発行:明石書店
この版元の本一覧
四六判 232ページ 並製
定価:1,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2615-3 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年09月
書店発売日:2007年09月06日
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紹介
軍隊を持たない国は世界に20以上──中でも米国の影響が強いパナマとコスタリカを、渡航経験豊富な記者が訪れた。先住民や日系人、学者や運転手……様々な出会いと対話を通じ、生活と軍隊を考る。安全とは何か、平和は実現できるのか、父が娘に語る体験記。
目次
プロローグ
居間で
出発前に思ったこと
第1章 パナマ
首都パナマシティ
パナマの始まり
平和憲法を知らない村人
米軍の侵攻、ノリエガ逮捕と非武装
ドルと繁栄とマネーロンダリング
中立国家の交戦権
自由と貧困──共産主義について
平和憲法は「パナマ市民の総意」
運河地帯ってどんなところ?
専守防衛と集団的自衛権
日本人技術者たち
非武装は無菌室?──免疫論者の話
パナマと日本の知られざる縁
パナマから日本人が消えた日
シナゴーグのある街
クーデターと相続税の関係
「NO」といえないパナマ人
◎こんな方に会いました
タクシー運転手チャバリアさん(53歳)の半生
第2章 コスタリカ
銃と日本食
原生林に囲まれて
身近な政治、気さくな大統領
先住民の村
子供たちの暮らし
自由の意味
小さな国の平和とは──石橋さん一家と
武力か、対話か──石橋さんと2度目の会話
軍隊を持たないしくみは──アリアス財団にて
平和国家の市民警察
◎こんな方に会いました
エレディアの婦人デイシード・ローハスさん(89歳)の思い出
第3章 日本の安全、世界の平和
自衛隊、靖国、そして憲法
責任ある平和の作りかた
エピローグ
参考文献
前書きなど
プロローグ
居間で
──フミさあ、もうすぐ中学に入るんだから、少しは日本や世界のことについて考えたら?
そういうと、居間で寝そべってテレビを観ていた娘は、
「いやだよ。パパの趣味になんか付き合ってられないよ。戦争や外国は、もうこりごり」
イラク戦争のあった2003年。夏休みを利用して、小学2年生だったフミと妻との3人で、戦後3カ月のイラクを訪ねた(拙著『イラクりょこう日記』、映画『戦場の夏休み』に記録)。その時の旅が余程つらかったのか、フミは、海外旅行にすら関心を示さなくなっていた。
その時、テレビに出ていたコメンテイターがとうとうと語り始めた。「憲法改正すると、日本は……」テレビを観ていたフミは、「憲法改正ってなに? 何が変わるの?」と振り向いた。
──ああ、日本も軍隊を持てるようになるんだ。憲法っていう国のルールを変えようというんだ。
「ええ? 軍隊だったら、前からいたじゃん。フミだって、ヨルダンで見たよ」
──あれは、自衛隊だろ。今度は正式に軍隊になるんだよ。日本は、これまで憲法第9条で、武器を持たない、戦争はしない、平和国家なんだと誓っていたんだ。自衛隊だって、正式な軍隊じゃなく、敵から身を守るだけという決まりがあったんだ。その原則がなくなるんだ。
「ええっ! 大変じゃん。日本も戦争するようになるの?」
──その可能性だってあるよ。フミの時代は危ないよ。
「ええっ、ヤダー」
──ヤダーたって、しょうがないだろ。そういう時代なんだから。
「何とか、止められないの」
──うーん、難しいな。でも、方法はある。まだ改正したわけでもないし、世界には、日本と同じように、憲法で軍隊を持たないと宣言している国もある。
「えっ、日本以外にもそんな国があるの? 日本は平和憲法のある特殊な国だって、学校で習ったよ」
──あるさ、日本以外にも。
「爆笑問題の太田光が書いた本(宗教学者の中沢新一との対談)。『憲法第9条を世界遺産に』なんて、平和憲法を持っているのは日本だけのような言い方をしてるじゃない」
