「最後のセーフティネット」の再生に向けて格差・貧困と生活保護
杉村 宏:編著
発行:明石書店
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四六判 240ページ 並製
定価:1,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2659-7 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年11月
書店発売日:2007年11月02日
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紹介

国民の生活を守る「最後のセーフティネット」生活保護はどのようにしたら利用できるのか、どんな受給条件があるのか。福祉現場を熟知した執筆者たちが基本的な疑問に応え、改悪の動きが進行している生活保護制度の再生と積極的な活用を訴える入門書。

目次

はじめに

第1章 Q&A 生活保護に関するよくある質問
 Q1 生活保護の相談は、いつ、どこに、どのように行うのか
 Q2 どの程度生活に困窮したら、生活保護を利用することができるのか
 Q3 親兄弟の支援を受けてからでなければ、生活保護は利用できないか
 Q4 預金があったら、生活保護は利用できないか
 Q5 働く能力があると生活保護は受給できないか
 Q6 家を保有していたら生活保護は利用できないか
 Q7 住民登録がなければ生活保護は申請できないか
 Q8 生活保護は「個人の自由」を奪うか
  コラム1 生活保護の基本原理
  コラム2 生活保護の実施原則

第2章 公的扶助とナショナルミニマム保障
 第1節 公的扶助は社会保障の中でどのような働きをしているか
 第2節 日本の生活保護制度はどのような特徴があるか
 第3節 ナショナルミニマムとしての生活保護基準
 第4節 先進国の公的扶助とその改革のゆくえ
 第5節 ナショナルミニマムから排除される人々—国民健康保険制度の揺らぎ
  コラム1 保護率と捕捉率

第3章 解体の危機にさらされる生活保護
 第1節 北九州市で続発する餓死・自殺事件
 第2節 なぜ生活保護制度が機能しないのか—「ヤミの北九州方式」の問題点
 第3節 なぜ母子世帯は生活保護から排除されるのか
 第4節 生活保護はどのように「解体」されようとしているか
 第5節 生活保護基準はどのように切り下げられたか
 第6節 不適切な運用が生活保護制度をどのようにゆがめているか
 第7節 自立支援プログラムは、利用者支援になりうるか
  コラム1 「生活保護行政を適正に運営するための手引きについて」の抜粋・要約とその評価
  コラム2 アメリカにおける有期限保護化—TANFの教訓
  コラム3 北九州市における生活保護—全国調査団の報告をとおして
  コラム4 北九州市生活保護行政検証委員会・中間報告の概要—「ヤミの北九州方式」指弾。第三者委中間報告、市に改善迫る
  コラム5 三位一体改革と生活保護

第4章 生存権保障制度としての生活保護
 第1節 「人間らしく生きる」権利の保障を求めて—生活保護裁判の意義と課題
 第2節 貧困の再生産を断ち切るために—被保護世帯の子どもたちへの支援
 第3節 「水際作戦」「辞退届強要」をなくすために—福祉事務所民主化の課題
 第4節 当事者団体による運動の意義
  コラム1 格差社会の現実—ワーキングプアの増大 
  コラム2 日弁連人権擁護大会宣言・決議 2006年10月6日—貧困の連鎖を断ち切り、すべての人々の尊厳に値する生存を実現することを求める決議

あとがき
編集委員・執筆者紹介

前書きなど

はじめに
 現在の日本では深刻化する格差社会の中で、格差の中に潜む貧困・不平等に光を当て、社会の問題として提起するような研究や報道が増えてきているように思う。戦後世界の中で、先進国ではこれまでに貧困の「発見」「再発見」ということで幾度も取上げられてきた問題を、ようやくわが国でも意識的に追求しようとする状況になったということかもしれない。
 とくに、労働規制の緩和化にともなう非正規雇用者の急激な増加と、その労働と生活の不安定化への注目は、ワーキングプアという19世紀ヨーロッパの労働者状態を表す用語をよみがえらせることになった。貧困は他人事ではなく、ともに働く人々に連なる問題であり、私たち自身の身近な問題になったようにみえる。ワーキングプアへの注目は同時にその解決のための取組みが必要であり、その原因を明らかにし、それを取り除き解決を図ることが大切である。働く人々の生活の安定なしに社会の安定を図ることはできないからである。
 しかしその際留意しなければならないことは、「働く人々の貧困」と「働くことができない人々の貧困」を対置させて、前者の解決こそ重要であると短絡的に考えてはならないということである。このような発想の根底には、働くことができない人々の貧困に対する無理解と偏見があるように思う。
 ここで取上げようとする生活保護を利用する人々やその周辺の人々は、その多くが健康上の問題や障害を抱え、あるいは育児や介護などのために働くことの困難な人々である。このような人々の働くことができない事情は、うかがい知ることができない場合も多いため、生活保護の利用に対して偏見を持ってみがちである。
 しかしながら生活保護制度は、単に働くことのできない人々の貧困を救済するだけではなく、働く人々の貧困を含めて、「最後のセーフティネット」として国民全体の貧困の救助を担う制度である。働く人々の生活の安定はもとより、働くことのできない人々の生活の安定なしに社会の安定を図ることはできない。
 
