ことばの障害ってなあに?
ジョン・E・ブライアント, トム・ディニーン:イラスト, 服部 律子:訳
発行:明石書店
この版元の本一覧
A4判変型 40ページ 並製
定価:1,200円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2582-8
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年06月
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紹介

主人公のマイケルは舌が前に出過ぎるために「s」や「z」がうまく言えないことばの障害をもっている。正しい発音ができるように学ぶ学校での授業の様子をわかりやすく説明しながら,ことばの障害のある子どもたちへの理解を深める。

前書きなど

訳者あとがき
 この本をはじめて手にしたとき、10年ほど前に目にしたアメリカのある子ども病院の廊下の掲示を思い出しました。障がいのある子どもたちのための福祉施設や病院、行政システムを対象とした海外研修に参加する機会を得て、アメリカとカナダを訪問したときのことです。ある小児リハビリテーション病院の廊下で印象的な掲示を見かけました。そこには、筋ジストロフィーの子ども向けの「自分を知ろう!」というプログラムと絵本が紹介してありました。プログラムは、就学前の幼い子ども向けのものからはじまり、年齢段階に応じていくつかのステップに分かれていました。内容は、子ども自身を対象として病気への理解を深め、病とともに生きていく力をつける方法とともに、病はあってもごくふつうの子どもとしての日々の楽しみを大切にするための知恵がたくさん紹介されていました。
 当時、発達障がいを対象とする言語聴覚士として働くなかで、保護者や幼稚園、学校の先生方に子どもたちの障がいについてお話しする機会がよくありましたが、障がいについてわかりやすく解説した本も少なく、手作りの十分とはいえない資料をもとにお話しせざるを得ない状態でした。ましてや、障がいをもつ子ども自身を対象とした、自分の障がいを知り、ともに生きていく力を育てるための教育プログラムや子どもが自分で読める本はなく、日米の差を痛感した記憶があります。
 この本では、「ぼくには、こういう障がいがあるよ。教えてあげるね」と子ども自身が語りかけています。
 子どもであっても自分の障がいについて理解し、しかも周囲の人にそれを説明できるようになることは、自尊心をもち自分らしく生きていく上でとても重要なことだと思います。
 この本では、イラストの子どものが実に子どもらしく、「こんな子いるいる」という感じに描かれています。障がいのある子どもたちは、決して悲しがってばかりいるわけでもなく、また障がいを克服するために常に努力を惜しまない優等生でもありません。いたずらもするし、けんかもするし、宿題を忘れることもある、どこにでもいるごくふつうの子どもたちです。
 障がいのある子どもたちに「そうそう、そうなんだよ」の気持ちを、そして障がいのある友だちをもっている子どもたちに「へー、そうなんだ。わかったよ」の気持ちを届けたいという思いを込めてこの本を訳しました。

 ことばに障がいのある子どもたちとのお付き合いは、約25年になります。
 これまで、言語聴覚士として、障がいのある子どもたち専門の療育センターとよばれる病院で働いてきました。そして、2006年春からは、大学にて言語聴覚士をめざす学生たちの教育に携わっています。
 言語聴覚士という仕事は日本では50年近い歴史がありますが、国家資格となったのは1997年で比較的新しいリハビリ専門職です。2007年3月末現在、言語聴覚士の養成コースをもつ大学が全国に15校、専門学校が42校あります。国家試験を経て、毎年1000名以上の言語聴覚士が誕生しています。しかし、私が言語聴覚療法を学んだ当時は、大卒を対象とした国立の養成校が全国に1校のみ、年間の卒業生は約30名でした。1年間という短い教育ののちに、すぐに臨床現場で働くことは、恐れにも似た緊張感を伴うものでした。1冊のみの教科書が頼りで、講義ノートとともに何度開いたかしれません。
 未熟なままに臨床の現場に出た私も、ことばに障がいのある子どもたちやその保護者の方、幼稚園、学校の先生方との出会いの中で、少しずつ成長できたように感じています。そのご恩返しの思いも込めて、今は自分が仕上げることができなかった宿題を引き継いでくれる言語聴覚士の養成をめざして、日々学生たちの指導に当たっています。

 時代とともに、障がいを取り巻く環境はめざましい変化をとげてきました。
 臨床に入って間もないころに担当したダウン症の女の子は、白血病により3歳の誕生日を待たずに亡くなりました。当時、障がいの早期発見早期療育が叫ばれており、ダウン症児のための発達プログラム開発の協力者として、彼女も日々の訓練課題に取り組んでいました。決してつらいものではなかったと思いますが、保護者の方も含めて、のんびりした時間がとりにくかったのではないか、幼い子どもが子どもらしく生きる時間を奪ってしまったのではないか、今でも折に触れその女の子のことが思い出され、もう確かめることができない問いかけをしていることがあります。
 最近出会った脳性まひの男の子は、小学生ですが、工夫したスイッチを使ってゲームを楽しみ、電動車いすを操作し、将来は大リーグで活躍するつもりだと伝えてくれました。彼には、重度の構音障がいがありますが、発音の訓練には積極的ではありません。積極的に話しかけることで、周囲の人の耳を慣らしていく、伝わらなかったときの言い直し方を工夫するという方法で、周囲とのコミュニケーションを実現しています。口述筆記により作文コンクールに入賞したり、ミュージカルに出演したり、何にでも挑戦し、しなやかに自分の障がいとともに生きています。

 ことばの障がいの中には、適切な指導さえ受ければごく短時間で解消してしまうものから、残念ながら障がいそのものをなくすことは今の科学ではできないもの、また基礎となる疾患によっては重症度が進行してしまうものまでいろいろなものがあります。発音がはっきりしない、ことばの発達が遅いなど表面に現れた現象は同じでも、その背景にある原因によって対処法は異なるのです。われわれ専門家の責任なのですが、医学的診断も含めてことばの障がいの背景を明らかにしないままに、あまり適切とはいえない方法で対処したために、子どもたち自身の努力にもかかわらず求める結果が得られず、本来あったはずの自尊心を失わせてしまうこともあります。
 ことばに何らかの障がいをもつことは、円滑なコミュニケーションの妨げとなり、日常生活の大きな支障となります。科学的知見をもとに治療可能な部分はきちんと治す、また障がいそのものをなくすことができない場合には、代償手段を駆使して障がいがもたらす生きにくさを最小にする工夫が可能です。
 障がいを克服して、一日でも早く他の子どもと同じようになることが目標であった時代から、障がいをもちつつもその人らしく夢をもって生きていくことを大切にする時代となってきました。
 「障がい」というのは、子どものほんの一部にすぎません。
 子どもたちの夢のお手伝いをこれからもしていきたいと思っています。

服部律子

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