──そんなことはない。中米のパナマとコスタリカがあるさ。両方とも、日本の憲法に近い。実は、世界には、軍隊を持たない国が20以上もある。
「ええーっ、20も」
──日本もその一つだ。他に、バチカン市国、ハイチ、アイスランド、ドミニカ、グレナダなどの国も軍隊を持っていない。
そんな平和な国々の中でも、憲法ではっきり「軍隊を持たない」と明言しているのは、パナマとコスタリカと日本の三国だけなんだ。
「へえ、そうなんだ」
──そうだよ。じゃあ、パパの見たパナマとコスタリカの話をしようか。
「うん」
フミは、興味を示したのか、床から起きあがってソファに座り直した。
台所では、妻が後片づけをしている。時々、二人の様子を見てはクスクスと笑っている。フミが、久々に外国の話に耳を傾ける姿がおかしいのだ。
私はテレビを消し、コーヒー片手に話し始めた。
出発前に思ったこと
パナマとコスタリカは中米にある。私はフミに、地図を持ってこさせた。
──ほら、ここだよ。
中米は、アメリカ合衆国のある北米と、ブラジルやアルゼンチンのある南米の間にある。
──ほら、ここ。メキシコの下が、細長い渡り廊下のようになっているだろ。ここだ。
私は、フミに地図を指し示した。フミは、「こんなちっちゃい国?」と見つめている。
私は、地図を閉じた。そして、向こうの話をする前に、日本の状況を説明した。
日本の状況とは、最近盛んになってきている、憲法を変えようという動きだ。
最近、日本人の中には、「憲法を変えなければ、国を守れない」とか、「もう古い」「時代に合っていない」などという人が増えてきている。それは、北朝鮮がミサイルを日本海に向けて撃ったり、核兵器を作ろうとしたりしているからだ。さらに、中国や韓国による反日デモが続いたりすると、危機意識はどうしても高まる。自衛隊もイラクへ派遣された。
そもそも、なぜ自衛隊はイラクに派遣されたのだろうか。北朝鮮への威嚇の意味もあるのだろうが、そのきっかけは、1991年1月に起こった湾岸戦争にあった。
あの時、アメリカを含めた多国籍軍が、クウェートに侵入したイラクと戦ったが、日本は軍隊を持っていないことになっているので、兵力の代わりに130億ドル(約1兆5600億円)という大金を出した。ところが、それが評判を悪くした。
「なんだ。日本は、お金出して終わりかよ」「こっちは、人間を出して、犠牲者(死者)が出ているんだ」「一緒に血を流せよ」「卑怯じゃないか」と世界から非難された。
だから、日本の政府は、今度こそ世界から後ろ指を指されないようにと、イラクへ自衛隊を派遣した。もっとも、それだけの理由ではない。日本は、国連の安全保障理事会で、常任理事国に選ばれたいから、いいところを見せたかったということもある。
「常任理事国ってなに?」
フミが質問してきた。
──まあ、学校でいえば、生徒会役員ってとこかな。パパは、特に日本が、そんなに偉くならなくてもいいと思っているけどね。フミはどう思う?
フミは考え込んだ。だが、返答はない。
自衛隊がイラクへ派遣されたのには、もう一つ理由がある。イラク戦争はアメリカのブッシュ大統領が仕掛けたようなものだが、反対した国々もあった。大統領としては、自分が正しかったんだといいたい。そのために、自分の賛同者や仲間が欲しかった。そこで、日頃から最も仲がいいし、面倒もみてやっている子分のような日本に「賛同しろ」「協力しろ」と迫る。「お前の国にも石油を分けてやるから」なんて言ったかもしれない。
フミは、私の説明を黙って聞いている。
だから、日本は、自衛隊を派遣した。ところが、これを今の憲法の下でやろうとすると大変だ。憲法では、自衛隊の海外派兵を禁止しているからだ。本当は、自衛隊の存在自体も憲法違反かもしれない。日本国憲法では、「軍隊を持たない」と宣言しているからだ。それを「自衛隊は軍隊ではない」とか「守るだけならいいんだ」とか、いろんな解釈や理屈をつけて、やっと自衛隊は存在できている。それなのに、海外まで行くというんだから、無理が出てきた。
──イラクには、ほら、なんていったかな。
私は、自分の書斎に入り、新聞の切り抜きを持ってきた。