生活保護は人々に知られているか
 私たちがこの本を刊行しようとする直接の動機は、貧困問題がこれほどまでに国民的関心事になっているにもかかわらず、生活に困窮する人々を救助し、生活の建て直しのための支援をするべき生活保護制度が、いま崩壊の危機にあることを多くの人々に知ってもらいたいということにあった。
 しかしながら本書の編集のための検討を進める中で、国民のわずか1%の人々が利用しているにすぎない生活保護制度が国民にとってどのような意味があるのか、またそれが崩壊するとどのような影響を人々の生活に及ぼすのかといった問題をわかりやすく述べる必要があることに気づいた。
 さらに本来この制度が、国民の健康で文化的な最低限度の生活を守る「最後のセーフティネット」であり、国民生活の土台を支える大事な制度であるにもかかわらず、国民にこの制度を正しく理解できるような情報が提供されていないということも問題としてあげられた。それは単に制度を理解するというだけではなく、生活に困窮するとはどのような状態なのか、生活保護はどのようにしたら利用できるのか、この制度を利用するためには一定の要件があるがそれはどのようなものか、というような具体的な手続きや方法に関する情報の重要性ということであった。
 したがって生活保護制度の国民生活に果たす役割などを述べる前に、多くの人々が生活保護制度に抱いている疑問を解きほぐす形で、具体的な問題について論述している。
 生活保護制度は社会保障制度のひとつであり、すべての国民が生活に困窮した時に利用する権利のある制度であり、決して特殊な制度ではないことを理解していただけるものと思う。

いま生活保護で何が起こっているか
 このような重要な制度であるにもかかわらず、いま生活保護制度の運用をめぐって異変が起こっている。この数年、生活保護に関連する孤独死や自殺が相次いでいるのである。より正確にいえば、生活保護の申請ができずに、あるいは生活保護を打ち切られた結果、孤独のうちに餓死する人々が増えているのである。とくに北九州市では2006年5月、病気で働けないため生活に困窮した男性が、2度にわたって福祉事務所に生活保護の申請の意思を示したにもかかわらず、申請書さえ渡されず保護の適用にならなかったために、電気、ガス、水道も止められた状態で餓死するという事件が起こった。
 地元の弁護士、研究者ばかりではなく全国から駆けつけた調査団が、生活相談・申請援助活動を行ったところ、1日で25名以上の人々が保護の申請が受け付けられなかったと相談に訪れ、そのうちの大半の人々は調査団の支援で申請を受理させるところとなった。
 この事件は市長選挙の大きな争点となり、事件を批判してきた候補が勝利し、事件の検証委員会が設置され、原因解明が進められているさなかの2007年6月、またしても北九州市で新たな事件が発生した。
 今度は病気療養中で生活保護を受けていたにもかかわらず、保護の辞退を強要された男性が辞退届に署名したために保護を打ち切られ、その3ヵ月後にミイラ化した状態で発見されたのである。死の直前まで書き綴った日記では、福祉事務所が辞退届を強要したことの怒りの他に、10日以上も食事をしていなかった様子とともに、「オニギリ食いたい」という悲痛な叫びが記されていた。
 北九州市の事件は報道でもたびたび取上げられるようになったから、国民にも知られるようになったが、これに類するような生活保護制度をめぐる事件や事故は、全国各地で起きている。
 さらに国は、生活保護を利用している高齢者や母子世帯に支給されていた加算を削減し、生活保護の運用を厳しくするための手引きを新たに発行し、生活保護の抑制を強化している。
 本来、国民の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために創られた生活保護制度が、いま壊れかけているといわざるを得ない。しかもそれは制度疲労によって壊れかけているのではなくて、国が政策的に抑制を強化したり、法律に反する運用を行うことによって人為的に壊されようとしているのである。
 また、いま全国で生活保護をめぐる不服審査請求や訴訟が相次いでいる。しかもすでに判決が下された裁判では、その多くが国や自治体のやり方が間違っているという原告勝訴の判決を手にしている。行政を相手取って争う裁判としては異例という他ないが、それほど国や自治体が生活保護法に反した運用を行っているということになる。

生存権保障の制度の再生をめざして
 私たち生活保護行政に携わるものとしては、このような状況を座視しているわけにはいかない。本書の編集にあたった全国公的扶助研究会は、40年以上前に結成された福祉事務所ケースワーカーを中心とする自主的・実践的研究活動を行う団体である。これまでも全国セミナーの開催や機関誌の発行を通じて、生存権保障法としての生活保護制度に対する理解を広げ、国の抑制政策や違法な運用を批判し、貧困に陥った人々への支援方法の開発などを行ってきた。研究会の有志が研究者の協力を得て、このような状況に関する検討をかさねる中で、生活保護制度の状況をふまえてこの制度への理解と再生をめざして本書を刊行することとした。
 しかし生活保護制度を崩壊させようとするものから守り、今日の社会状況にふさわしい制度として再生させるためには、多くの人々の理解と共感を必要とすることはいうまでもない。
 貧困に陥った人々の生活を安定させ、生活の建て直しの支援をすることは、社会にとって必要不可欠なことであり、すべての人々の生存権が守られることによって社会の安定が図られると思う。本書がその一助になれば幸いである。

2007年9月 編集委員を代表して 杉村 宏

著者プロフィール

杉村 宏(スギムラ ヒロシ)

法政大学 現代福祉学部教授。全国公的扶助研究会会長。著書に『貧困・不平等と社会福祉』(編著、有斐閣、1997年)、『公的扶助—生存権のセーフティネット』(放送大学教育振興会、2002年)、『現代の貧困と不平等』(共編著、明石書店、2007年)など。

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