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シベリア強制抑留の実態
日ソ両国資料からの検証
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2005年10月
- 書店発売日
- 2005年10月5日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2019年7月26日
紹介
終戦後に展開された“国家的犯罪”ともいえるシベリア強制抑留は、絶対に風化させてはならない。日ソ両国の資料を駆使して、その真相を後世に伝え、祖国への帰還を果たせずに逝った数万の霊に捧げる鎮魂の書!
目次
目 次/シベリア強制抑留の実態
はじめに
序 章 シベリア抑留の背景
1 隣国としての日露関係と抑留問題
2 シベリア抑留背景史――帝政時代のシベリア流刑史
3 シベリア抑留背景史――ソ連の囚人産業政策
第一部 シベリア強制抑留の概要
第一章 シベリア日本人抑留者数及び死亡者概数
1 ソ連の軍事捕虜政策とシベリア強制抑留の発生
2 日本人抑留者数と死亡者概数の諸問題
3 日本側資料に基づく抑留者総数と死亡者数
4 ソ連側資料による日本人抑留者総数
5 スターリン政府の日本人抑留者配置計画
6 ソ連側資料に基づく日本人軍事捕虜(抑留者)配置状況
7 ソ連軍事捕虜抑留者業務総管理局の資料による日本人抑留者配置状況
第二章 ソ連軍の急襲による惨禍と掠奪
1 ソ連軍侵攻による惨禍と生き地獄
2 ソ連軍占領地で始まった生き地獄と強制抑留
3 満州日本人開拓団の悲劇
4 痛ましい子供たちの集団自決
5 ソ連軍の暴行と掠奪
6 ソ連軍の蛮行――戦利品として根こそぎ持ち去った財貨
第三章 抑留地シベリアの自然条件
1 厳しいシベリアの自然と気象条件
2 各抑留地区における自然環境
3 抑留者たちに過酷だった自然条件
第四章 シベリアの日本人抑留者収容所の実態――収容所・収容者の地域的分布
1 日本人抑留者収容所の地域的分布と収容所概数
2 引揚者の調査に基づいた日本人収容所の概要
3 日本人収容の一般収容所
4 日本人収容の労働大隊収容所
5 日本人収容の囚人収容所
6 ソ連各地区における推定日本人抑留者概数と死亡者数
7 邦人(非軍人)抑留者について
8 この章のまとめ――日本人抑留者収容所総数について
第五章 日本人抑留者収容所の施設と設備
1 不十分なソ連の抑留者受入れ態勢
2 日本人抑留者一般収容所の概要と構造
3 天幕及び半地下式等の収容所
4 原野に投げ出されての自分たちの収容所建設
5 窮屈で不備だらけの最悪の収容所設備
6 人の住む所でない個々の収容所事例
第六章 日本人抑留者収容所の管理と抑留者たちの処罰
1 ソ連における軍事捕虜に関する諸規定と収容所管理のための諸規則
2 ソ連側の諸規則違反と厳格な管理態勢
3 日本人収容所の管理組織
4 日本人収容所の管理の実際例
5 抑留者にとって不幸だったソ連軍警備兵のレベルの低さ
6 旧日本軍階級組織を利用した管理状況
7 日本人抑留者たちの処罰について
(ア)処罰に関わる諸規定について
(イ)抑留者への懲罰(1)
(ウ)抑留者への懲罰(2)―― 前歴者 の処罰について
第七章 日本人抑留者たちの移送と移動の実態
1 抑留者移送とソ連の軍事捕虜移送に関する諸規則
2 家畜扱いの野蛮な貨車等移送と護送規則違反
3 非人道的極限的状態での貨車輸送
4 銃で追い立てての野蛮な死の徒歩移送
5 恐怖の囚人護送車両での輸送
6 この章のまとめ
第二部 シベリア強制抑留生活の実態
第八章 シベリア抑留者たちの強制労働の実態
1 抑留者たちの労働力を利用した国の復興計画
2 シベリア強制労働に関するソ連側の諸規則
3 シベリア強制労働の概要
4 抑留者の強制労働の実際
(ア)木材伐採作業
(イ)鉄道建設作業
(ウ)炭坑労働
(エ)その他の鉱山労働
(オ)土木・港湾等の工事
(カ)各種の建設作業
(キ)その他の強制労働
5 過酷な重労働と作業ノルマの要求
6 危険な強制労働と長時間労働
7 労働災害の発生
(ア)シベリア珪肺
(イ)強制労働がもたらしたもろもろの病気や怪我
