発行:現代人文社
この版元の本一覧
A5判 200ページ 並製
定価:2,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-87798-338-3 C3030
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年06月
書店発売日:2007年06月12日
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紹介
「人権教育のための国連10年」(1995〜2004年)を終えて、アジア・太平洋地域でも人権教育が急速に広がった。そこから見えてきた問題点と課題を検証する。
目次
第1部 人権をどう教えるのか:「人権」の共通理解と実践
人権教育の系譜:人権の実現をめざす国際連合の理論と実践(白石 理)
日本における人権教育のこれまでと課題:国際人権法の位置づけについての再考(大谷美紀子)
日本における人権教育の 「制度化」をめぐる新たな問題(阿久澤麻理子)
生徒の権利と人権教育:台湾の経験(林佳範)
韓国国家人権委員会:学校の人権教育の最前線を行く(イ・スンミ)
学問領域としての人権:挑戦と好機(ブダデブ・チョウドリ)
アジアの学校における人権教育の状況(ジェファーソン・プランティリア)
第2部 アジア・太平洋地域の人権の動向
2006年の国連の動き
条約委員会による2006年のアジア・太平洋地域国別人権状況審査
女性差別撤廃委員会による個人通報に関する見解 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(中井伊都子)
障害者権利条約とその選択議定書について(川島 聡)
先住民族権利宣言の採択延期(藤岡美恵子)
資料1●社会権規約委員会一般的意見17
資料2●社会権規約委員会一般的意見18
資料3●子どもの権利委員会一般的意見7
資料4●子どもの権利委員会一般的意見8
ユネスコ「反人種主義・差別撤廃アジア・太平洋地域都市連合」発足(藤本伸樹)
前書きなど
はじめに
2007年版『アジア・太平洋人権レビュー』が人権教育をテーマとして取り上げることには、重要な意味がある。ポスト冷戦期の国際社会を、人権を柱に再構築するよう方向づけた1993年の世界人権会議において、人権の普遍性が「再確認」され、人権教育の推進を明記した「ウィーン宣言および行動計画」が171カ国の合意を得て採決されて以来、すでに十数年が経過した。この間に実に多くの国々が人権教育を「制度化」(institutionalization)し、公教育や、公的機関で働く人々の教育・研修プログラムの中に、人権教育を統合するようになった。こうした発展を振り返り評価を試みることは、まさに「いま」必要とされていることである。
ただし、人権教育の制度化を手放しで評価するだけでは不十分である。というのも、人権教育が国家政策の一部となり、市民を対象に実施されるようになると(その代表格は学校教育)、国家による人権教育の読み替えも起こるようになったからである。
人権の主体は市民である。したがって、市民が自らの権利を学び、権利の主体としての意識を高め、その実現を求めて行動することを促すことが市民にとっての人権教育であるのだが、このような人権教育は国家の側にしてみれば、市民の国家に対する要求をいたずらに刺激し、国家の市民に対するコントロールを弱めるものともなりかねない。そのため制度化された人権教育では、権利そのものを教えることが回避されやすく、価値や道徳が強調され、表面的な憲法教育が人権教育に置き換えられやすい。
そこで各国の市民は、制度化された人権教育が安易に読み替えられないようにモニターし、市民社会の視点に立つ人権教育を常に提案し続ける役割を負っている。また市民のニーズと提案が反映されるシステムづくりも重要である。
こうした問題意識から、本年度のレビューは、ポスト冷戦期における人権教育の「制度化」の進展に焦点を当てることにした。とりわけアジア・太平洋地域では、学校における人権教育の制度化が急速に進んだが、ヒューライツ大阪の先進的なプロジェクトの成果によって、このことを議論することのできる広範な人材のネットワークがすでに形成されている。そこで本書はこのネットワークを活用し、各国の研究者・実践家から、とりわけ学校教育における人権教育の問題と、その解決のための具体事例を紹介してもらうこととした。
台湾では、儒教的な価値観や権威主義的な学校の体制への挑戦として、生徒の「権利」に焦点を当てた法(関連)教育が始まっている。また韓国では、国内人権機関が学校の人権状況等を調査し、政府に対して勧告を行うなど、学校教育の「モニター役」を果たしている。興味深いのは、どちらの国でも、生徒の髪型や作文の内容への教員の介入が問題となり、生徒の表現や思想信条の自由が、学校における人権問題として議論されていることである。学校は「民主主義の中にある全体主義の飛び地」と台湾のリンがいみじくも表現しているが、生徒の基本的自由と参加・自己決定などの「人権」が、校門の中では制限を受けて当然だという考え方を問題にしなければ、国家(あるいは公教育の場としての学校)が、人権教育を恣意的に読み替えることの問題点も理解できまい。
もちろん、グローバル化の進展と競争の激化、格差社会の問題が指摘される今日、経済的・社会的な権利の保障、平等な社会の維持も重要な課題である。しかし、そのことを強調するあまり、市民の基本的な自由を軽視することは危険である。競争に勝ち残る強い社会を求める市民の心理が、全体主義的風潮を強化しつつある今日、民主主義の原則が置き去りにされてしまうからである。冷戦後の民主化運動を経験した国々の人権教育は、「市民の基本的自由」という視点にゆらぎがない。日本の私たちが学ぶべき重要な視点がここにあろう。
また、人権教育のあり方を学校教育の枠組みを越えて議論することの必要性も強調したい。「権利」を正しく理解するには法学との協働、国家と市民社会の関係性を踏まえた人権教育を構築するには政治学や社会学などとの連携も必要である。文化や伝統的価値観と人権の関係を考えるには人類学や歴史学も重要である。そこで学際的な人権研究を促進するインドの大学院の事例も紹介した。
各国からの貴重な論考は、いずれも日本の人権教育に現在欠けている視点や取組みを明確にしてくれる。日本の人権教育をさらに豊かなものとするために、何が必要とされているのかを、ぜひみなさんと一緒に考え、共有したいと願っている。
2007年3月
編集委員 阿久澤麻理子
大谷 美紀子
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