──ほら、これこれ。
フミも新聞をのぞいている。
「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」と書いてある。
「長〜い名前。漢字が多いね」
──お役所の付ける名前って、いつもこうなんだ。間違いのないように、正確に表現しようとするからね。裏を返せば、ミスが怖いからなんだろうけどね。
こんな長〜い名前の法律をわざわざ作って、なんとか行けたが、今度またこんなことがあったら、どうするんだろうということがある。アメリカだって、今日本にアメリカ軍の基地があり、たくさんの兵隊を日本に置いている。それはそれで金がかかる。引き上げるわけにはいかない。共産主義の中国や北朝鮮がいつ、自由主義陣営の日本を攻めようとするかわからないからだ。
「自由主義、共産主義って何?」
フミの質問に、私は少し考えた。難しい質問だ。
──えーとね。自由主義は、日本やアメリカのように、自由を尊重する考え方だ。共産主義は、財産の共有を目指す思想。故人の財産より国の財産を重要視するので、結果的に国のいうことをきかないといけなくなる。フミは、自由主義の国にいるから、いつも自由になってるだろう。
「そんなことないよ。学校では、いつも先生のいうことをきかないといけないから、窮屈だよ」
──まあ、そうだろうけど、その窮屈が、なにからなにまでそうなっているのが共産主義。休憩時間や学校から帰ってまで、規則が多いってとこかな。ちょっと、待って。それは、後で詳しく説明するから。今は、先を話させろ。最近では、フミも知っているようにテロの問題もあるだろ。
そういって、私は、テロと米国の説明をした。
テロの温床である中東を攻めるには、日本は絶好の中継基地だ。だからといって、米国は、軍の維持費は安くしたい。それには、日本に一部肩代わりしてもらうのが一番いい。だから「そろそろ日本も軍隊を持って、自分の国は自分で守ってよ。兵器も売ってあげるから、一緒に自由主義陣営を守ろうよ」とか言っているに違いないのだ。そのくせ、しっかりと中国とも仲良くしているし、日本からも兵器代を稼いでいる。
日本政府も「アメリカもそういっていることだし、そろそろ憲法を改正し、自衛隊を正式に軍隊にしようよ。軍隊にしてしまえば、今までのように面倒くさいへ理屈をこねまわさなくとも、いつでも、どこへでも海外派兵できる。海外で実績を積めば、きっと常任理事国にもなれる。世界の役に立てるじゃないか。日本も経済大国なんだから、それぐらいやって当然だろう。軍隊を持つなんて、独立国家として当然のこと。やっと、日本も普通の国になるんだ」という。また、国民も、もう戦争アレルギーはなくなってきている。第二次世界大戦の後は、「もう戦争はこりごりだ」「兵隊なんか見たくもない」と戦争アレルギーが残っていたが、湾岸戦争の後、機雷排除のための掃海艇を派遣したり、カンボジアやモザンビーク、ルワンダやゴラン高原に自衛隊を派遣した。少しずつ慣らしてきた効果が出てきている。最近では、北朝鮮のテポドン効果もあって、逆に、軍隊を望む声も大きくなっている。まるで、今が憲法改正の適時だといわんばかりに、「どうせ、アメリカの進駐軍が作った憲法なんだから、作り直そうよ」という。だから今、日本は、憲法改正論議がさかんになってきているのだ。
私の説明は長かった。しかし、ちゃんと説明しておかなければ次に進めない。続けるしかなかった。
──パパは、憲法が改正されると、自衛隊は軍隊になっちゃうという気がする。だけど、考えたんだ。ちょっと、待てと。その前に見るべきものがあるんじゃないかなと。それが、パナマとコスタリカさ。
これだけ、憲法をどうするかの議論があるのに、この二つの国のことがほとんど取り上げられていない。日本と同じように、憲法で「軍隊を持たない」と宣言している国だ。似ているから兄弟みたいなものだ。だったら、兄弟たちがどうやって、軍隊なしでしのいでいるのか気になるじゃない。どうして、彼らが、軍隊を持たない国になったのかも知りたい。議論にものぼらないのは、どういうわけなんだろう?