(ウ)多発した死亡事故
8 この章のまとめ
第九章 シベリア生き地獄の中で見出した人間
1 厳しいシベリアの地に人間を探し求めて
2 シベリア生き地獄の中で抑留者たちに慰めをもたらした人々
3 ダットサン女医の活躍
4 地獄に仏のロシア婦人たち
5 抑留者たちをわが子のように可愛いがったロシア人たち
6 抑留された愛馬との不思議な出合いと本章のまとめ
第十章 シベリア抑留者たちの給養状況
1 抑留者たちの劣悪な食料及び栄養状態
2 ソ連の軍事捕虜に対する給養についての法的諸規定
3 収容所による給食規定の不実行事例
4 常態的な食料の横領――浅ましいソビエト官僚と収容所職員
5 非人道的作業能率給食の導入
第十一章 生命維持のできない抑留者の給食実態
1 劣悪この上ない抑留者の給養実態
2 旧日本軍体制がもたらした弊害
3 ソ連当局による馬料給食での重労働の強制
4 生き地獄の中での極限的飢餓道
5 極限的状況下での代用食あさりと中毒死
6 おそすぎたある程度の給食事情の改善
第十二章 抑留者たちの衣料と生活用品事情
1 抑留者たちの被服等の一般的状況
2 抑留者の被服に関するソ連の規則
3 抑留者へのソ連側からの被服等の支給実態
4 抑留地各地域の被服等の支給状況
第十三章 抑留地の医療と衛生状況
1 シベリア抑留者たちの医療と衛生状況
2 抑留者に対する医療や保健等に関するソ連側の対応
3 抑留者たちのもとでの伝染病や病人の多発
4 強制抑留が惹起した特殊な病気と精神障害
5 形ばかりのソ連側の病人多発防止対策
6 ソ連側資料も実証している抑留者の高い発病率と死亡率
7 日本人抑留者の身体状態等級づけ資料及び病気の種類別死亡件数
8 杜撰な身体検査と労働等級づけ
第十四章 シベリアに死体の堆積を築いた抑留者たち
1 資料が示すソ連当局の死亡者数の操作
2 引揚げ時の調査及び生還者の証言と死亡者四万人名簿
3 引揚げ時の調査及び生還者の記録に見るシベリア各地の死亡状況(その一)
4 引揚げ時の調査及び生還者の記録に見るシベリア各地の死亡状況(その二)
5 引揚げ時の調査及び生還者の記録に見るシベリア各地の死亡状況(その三)
6 引揚げ時の調査及び生還者の記録に見るシベリア各地の死亡状況(その四)
7 この章のまとめ
第十五章 冒涜されたシベリア抑留者たちの遺体
1 ソ連当局の基本的な日本人抑留者埋葬規則と指令
2 遵守されなかった埋葬規定及び墓地規定
3 投げ捨てられ、蹂躪された抑留者たちの遺体
4 ソ連側の非人間的なおぞましい遺体の扱い
5 冒涜された迷える抑留者たちのみ霊――荒廃し見失われた抑留者たちのお墓
6 抑留者用墓地管理の現状と問題点
第十六章 シベリア抑留者たちの日常生活
1 捕らわれ人としての一日
2 飢えと寒さと虱対策に明け暮れて
3 水不足に悩まされた抑留者たち
4 もろもろの物不足と不自由
5 いわゆるシベリア民主運動について
6 言葉で苦労した抑留者たち
7 抑留者たちのもとにおける文化・福利と娯楽
8 検閲つきの不自由な交信
(ア)ソ連政府の強制抑留の合理化と政策手段としての交信政策
(イ)ソ連当局の抑留者交信についての見方
(ウ)抑留者の交信についての日本側の調査記録
終 章 贖われないシベリア強制抑留者たちの無念
1 囚人と抑留者の怨念の地シベリア
2 歴史の教訓を忘れないために
3 贖われない日本人抑留者たちの労苦と無念
註
シベリア強制抑留文献目録
あとがき
地図 (昭和二一年頃におけるソ連・外蒙領内日本人収容分布概見図/戦後強制抑留者の主な埋葬地)
附Ⅲ 片山精次氏の登録カード
附Ⅱ ソ連におけるシベリア抑留地域別死亡者表
附Ⅰ ソ連における日本人抑留者収容所配置概要
版元から一言
はじめに
ソ連による日本人シベリア強制抑留の発生からおよそ六〇年がたつ。一九四五年八月、太平洋戦争の終戦間際、すでに降伏を決定していた日本に対して、スターリン政府のソ連が、日本の支配地域の満州や樺太や千島列島等において、大軍をもって押し付け的に戦闘をしかけ、戦争が終わっているのに大量の日本軍人や民間人を 捕虜 と称して捕獲し、しかもソ連経由で日本に帰国させると騙してソ連領内へ強制連行して、それは起こったものであった。ソ連政府も参加した日本に降伏を勧告した連合国側のポツダム宣言には、終戦後国外駐留の日本軍人はすみやかかつ平和裏に祖国に帰還させると明瞭に述べられていたのに、ソ連はこのような暴挙を行ったのである。
