市場モデルの学校選択は成功するか格差社会アメリカの教育改革
フレデリック・M・ヘス:編著, チェスター・E・フィン Jr.:編著, 後 洋一:訳
発行:明石書店
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四六判 472ページ 上製
定価:5,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2587-3
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年07月
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紹介

子どもの学力格差に悩むアメリカが進める教育改革。テストによる学校ランク付けや成績不振校への制裁など学校の自己責任を問う改革は成功するのか。詳細な調査に基づき実情を分析する。わが国の教育改革を考えるためにも必読の書。

前書きなど

訳者あとがき(抜粋)
本研究のねらいと内容
 ここでは、第一の段階として、本書に述べられた研究のねらいと主な内容についてまとめておきたい。
 本書の主なねらいは、「子どもを一人も置き去りにしてはならない(NCLB)」法二〇〇一の最初の二年間における履行と結果についての画期的な評価として、米国中の新情勢を概観するとともに、選ばれた諸州、地域社会と学校の新情勢を一層詳しく調べることである。
 主な内容の特色は、本書全体を通じて述べられているNCLB法に基づく教育改革(学校選択と追加教育指導)の理想と現実を事実に基づいて見事に浮き彫りにしていることである。ブッシュ政権の顕著な国内政策イニシアチブであり、過去少なくとも三五年間で最も野心的な連邦教育法として、NCLB法は、学校が絶えず生徒の学業成績を向上させるよう強いるための試験制度の採用・履行を各州に命じている。また同法は、成績の低い学校と学区を制裁し、成績の低い学校の子どもたちに向上した学校の選択肢を与える手段として、公立学校選択条項と追加サービス条項を含んでいる。一流の教育専門家と政策アナリストの考え方によって、重要な難題が明らかになり、政策への潜在的対応が指摘され、NCLBと米国の学校教育への影響が説明される。したがって、NCLB法の履行が進むにつれて、本書の研究結果は、政策立案者、教育界、および州・地元の役人たちに大きな価値をもたらすようになるであろう。

NCLB法とは
 二〇〇二年一月に制定されたNCLB法は、連邦全体の教育の質向上を目指した一九六五年の初等・中等教育法(ESEA)の改正法であり、次の四つの柱から成っている。
1 州内統一学力テストの実施と結果の公表(説明責任の重視)、
2 連邦補助金使用面での州および地方(学区)の裁量権拡大、   
3 基礎学力向上政策への集中投資、
4 教育機会の選択拡大。

 このNCLB法の中心に、諸州は第三学年から第八学年のすべての公立学校生徒にリーディングと数学の試験を毎年行うこと、また、全州は公立学校が中心的教科の生徒の普遍的熟達を目指して「十分な年間進歩」をとげているかどうかを評価すること、という必要条件がある。さらに学校は、全生徒を対象とするだけではなく、学年レベル、民族、ジェンダー、社会経済的地位、英語の熟達および特別なニーズによって分けられた下位集団ごとに成績を明らかにしなければならない。本書の序論には、NCLB法が所定の成績を収められない学校に与える二つの制裁が挙げられている。つまり、そうした学校の有資格の生徒たちによりよい公立学校へ転校するか、無料の個人指導を受ける機会を与えるべきであるという必要条件(同法による「追加教育サービス」)である。

NCLB法の学校選択条項と追加サービス条項
 NCLB法に基づく学校選択条項と追加サービス条項は、もたついている学校から離れられない生徒によりよい教育の選択肢を与えるだけでなく、そうした学校が向上する動機をつくることをねらっている。仮に学校が二年続けて十分な年間進歩をとげられないで、かつ連邦のタイトル1(二四頁訳注[4]参照)資金を受け取る学校であるならば、生徒に「公立学校選択」を与えなければならない。つまり当該学区は各生徒に十分進歩をとげている公立学校の選択肢を与えなければならない。もしある生徒の在籍する連邦のタイトル1資金の学校が三年続けて十分な進歩をとげられない場合、当該学区はその生徒に追加教育サービス(無料の放課後個人指導。経費は連邦のタイトル1予算)の機会を与えることになっている。さらに、学校が四年目になって向上できなければ、学校改善計画を受けさせられ、五年目に向上できない学校は改造されるという制裁がある。

