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花も嵐も、講釈師が語ります。
バツイチ子連れ、泣き笑い半生記
- 初版年月日
- 2005年4月
- 書店発売日
- 2005年5月2日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2016年5月25日
重版情報
5刷 | 出来予定日: 2016-05-26 |
4刷 | 出来予定日: 2012-11-15 |
3刷 | 出来予定日: 2009-02-07 |
2刷 | 出来予定日: 2005-06-15 |
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今となっては大変貴重なスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさん(2015年ノーベル文学賞を受賞)との対談も一部収録。 |
紹介
漫画『はだしのゲン』を講談にし、1986年日本雑学大賞を受賞。人類が二度と核兵器を使わず、世界から戦争をなくすために語り続けるおんな講釈師の半生記。出戻り、出稼ぎ、落選……。この際、隠したくなる内容もネタにしてさらけ出します。一席、よろしくおつき合い下さい。
目次
プロローグ 孤独と苦悩に耐えうるもの、それを“女”と称します
第一章 パパンパンだよ、人生は!
舞台女優を志し、故郷福島県から上京
落語、浪曲と並ぶ三大話芸の一つ、講談とは
二代目神田山陽とは
第二章 「記憶は弱者にあり」なのです
サイパン、テニアンを旅して
まだ終わらない沖縄の「戦争」
第三章 「清水の舞台」は「飛び降りる」ためにある
子育てと家庭と仕事と
母娘三人、東田町に落ちつく
市内各地に芽ばえる文化の香り
第四章 乗せてやりたし、安寿と厨子王
いわき市は「安寿と厨子王」の故郷だった
地元の殿さまの名誉復活講談にとり組む
維新で見捨てられた東洋医学を講談で見直す
第五章 花も嵐も踏み越えてゆくが“女”の生きる道
長女、中一でカナダへ行く
三世代同居、一〇人家族の顛末記
ウサギも飼ったし、あんなことも
第六章 いずれにしろ、必ず“修羅場”があるのです
第七章 「純愛」はむかし「冬ソナ」いま「チェルソナ」
『チェルノブイリの祈り』講談化にとり組む
見てきた真実と見たい未来を語り合い
いのちの大切さ、愛の大切さを訴える
松下竜一さんが中心となり、九州キャラバンへ
エピローグ 三〇、四〇花ならつぼみ、五〇過ぎてもまだ三分咲き
あとがきにかえて
前書きなど
孤独と苦悩に耐えうるもの、それを“女”と称します
私の代表作は「はだしのゲン」です。
中沢啓治さんが渾身の力を込めて書いた漫画を講談にしたもので、一九年前にできた作品です。一九年も戦争を語ってます。原爆を落とされた人々の惨状をリアルに語っています。「はだしのゲン」はほのぼのとした笑いもありますが、怒りと涙を禁じ得ない作品です。悲惨な内容にもかかわらず、語る方も観る方も勇気と元気をもらい、武者震いするようなカタルシスを得ることができるのは、原作のパワーのおかげ。
そして、このパワーの恩恵を一番受けているのは何を隠そう、この私なのです。自ら死を選ぶことなく……。えっ、大仰な! と思われるかもしれませんが、この本を読めばきっとご理解いただけると信じております。どんなに投げやりな気分になっても、そう、被爆し虫けらのように焼き殺された人々、いのちはとりとめたものの、やけどや放射線障害で今でも苦しんでいる人々の苦しみを想像したら、「私の悩みなんてなんぼのものじゃい!(広島弁)」と自分を奮い立たせ……。こうして元気に生きているのです。いえ、生かされているといった方が正解かもしれません。
「はだしのゲン」のおかげで私は生活費を得て(もちろん他の講談、古典物や講演でも得させてもらってますが)、生命力も得て、二人の娘たちもたくましく成長している。どうやって、どうやって、どうやっていのちの恩人のゲンちゃんに恩返ししたらいいのだろう?
出した結論は「人類が人類に対して二度と核兵器を使わない世界」をつくり、「世界から戦争をなくす」ため、汗水流して働くことでした。とはいっても、アメリカが戦争の大義もへったくれもなく、アフガニスタンやイラクに対し、小型核兵器を用い、白昼堂々と街を破壊し、民間人の虐殺をしている。それに日本が加担した形になっている現実を鑑みると、お先真っ暗な気分がしないでもないですが、あきらめるわけにはいかないのです。なにしろ義理と人情を大切にするのが、私たち講談師のモットー。ゲンちゃんから受けた恩義は必ず返すのです。
私たちの最大の武器は「想像力」だと思います。これを書いている二〇〇四年一二月、ファルージャでは数千人もの民間人が犠牲になっています。原爆投下後の広島、長崎、東京大空襲で亡くなった多くの犠牲者とファルージャの惨劇が二重写しになって迫ってきます。
尊敬する故マルセ太郎さんは「記憶は弱者にあり」と言いました。ありったけの想像力を働かさなければいけない時代になってしまいました。そんな思いで自分もありったけの想像力を喚起して、今年「大空襲」をテーマに新作を発表するつもりです。ぜひ聞いて下さいませ。
さて、人との出会いって、本当に摩訶不思議ですね。実は、私がこの講談師という世にも珍しい仕事に就いたのは、ほんの偶然からでした。そのうえ「軍記物」や「親孝行物」といった封建的な時代のお話が中心の講談界にあって、はじめから近代戦の「戦争物」を語る予定は全然ありませんでした。
私生活でも娘たちを連れて故郷へ出戻ることになるなんて夢にも思わなかったし、故郷にその後八年半も住むことになり、あんなこと、こんなこと(これから読でいただく)ができたなんて、まったく考えもつきませんでした。
そして、また東京に引っ越して今年で三年目になります。行き当たりばったりのようにも見える私の半生。隠したくなる内容もこの際、ネタにしてさらけ出してしまおうと思ってます。なんといっても、自分を笑えるのが芸人の強みなんですから。
「浪花節だよ人生は」という歌のタイトルがありますが、講談は張り扇を叩きながら語るので「パパンパンだよ人生は」。一席、よろしくおつき合い下さい。
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。