知って驚愕されるかも知れません。だからこそチョムスキーは、米国では「非国民」扱いで主流メディアには滅多に登場させてもらえないのですが、彼の講演会には驚くほどの人が集まります。その理由も本書で納得されるのではないでしょうか。 この翻訳はインタビュー、講演、論文から成っていますので、内容的に重複しているところが少なくありません。しかし、本書の良さはそこにあるのではないかと私は密かに思っています。というのは彼の畏友イクバール・アフマドはバーサミアンのインタビューでチョムスキーの魅力として「ねばり強さ」「首尾一貫性」「独立不羈の精神」の三点をあげ、「首尾一貫性」について次のように述べているからです。(『帝国との対決:イクバール・アフマド発言集』太田出版) 「首尾一貫というのは、いうまでもなく、反復を意味します。過去二十年間、チョムスキーは何度も自己反復してきました。彼が言語学においてはしないことです。……私は彼から説得力のある次のような真実を学びました。すなわち真実はくりかえさねばならないという真実です。一度語られたからといって、そのことが陳腐なものになるわけではないでしょう。だから反復しつづけるのです。誰が耳を傾け、誰が無視するかなんて、気にしていてはだめです。メディアあるいはその他の権力機関の抵抗は強力なので、一度真実を語っただけでは十分ではないと彼は知っていました。さまざまな事実をくりかえし提示しつづけ、同じ主張を裏付けねばならないのです。……反復の力を軽視してはいけないのです」。 チョムスキーの創始した生成文法の理論が常に変転を重ねてきたことを知っている人にとっては、バーサミアンが前記でチョムスキーの首尾一貫性=反復を指して「彼が言語学においてはしないことです」と述べていることは、私にとってとりわけ興味深く思われました。一度読んでも理解できなかったことが反復して述べられていることで、少なくとも私には、新しい発見となったことが少なくなかったからです。しかも、一見、重複しているように見えますが、注意深く読めば、そこに新しい事実がさりげなく挿入されていて、それが私にとって尽きない興味の源泉でした。 またチョムスキーを通じて、湾岸戦争からイラク戦争までイラクとアメリカがたどってきた軌跡を辿っているうちに、私はまるで現在の北朝鮮と日本の関係を見ているような錯覚さえ覚えるほどでした。というのは湾岸戦争で侵略された隣国クウェートでさえフセインを脅威とは見なしていないのに遠く離れた米国ではメディアによって悪魔化されたフセインに多くの国民が恐怖におののいていたのです。その姿は、陸続きの韓国が金正日にほとんど何の恐怖もいだいていないのに日本海をへだてた国の民がテポドンにおびえている姿とどうしてもダブってきてしまうからでした。 また、ミラン・ライ『イラク攻撃を中止すべき10の理由』(NHK出版)によれば、イラクでは湾岸戦争以来の経済制裁で、食料や医薬品などが手に入らないだけでなく、経済復興の遅れ・電力設備の復旧の遅れ・清潔な飲料水の供給不足などのため、五十万人の子どもの命が奪われたと言われています(ユニセフの幼児死亡率から推計)。日本では最近、「北朝鮮にたいする経済制裁」などが声高に叫ばれ始めていますが、現在でも飢餓状態にある国をこれ以上の荒廃に追い込んでどうなるのだろうかと、イラク情勢を知れば知るほど胸が痛くなるのです。 そんなわけで本書はイラク情勢を知るために役立つだけでなく、日本が今後どのような姿勢で北朝鮮問題とつきあっていったらよいのかを考えるヒントも与えてくれるのではないかと思うのです。なぜなら、本書のチョムスキー発言や前記『イラク攻撃を中止すべき10の理由』(原題『War Plan Iraqイラク戦争計画』)を読んで、アメリカが国連によるイラクの査察を拒んだり、タリバンによるビンラディンの引き渡しを拒んだりしたのと同じ事態が、北朝鮮問題でも進行しているのではないか、と少し立ち止まって考えるゆとりが私に生まれてきたからです。 チョムスキーは本書で「為政者が常に狙っているのは、国民を不安に追い込み、国民の目を生活・経済問題からそらすことだ」と述べています。本書が、映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』で描かれたような米国=恐怖社会に日本が追い込まれないための、心の「予防戦争」の書となることを願ってペンをおきます。二〇〇四年三月一日寺島隆吉
上記内容は本書刊行時のものです。