各章の概要
 第二の段階として、本書の各章が提起した問題を以下に略記しておきたい(すでに言及した序章と編著者による本研究の結論に関する最終章をのぞく)。いずれの問題も読者が本書のエッセンスを理解するうえで非常に有益であると思われる。
 【第二章】公立学校選択に関する米国の広範囲にわたる先行経験はどのようなものであろうか。近年、公立学校選択の選択肢とその利用が急速に増加したが、どのような経緯で収容能力、交通手段や政治的抵抗などが公立学校選択の有効性を制限してきたのか。また、諸州と学区はどのように取り組むべきか。
 【第三章】新しい追加サービス条項、およびサービス供給者の市場がどのような経緯で具体化しつつあるのか。追加サービスの由来、NCLB法の目的、および同法の計画履行のために必要な対策は、どのようなものであるか。また、実際上どのような難題が生じているか。
 【第四章】NCLB法の選択関連条項は、諸州においてどの程度履行されているのか。状況は楽観できるものではなく、親による選択の履行も緒についたばかりである。しかし、時間が経過すれば履行はうまくいくのであろうか。
 【第五章】フロリダ州は、NCLB法選択条項にどのように対応したのであろうか。学校選択を推進する多くの政策と高度に開発された試験主体の説明責任制度がありながら、同州の学校選択がうまくいっていない実情を生じている原因は何であろうか。
【第六章】コロラド州において、地方の学校はどのような現実の難題に直面しているのか。同州の地方の小学区は、都市部の大学区のように個人指導がうまく機能しているか。同州全体にわたって、タイミングよい介入の必要な学校の特定は困難であるとしても、現在の公立学校選択計画を履行できるのであろうか。
 【第七章】ミシガン州はどういう事情から追加サービスと公立学校選択で苦難のスタートをきったのか。同州の学区が、今まで学校選択条項と追加サービス条項の履行という点では比較的貢献していないのはなぜか。単なるスタート時の問題ではなくて、根本的な問題があるのではないだろうか。
 【第八章】マサチューセッツ州の一〇大学区の公立学校保護者のNCLB法と学校選択への対応はどうであろうか。親はNCLB法が認めている選択肢に特に関心を抱いているのかどうか。同法の情報を広める責任を持つのが学区直属でない機関でいいのか。また、成績を十分上げていない学校の親が、当該学区内のどの公立学校へでもわが子をやる条件が整っているのか。
 【第九章】米国の大都市学区において、NCLB法による学校選択条項と追加サービス条項はどのように履行されているのか。両計画への参加率が低いとしても、学区はどのような問題に取り組んでいるのか。また、現在、米国の主要な学校制度において転校と追加サービスはどのように機能しているのであろうか。
 【第一〇章】サンディエゴ統一学区における難題は何であろうか。カリフォルニア州において、「改善を要する学校」の一覧表公表とバス通学に関連する計画履行上の問題は何か。また、NCLB法に基づく低学力生徒の移動は、受入校にどのように影響するのであろうか。
 【第一一章】NCLB法の二つの条項に抵抗すれば、小都市はどのような現実に直面するのだろうか。実際に、同法に基づく両条項の受給率がきわめて低いのはなぜであろうか。
 【第一二章】メリーランド州モントゴメリー郡の学校選択と追加サービスについて、どの学校がどの生徒を転出させ、転出した生徒がどこへ行っているか。同郡では、計画の遅れにもかかわらずかなりの人数が追加サービスを求めているが、実状はどうであろうか。

(中略)

結語——教育改革への貴重な示唆と提言
 周知のとおり、特に最近の英米両国の教育改革は、いずれも「学力向上」の方向を打ち出し、「教育水準」設定の共通化を図りつつ、学校の自主性を尊重し、達成度については学校の説明責任を問う、いわゆる規制緩和、市場原理、自己責任の手法をとっている。しかし改革の履行は決して容易でない。NCLB法による学校選択を例えばニューヨーク市に見ると、『二〇〇二年、一万三〇〇〇人の第九学年生が志願した学校のどこにも入学を認められなかった。そのために多くの親が私立のオルターナティブ・スクールを必死になって捜すことになった。』(本文四二頁)。また、同法の追加教育サービス(個人指導)に関しては、『この市場は全体で二四億ドルの巨額に上り、また一五〇万人もの子どもを教育することになるであろう。(中略)二〇〇二—〇三学年度、概算して三万人から四万人の子どもが無料の個人指導を利用したにすぎない』(本文七三頁)というきびしい現実がある。
 日本の場合はどうか。わが国の教育も多くの課題を抱え、地方分権化、民営化へ向かいつつあるといわれている。しかし、本来の教育を行う「条件づくり」が整備されているであろうか。改革や改善の履行に当たって、カリキュラムの統制や学校の管理のみを重視しすぎていないだろうか。言うまでもなく、改革や改善を真に成功させるためには、教育の本質や公教育の理念と目的の観点から、また教育の公共性と機会均等の観点から、諸政策や計画を根本的に再検討する必要がある。それだから一層、原著が提起した米国の学校選択、追加教育サービス(個人指導)と説明責任の研究は、教育政策と計画の理論と実際について多くの貴重な示唆と提言を与えてくれる。そして本書を、大学生・院生、大学教員、教育行政担当者、指導主事はもちろん、広く学校の教員、一般市民、子どもを持つ親等多数の方々がお読みいただければ幸いである。特に、学校が主役となって教育改革を追求していくべき現在、全国の学校・園における研修にも大いに役立つと信ずる。
 最後に、本書には訳者の気づいていない誤訳があるかもしれないが、読者の方々からご指摘いただければ幸いである。

後 洋一

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