連行先のシベリア等の抑留地で彼らを待ちうけていたのは飢えと酷寒と無慈悲な強制重労働だった。日本人強制抑留者たちはシベリアの厳寒には耐えられない寒いバラック等に入れられ、生命維持もままならない乏しい給与をあてがわれ、それなのに銃を帯びたソ連兵の監視のもと、ノルマに基づき朝から晩まできつい作業を強制され、未曾有の苦しみをなめさせられた。シベリアのきびしい環境下、その過程においておびただしい日本人が病気になり、命を落とすことになった。祖国への、家族のもとへの帰還がかなわなかった人たちは最も気の毒であり、痛ましいが、かろうじて生還した抑留者たちの苦労も並大抵ではなかった。しかも彼らの多くは帰国後も就職のことなどで苦労をしたのである。
ソ連によって惹起されたこのシベリア抑留は北方領土問題にも匹敵する重要な問題とも言われている。それなのに、わが国ではその実態があまり知られていないのではないかと思われる。帰国後、元抑留者たちが多くのことを語り、多くの手記を書き残している。それにもかかわらず、それらは関係者以外にはあまり知られていないのではないかと思われるのだ。しかも戦後六〇年もたち、この問題も風化しつつあり、国民多数からはますます忘れかけられている。筆者自身も実は長年文学を中心にロシア研究をやり、抑留者たちがひどい目にあったという話も聞いてはいたが、その内容をほとんど知らずに過してきた。それが抑留者たちの手記を読んでその実態を知り、そのひどさ、ソ連の非道で無慈悲なやり方に非常に驚いた。抑留者たちの手記の大部分は抑留生活のひどさと理不尽さを訴え、文字通り叫んでいて、それらを読むならしばしば胸がつぶれるような想いがし、悲憤を感じずにはいられない。
シベリア抑留問題は日本とロシアの間に突き刺った棘である。それは領土問題とならぶ日露間の最重要の問題であり、かつ元抑留者たちの多くの訴えがあるにもかかわらず、残念ながら抑留の実態に関してはあまり研究がされていないと言っていい。それというのも、彼らの手記以外には、ソ連とロシアの秘密主義のために現地における抑留自体に関する資料が少なく、それほど資料が出ていなかったからである。それが近年、日本では外務省がシベリアからの引揚者の調査資料を公表し、他方、ロシアでも長年マル秘扱いだった抑留関連の公文書が公刊され、何冊かの著書や論文なども発表され、つまり、日露両国においてこの問題関連の資料がかなり手に入るようになった。そういう状況があって、本格的な研究が可能になったのである。
筆者は抑留問題の解決は日露関係の正常化のために不可欠だし、また、それは戦争や平和問題に多くの事柄を投げかけており、全体に風化させてはならないと考える。筆者はまたロシアのレフ・トルストイの文学と思想に共鳴を抱く者だが、彼の非戦論と平和主義は現代においても極めて重要であると思っている。そのような見地からこの問題に十年ほど前から取り組むようになり、それが本書となって結実したのである。
この問題においては新しい資料も重要だが、筆者が最も重視しかつ最もよく利用したのは、結局、元抑留者たちの手記である。ソ連・ロシア側がシベリア抑留についての詳細な資料・情報をくれないので、結局は元抑留者たちの証言に頼るしかないからである。本書は基本的にはそれらを基盤にして成立したと言っても過言ではないと思う。もしかしたら、本書は、元抑留者たちのみなさんがお書きなったものをまとめたものであると言ってもいいかもしれない。十分満足してもらえるような出来具合ではなく、少し申し訳ないと思うが、気持ちの上では抑留者たちに代わってまとめてみたといった感じなのである。
不十分なものではあるが、お許しいただいて、本書をすべての元シベリア抑留者たちに、そして、不運にもシベリアの凍土に屍を埋め、二度と祖国と家族のものとに帰ることができなかった方々に、心からの哀悼の意を表しつつ、捧げたい。
二〇〇五年六月 著者
(社)日本図書館協会 選定図書
上記内容は本書刊行時のものです。