「本当だね」
フミは、ニコリとした。
──パパは、自分が勤めている新聞社に、パナマとコスタリカを取材する企画書を出したんだ。
「えっ、どうなったの?」
──結果はダメだった。通らなかった。中米のそんな小さな国と日本とを比べても仕方がないだろうといわれたんだ。
「なんで?」
──それは、新聞社が悪いということでもないんだ。新聞社だけでなく、それが日本の多くの人の共通の感覚だと思うよ。パパの友だちに尋ねても、「日本は大国だから参考にならない」というからね。
でも、私はひっかかった。軍隊を持つか持たないかは、国の大きさの問題だけじゃない。その国の理念や考え方とも関係する。憲法を改正しなくともうまくやっていけるアイデアを持っているかもしれない。それは、行って見てみないとわからない。
──それから、パパは思うのだけれど、軍隊を持たずに国を維持していこうというのは、人類の歴史で、初めてのことだと思うんだよ。
「え、そうなの?」
──知らないだろうけど、人類の歴史は戦争の歴史だからね。縄文時代は、そうでもなかったらしいけれど、弥生時代に入って、経済格差が出てきたり、集団で農業をやらなければならなくなって、戦争が当たり前の世界になってきた。
「縄文、弥生? 習った、習った。でも、そんなに違うの?」
──全然違うよ。縄文は、狩猟採集といって、木の実や貝や魚や動物をとって食べていた。弥生は、農業をやるようになって、計画的に生活できるようになった。蓄えができ、余裕が出てきたんだ。
「余裕が出てきたのに、争うようになったって、どういうこと? 豊かになったんだから、争いなんかなくなりそうじゃない」
──それが、人間の皮肉なんだ。食べ物が少ない時は、皆で助け合ってやっているが、余裕ができると、持ってる人と持っていない人の差が出てくるだろ。そうすると、豊かな人が、貧しい人を支配するようになる。農業は集団でやるから、リーダーが出てきて、土地を守ったりしなければならなくなる。すると、兵士が必要になる。兵士の強いグループは弱い所を征服して、より大きく、より強くなろうとする。村と村の戦いから、町と町の戦いになり、やがて国と国の戦争になってきたんだ。
「ふーん。怖いね」
世界は、戦争が当たり前になっている。なのに、日本を含めたこの三国だけが、「軍隊を持たない宣言」なんて人類初めてと思われる試みをやっている。そんな人類史上に残る壮大な実験をやっているというのに、あっさり、捨てちゃっていいのだろうか。日本は、そんな貴重な実験を諦めようとしている。「やっぱり、そんなきれいごとでは済まされないよ」「普通の国になろうよ」「大国に見合った国際貢献をしようよ」という風に。
──「ちょっと待ってよ」とパパは言いたいんだ。諦める前に、他の2カ国を見てみようよと。現実は、確かに理想のようにはいかないかもしれない。でも、新しい可能性をそう簡単に捨てることもないだろう。まず、パナマとコスタリカの実験を見てからでも遅くはないはず。でも、人は言うんだよ。「もう、わかっているよ。コスタリカは平和の国として有名だ。それでも、世界は何も変わりはしなかった。コスタリカの存在は無力だよ」と。実は、コスタリカは、平和運動家の間では、かなり知られている国なんだ。
「へえ、学校で習わないよ」
──そうかもな。でも、パパはコスタリカに対して、そんな風には思っていないんだ。平和運動家たちが思っているような理想の国だとは考えていない。
「え、なんで?」
コスタリカは、選挙をやっても70〜80%の投票率を誇る、政治的にはかなり優秀な国。環境先進国でもあり、人権を大事にする国としても知られている。
──でも、パパは、そんなことで、理想の国に祭り上げるのはどうかと思う。そういうシンボル化や、イメージ作りで、かえって平和運動家、平和愛好家を思考停止させてしまっている気がする。
「思考停止って?」
──考えることを止めるってことだよ。だって、「平和、平和」「戦争反対」とただ叫ぶだけで平和がくると思ったら、大間違いだろ。「平和」という呪文を唱えて、平和な気持ちになるのは本人だけ。現実は何も変わりはしない。「平和の国、コスタリカを見習おう」なんて唱えるのは、呪文を唱えるのと同じなんだよ。人は呪文を唱えると、考えることを止める傾向がある。だから、怖い。
私は、これまで紹介されたコスタリカのイメージを全く信用していない。私は、湾岸戦争やルワンダ内戦、アフガンの空爆、イラク戦争と、多くの紛争を取材してきたが、新聞やテレビや雑誌が伝える情報と現実とのギャップをいつも感じていた。
──フミだって、イラクを見ただろ。あの頃、新聞やテレビは「イラクはまだ、戦争状態」なんて報道していただろ。でも、フミが見て、どうだった?
