9・11以後のイスラームとヨーロッパ激動のトルコ
内藤 正典:編著
発行:明石書店
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四六判 296ページ 上製
定価:2,700円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2757-0 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年03月
書店発売日:2008年04月03日
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紹介

イスラーム圏にありながら政教分離を徹底し、東西文明の分岐点とよばれるトルコ。近年はEUへの加盟が頓挫するとともに、国内で宗教勢力が台頭し、歴史的転換のときを迎えている。ヨーロッパのイスラームへの眼差しを踏まえつつ、この国のゆくえを模索する。

目次

 序章 トルコ、東西文明のはざまより(内藤正典)

1.イスラームとトルコ
 第1章 歴史の転換点を迎えたトルコ(内藤正典)
 第2章 世俗主義の崩壊?——トルコ情勢のいまを読む(栗林尚美)
 第3章 PKK問題はいかにして世界に波及したか(東尚吾)

2.トルコとヨーロッパ
 第4章 憧憬と蹉跌——それでもEU正式加盟をめざすトルコ(中村誠)
 第5章 疎外と内向——EU拡大・統合路線の限界とトルコ加盟(浮田麗子)
 第6章 ドイツのトルコ人——線引きする側とされる側(高見暁)

3.ヨーロッパとイスラーム
 第7章 ドイツにおけるスカーフ論争(堀彩子)
 第8章 創られたイスラーム像——ムハンマド風刺画問題とは何であったか(小山香衣)
 第9章 多文化主義の実像——ムスリムをめぐる四つの物語(後藤拓也)

 終章 トルコはこれからどこへゆくのか(内藤正典)

 コラム ラマダンへようこそ(新発田頼子)
 コラム スカーフをかぶった少女との出会い(新発田頼子)
 コラム 恋する心と体の関係(廣田亜希)

 あとがき(一橋大学学生+内藤正典)

前書きなど

序章 トルコ、東西文明のはざまより(内藤正典:一部抜粋)

(…前略…)
 トルコは、どこへ向かうのか? 二〇〇六年から〇七年にかけて、国家と国民の針路をめぐって、激しい議論がおきた。議論だけではない。政治的に大きな事件が次々と発生した。最初はイスラーム主義に立つ老練な政治家アブドゥッラー・ギュル(前外相・副首相)を大統領に選出するかどうかをめぐる混乱であった。混乱を収拾するために行われた前倒し総選挙では、与党の公正・発展党(AKP)が圧勝した。公正・発展党は、二〇〇二年以来、政権を担ってきたが、その中心にいるエルドアン首相やギュル大統領は、かつて九〇年代に閉鎖させられたイスラーム主義政党(RP)の福祉党の出身である。
 公正・発展党は総選挙の最中、中道色をアピールしたが、実際にイスラーム主義路線を捨てたのかどうかは大きな議論となった。選挙後、政府は憲法改正に着手した。「よりリベラルに、より民主的に」をスローガンに、「市民の手による憲法」を制定しようというのである。だが、その過程で、憲法原則であり改正不可条項になっている世俗主義を骨抜きにする方向を打ち出しつつある(第2章参照)。
 一方、隣国イラク北部に拠点をもち、トルコのクルド人たちの分離独立を主張する武装組織PKK(クルディスタン労働者党)によるテロと攻撃が激しさを増していった。トルコ軍兵士や民間人に犠牲者が急増し、二〇〇七年だけで一〇〇人を超える死者がでる事態となった。世論は沸騰し、ついにPKK掃討のために北イラクへの越境攻撃を行うことになった。この問題は、トルコ共和国憲法において、同じく改正不可条項とされている「国民と国土の絶対不可分」の原則に関わっている(第3章参照)。
 二〇〇七年は、トルコにとって、文字どおり激動の一年であった。この国のゆくえは、中東地域の安全保障に重大な影響を及ぼす。世俗主義をめぐる問題は、イスラーム圏での民主化が、西欧とは異なる道筋で達成できるのか、それとも西欧の模倣をしなければ達成できないのか、という根本的な問いにつながる。イスラーム的民主化は成功するのか? それとも民主化には、国家と宗教を切り離す世俗主義が不可欠の条件なのか。欧米諸国が、こぞって中東・イスラーム圏の民主化を求めている今、トルコの将来は、この大きな課題への答えとなるだろう。
  (…中略…)
 トルコが、民族や宗教について多元性を容認する方向へと方向転換することに批判的な声は、国際社会からは聞こえてこない。民主化、自由化を推し進めることを否定する理由はないと誰もが信じているからである。しかし、このことは同時に、トルコ共和国の基盤となってきた「世俗主義」と「不可分の共和国」という二大原則が崩壊する可能性を示唆している。
 崩壊の後に、何がもたらされるのか。当事者であるトルコ国民も、国際社会も、今はまだ明確な予想を立てることができない。宗教の、あるいは信仰実践の多様性を認めた場合、圧倒的多数を占めるスンニー派のイスラーム法が、結果として「規範」になってしまうことは十分予測可能である。逆に、世俗的でありたいと願う人々の権利と自由が、将来にわたって脅かされない保障はない。
 その一方で、本書でも紹介されているように、イギリスやドイツなど西ヨーロッパ諸国は、文化の多元性を規制する方向に転換しつつある。あいつぐテロ事件や暴動の結果、ムスリム移民に対する同化圧力は強まっており、統合政策の名の下に、言語だけでなく、社会・文化的な規範を受け入れるよう彼らに求めている。多文化主義は、ヨーロッパにとって、もはや好ましいものではなくなりつつあると言ってもよい(第6、7、9章参照)。
 つまり、トルコとヨーロッパでは、文化の多元性に関する方向性が正反対になっているのである。トルコが、EUの圧力で、遅まきながら民主化と自由化をめざしたと解釈するのは単純すぎる。ヨーロッパでは圧力にさらされているイスラームが、トルコでは主導的な立場となって、自由と民主主義を求めている。それが、今後の中東・イスラーム世界と西欧との関係に、どう影響するのかを注視する必要がある。
  (…後略…)

著者プロフィール

内藤 正典(ナイトウ マサノリ)

1956年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業。同大学院理学系研究科地理学専攻博士課程中退。東京大学助手、一橋大学講師、助教授を経て、1997年より一橋大学大学院社会学研究科地球社会研究専攻教授。社会学博士。この間、1981‐83年、ダマスカス大学文学部客員研究員、1990‐92年、アンカラ大学政治学部客員研究員。

主な著書
『イスラーム戦争の時代——暴力の連鎖をどう解くか』(NHK出版、2006年)、『ヨーロッパとイスラーム——共生は可能か』(岩波書店、2004年)、『なぜ、イスラームと衝突するのか——この戦争をしてはならなかった』(明石書店、2002年)、『絨毯屋が飛んできた——トルコの社会誌』(筑摩書房、1998年)、『アッラーのヨーロッパ——移民とイスラム復興』(東京大学出版会、1996年)、編著に『神の法VS.人の法——スカーフ論争からみる西欧とイスラームの断層』(日本評論社、2007年)、『トルコから世界へ——イスラームと西欧化のはざまで』(明石書店、1998年)、監訳書に『イスラームの脅威——神話か現実か』(明石書店、1997年)など。

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