抑圧の歴史を生きた民衆の物語トラウマ的記憶の社会史
大阪外国語大学グローバル・ダイアログ研究会:編, 松野 明久:編
発行:明石書店
この版元の本一覧
A5判 192ページ 並製
定価:1,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2616-0 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年09月
書店発売日:2007年09月28日
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紹介

おぞましい抑圧の記憶は人びとの心に深く刻み込まれ彼らを苛み無力化する。近現代史を彩る数々の侵略・戦争・虐殺に当事者たちはどう向き合いアイデンティティを築こうとしてきたか、被抑圧者の「語り」から読み解く。『痛みと怒り』に続く第二弾。

目次

0 まえがき(松野明久)
 1.トラウマ的記憶
 2.「語り」の作用
 3.「語り」から「読み」へ
 4.トラウマの脱構築に向けて
1 植民地言説に対するアンデス先住民の異議申し立て(染田秀藤)
 〈グァマン・ポマの“沈黙”〉
 1.はじめに
 2.線画が訴えかけること
 3.インカの反乱
 4.ポマの語る「インカの反乱」
 5.戦術としての“沈黙”
 6.ポマとタキオンコイ
 7.ポマとラス・カサス
 8.むすびにかえて
2 支配文化を駆使し民族復権をはかる「大地の民」(千葉 泉)
 〈チリのマプーチェ〉
 1.歴史的背景
 2.イラリオ・ウィリレフ氏が体現する二つの知識
3 ベトナムにおける戦争の記憶とトラウマ(住村欣範)
 1.はじめに
 2.国家のために「犠牲」になった者としての烈士
 3.烈士と家族
 4.戦死者の死とトラウマ
 5.おわりに
4 盧千恵(ろちえ)(太田妙子)
 〈台湾愛国の児童文学〉
 1.はじめに
 2.台湾の歴史
 3.盧千恵の生い立ち、児童文学者として
 4.盧千恵作品
 5.千恵女史に聞いた民話3編
 6.おわりに
5 トラウマとアイデンティティの模索(生田美智子)
 〈ハルビンの亡命ロシア人の場合〉
 1.ハバロフスク地方国立文書館
 2.亡命ロシア人のトラウマ
 3.「ハルビン・フォンド」
 4.アイデンティティの模索
 5.むすびにかえて
6 支配と抵抗がつくる共通の「記憶」(高林敏之)
 〈問われる私たちの「認識」と「記憶」〉
 1.はじめに
 2.サハラウイにとっての重い「歴史の記憶」
 3.支配と抵抗の中で形成される「民族」「アイデンティティ」の普遍性
 4.同化政策の推進主体における相違——アフリカの例
 5.運命を分ける外来の認識枠組み——国際法
 6.むすびにかえて——問われる「私たちの側の記憶」
7 タン・キムのジレンマ(カトリナ・アンダーソン/中村圭太訳)
 〈クメール・ルージュ体制下の性暴力にどう向き合うべきか〉
 1.クメール・ルージュの下での性犯罪
 2.応報的司法——特別法廷
 3.特別法廷への提言
 4.カンボジアにおける回復的司法
 5.むすび
8 アスベスト災害とリスクコミュニケーション(三好恵真子)
 〈ステークホルダーの対立とコミュニケーションによる緩和のプロセス〉
 1.はじめに——本稿の着眼点
 2.負の遺産から我々は何を学ぶべきか——早期警告から遅れた対策と予防原則の視座
 3.求められる疫学研究——日米の対応の格差から
 4.「リスクコミュニケーションの時代」に向けて
あとがき
執筆者紹介

前書きなど

あとがき
 記憶をめぐる議論は1990年代以降活発化し、今日まで続いている。実際に論じられている時代や出来事は地域によって異なり、この本はそれをよく反映している。記憶というテーマがもつ広がりを知ってもらうことに本書がわずかでも貢献したとすれば、この本の出版の目的のひとつが達成されたと言えるだろう。
 記憶が重要な問題であるのは、それがアイデンティティとするどく関係しているからである。何を記憶し、何を忘却するのかは、まさに自己のありようを決める問題である。アイデンティティとは、極論すれば、記憶にほかならない。1990年代以降、冷戦の終焉という要因もあって、新たなアイデンティティを模索する時代に入り、そこに記憶が重要なテーマとして現れた。
 記憶はアイデンティティと関係するがゆえに、簡単に抹殺したりできないということも、最近ではよく主張されるようになってきた。植民地主義によってもたらされた屈辱と敗北の記憶。第二次世界大戦が残した深い傷とトラウマ。冷戦時代の弾圧、非人道的残虐行為の数々。未だ手当てされない、精算されていないことも多い。それらを忘却すべきことのように言うのは、傷を受けた人々のアイデンティティを否定することにつながると言えるだろう。
 今日、急速に進むグローバリゼーションによって、アイデンティティや背景の異なる人々が、お互いをよく知ることなく接触・交流することが増えている。お互いの国や民族の歴史、その記憶、トラウマに対する無知や無理解が対立と衝突に拍車をかけている。トラウマ的記憶の研究は、こういう時代であるからこそ、意味をもっていると思う。

2007年8月 編者

著者プロフィール

松野 明久(マツノ アキヒサ)

大阪外国語大学教授。インドネシア、東ティモール地域研究、紛争研究。紛争後の東ティモールで真実和解委員会の歴史調査アドバイザーを務めるなど、政治的暴力の真実探求と克服の取り組みを研究している。著書に『東ティモール独立史』(早稲田大学出版部、2002年)、論文に「淫らで残忍な女たち——インドネシア新秩序の反ゲルワニ・プロパガンダ」(大阪外国語大学グローバル・ダイアログ研究会編『痛みと怒り——圧政を生き抜いた女性のオーラル・ヒストリー』明石書店、2006年)など。

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