「そうだね。普通だったね」
──普通って、何が?
「うん、どこにも爆弾はなかったし……」
そうだろ、食べ物も十分あったし、ホテルも車も、店も、みんな普通に暮らしていただろ。何も、怖いことなかっただろ?
「でも、暑かったよ。遠かったし」
──それは、仕方ないだろ。夏だったんだから。
読者や視聴者は、事実よりもドラマやスキャンダルを好む。私は、そういうもっともらしい報道が嫌いだ。だから、偏見のない普通の人が、イラクをどう見るか、それを知りたかった。だから、妻とフミを連れて行った。私の分析からすると、あの頃のイラクは、日本人にとって全く危険ではなかった。家族旅行もできるほど安全だった。なのに、報道は……。
「でも、人質事件なんか起こったじゃない。危なかったんじゃないの?」
──あれは、自衛隊が来たから危険になったんだ。人質事件の交換条件は、自衛隊の撤退だっただろ。自衛隊さえいなければ、日本人は狙われなかった。イラク人は馬鹿でも野蛮でもないからね。それまで、狙われていたのは、アメリカ人だけだった。パパは、その辺の状況判断はプロだからね。
「ふーん。まあ、フミは全然怖くなかったけどね」
──そうだろ。報道と現実は違うんだ。
コスタリカでいえば、「平和の国」「環境先進国」なんていう何か物語のようなわかりやすいイメージ。それもどこか嘘くさいと思ったんだ。
「コスタリカはいい国」「戦争するアメリカは悪い国」と結論が出ちゃうと、あとは何も考えなくなってしまう。世の中、そんなに単純ではない。
──フミだって、自分を振り返ってもわかるさ。いいことだってするけど、悪いことだってするだろ。友だちといつも仲良くしているわけじゃない。時にはけんかもするし、憎くもなるだろ。完全にいいやつなんていないよ。みんな欠点も長所もあるじゃない。人間って、いい部分と悪い部分を同時にかかえた矛盾した動物だからね。国だって同じだと思うんだ。
だから、パパは、コスタリカの欠点や弱点も見たかった。良いところも、悪いところも同じように見たいと思ったんだ。
パナマなんか、日本にはほとんど情報が入ってこないからね。「パナマに、軍隊はありません。日本と同じような“平和憲法”があります」と言っても、日本人100人のうち99人は、キョトンとしているはずだよ。
結局、パパは、夏休みをとり、パナマ、コスタリカに行くことにしたんだ。
「だから、あの時、パパは一人で行ったんだ」
──まあ、そうひがむな。これから、ゆっくり、その話をしてやるから。
「ひがんでなんかいないよ。フミはママと二人で北海道へ行って、楽しかったからいいもんねー」
──わかった。わかった。まあ、みかんでも食べながら、黙って聞け。
本題に入ろう。
関連リンク
著者プロフィール
吉岡 逸夫(ヨシオカ イツオ)
愛媛県岩城島生まれ。
米国コロンビア大学大学院ジャーナリズム科修了。青年海外協力隊員としてエチオピアに3年暮らす。カメラマン生活約15年を経て、現在は東京新聞記者。海外取材は、激動期の東欧、湾岸戦争、カンボジア、ルワンダ、アフガニスタン、イラクなど、約60カ国に及ぶ。1993、94年、東京写真記者協会賞受賞、1996年開高健賞受賞。
著書に『なぜ日本人はイラクに行くのか』(2005年、平凡社)、『漂泊のルワンダ』(1996年、TBSブリタニカ、2006年、牧野出版)など。
ドキュメンタリー映画『笑うイラク魂』『アフガン戦場の旅』『戦場の夏休み』などを監督。
ウェブサイト◎http://yoshi.net
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