ガイサンシー《蓋山西》とその姉妹たち
班忠義
発行:梨の木舎
この版元の本一覧
A5判 360ページ 並製
定価:2,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8166-0610-6(4-8166-0610-6) C0021
在庫あり
奥付の初版発行年月:2006年09月
書店発売日:2006年09月20日
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紹介

「ガイサンシーって,何のこと?」私はたずねた。 
「ガイサンシーさえ知らないの? あなたがこのことを調べるなら、まずガイサンシーのことを知るべきだ。彼女は日本軍に一番ひどい仕打ちを受けた人で、最初に日本軍のトーチカに連れて行かれた一人なのだから」——1995年、こうして、中国山西省における中国人女性に対する、日本軍の性暴力に迫る著者の長い旅が始まった。
ガイサンシー《蓋山西》とよばれた女性と数知れないその姉妹たちが、日本軍からうけた性暴力の事実と背景を9年の歳月をかけて追う。

目次

主要目次
第一章 出会い
第二章 歴史を調べる
第三章 戦争の時代
第四章 進圭村での日々
第五章 戦後
第六章 永遠に
    記憶される
    「蓋山西」

前書きなど

あとがき
1992年に万愛花さんと出会った時のショッキングの一幕が頭に焼きついた。
三年後、日本の国会で終戦50周年を際にして通称「不戦決議」という議案が採択された。多くの日本の政治家の持つ戦争認識に危機感を持った。もっと戦争の真相を知りたい、日本の演壇に倒れた万愛花さんと、健康状態で日本に来られなかった侯冬娥のことを気にして中国山西省へ現地の歴史調査に出かけた。それからあっという間に10年という時間が流れた。使命感、責任感のようなものを感じて、いつか本にまとめたいと思いながら月日が流れた。
日中の歴史問題については、これまで政府主導でやり取りがなされてきたが、歴史の事実は充分に調査されたとは言えず、私たち戦後世代にはその真相、詳細を知る機会が少ないところから、ゆがんだ感情的な対立を生じさせ、両国民間の不信、嫌悪感を増幅させたようになった、と私は思う。
加害者側である元日本軍人たちへの取材と交流は、加害者側の人間に対する私の認識を変化させた。はじめて山西省の戦争被害者たちと出会い、彼女たちの訴えを耳にし、その体に刻まれた数々の傷跡を目の当たりにした時には、人間の仕業と思えないことをした加害者の日本人への怒りが胸にこみあげてきた。初めは犯人探しのような気持ちで日本軍兵士を探した。沖縄戦でほぼ全滅し、生き残った数少ない兵隊と会うと、私の想像とは違って、どの方も残虐さなど微塵も感じさせないであった。
 その時、思い出したのは「恨罪不恨人(罪を憎んで人を憎まず)」という中国古来の言葉であった。例え相手が過去に大変な間違いを起こし罪を犯しても、その人間を憎むのではなく、重要なのは、彼らが証言したように、「天皇を頂点とした当時の教育、社会風潮」が彼らをそのように形成させたということだ。証言で知ることができるのは戦争犯罪の痛ましい事実である。これに十分に耳を傾け、戒めとすべきである。

今年に入って、北京の中国文聯出版社から「血涙ガイサン蓋山シー西(血と涙の蓋山西)」というタイトルで中国語版を出版したが、若者の間で大きな反響をよんだ。中国の『人民日報』の書評では「視角独特、引人入勝(見る角度が独特で、興味津々だ)」と評価された。独特の着眼点を持つ、という意味は、大変ショッキングな性暴力被害についての調査を、被害者側だけの立場から感情的に加害者側を追及し、また中国国内で日中戦争の歴史が書かれる場合必ずと言っていいほど抗日戦争における共産党の役割を事実以上に強調するという従来の書き方ではなく、<何があったのか>、という歴史事実を追うことに努力した点を評価してくれたのだろう。このような書き方は、一般の中国人には目新しく見られたのだろうか。

残念ながら、21世紀に入ってから、中国では愛国主義宣伝政策を強め、日本でも憲法改正への動きをはじめとして時代を逆戻りするような現象が「国」主導によって起きている。しかしその現象も一口に言えるものではなく、その内側では、中国でも単に日本の損害賠償を求める民族派グループだけではなく、民主化を政府に求めたうえで日本の賠償問題を考え、歴史の事実を知ろうとする民主派グループなど市民側の動きがあり、日本においても、戦争へつながる動きを止めようとさまざまな方法で活動している市民グループがある。そのお互いの和解をめざし、自分たちの国も変えていこうとする人びとの存在はメディアには出てこないし、お互いに知られていない。情報化社会になったこの時代には、国と国の問題、また歴史の問題を捉えていくには、両国の市民の連携、共同作業が重要になってくるだろう。

本文でも紹介したが、外国人として日本で生活するなかで私は多くの日本人に助けられた。中学生時代に日本語を教えてくれた中国残留日本人婦人の曽おばさん、一度だけの面識しかない私と手紙のやり取りによって日本留学を実現させてくれた望月光子さん。生活に困っていたとき寄宿させてくれた東海寺の元住職の大嶽義方和尚。お三方とも故人になってしまったが、共通するのはどの方も戦争世代であったという点である。
彼らが私にこれからの日本と中国の心の和解、架け橋役を私に託したといつも思い、これで恩返しをしたいという気持ちもある。

著者プロフィール

班忠義(バン・ツォンイ)

一九五八年、中国・撫順市生れ。八ニ年黒龍江大学卒業。上智大学大学院、東京大学大学院研究生を経て、現在フリージャーナリスト。八ニ年『曽おばさんの海』(第七回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞受賞)九六年『近くて遠い祖国』(ゆまに書房)

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