発行:明石書店
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四六判 328ページ 上製
定価:4,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2549-1 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年05月
書店発売日:2007年05月15日
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紹介
ターリバーン政権崩壊後,国際的な援助を受けつつ国家再建を推進してきたアフガニスタン。しかし実質的な国家統合へのプロセスはまだその端緒についたに過ぎない。本書ではこれまでの過程を辿りつつ,宗教・民族・軍閥等克服せねばならない諸課題を検討する。
目次
まえがき(鈴木 均)
第1部 国家形成過程と国家の正当性
第一章 アフガニスタンの国家統合をめぐる諸問題(鈴木 均)
——憲法、ロヤ・ジルガ、教育
第二章 アフガニスタンにおける立憲政体の継起とイスラーム教(池内 恵)
第三章 二〇〇四年一〇月大統領選挙をめぐる政治過程(柴田和重)
第四章 アフガニスタン国家経済の再建(大西 圓)
第2部 国内勢力・周辺国が統合に与える影響
第五章 アフガニスタンにおける国民統合の課題(清水 学)
第六章 アフガニスタンにおける軍閥と中央集権(山根 聡)
第七章 アフガニスタンにおける周縁民族の統合過程(窪田朋子)
——ハザーラ人を事例に
第八章 アフガニスタン情勢の展開とパキスタン(深町宏樹)
前書きなど
まえがき
本書はアフガニスタンの国家統合をめぐる様々な課題をいくつかの異なるアプローチで検討しようとする論文集である。二〇〇三年度からの研究会活動の過程で、我々はアフガニスタンが現在直面している様々な問題の核心に「国家統合」の問題があるという共通の認識に至った。
この場合「国家統合」(National Integration)という概念で我々が考えている意味内容は、以下のようなごく常識的なものである。すなわちアフガニスタンに関して近代的な市民によって形成される国民国家をモデルとしてとらえようとする際に、まずさしあたりアフガニスタン国家を構成する主要な民族集団が最も重要な条件として想定されるだろう。民族集団の主要な構成要件としては共通の言語、宗教、血縁意識等が挙げられる。この民族集団がアフガニスタン国家の領域内における都市建設や交通通信インフラの設備、マスメディアの育成等を長期間にわたって整備し、やがて国内で生活するすべての国民がアフガニスタン国民としての共通の帰属意識を獲得したと仮定した場合、同国の国家統合は達成されたと見なすことが可能である。
このような国家統合の理念的な道筋を現実のアフガニスタンに当てはめて考えようとするとき、我々はすぐに同国が様々な意味において「国家統合」へのきわめて深刻な障壁を抱えていることを理解する。まずアフガニスタンの「主要民族」は何かといった場合、全人口の四割程度を占めるといわれるパシュトゥーン民族が相対的にはその位置を占めていることが明らかであるが、そこには第2部第八章で展開されるようにパキスタンとの関係で様々な制約条件が付随してくる。言語の問題についても同様であり、アフガニスタンではパシュトー語に加えて少なくともダリー語(ペルシャ語)が国語として定められている。ダリー語は現在のアフガニスタンにおいてむしろ実質的な共通語の位置を占めつつあるとすらいえる。だがアフガニスタン政府は少なくとも一九七〇年代まではむしろパシュトー語がアフガニスタンの第一の国語となるような方向で政策を選択してきたのであり、そこにはペルシャ語を国語とする隣の大国イランとの力関係などが色濃く影を落としている。
このように民族的に錯綜した状況をさらに固定化させているのが、アフガニスタンの地理的な条件である。アフガニスタンは全国地図を一見すれば明らかなように、その国土の中心部分をヒンドゥークシュ山脈が走っており、主要幹線道路はその周囲を大きく周回する構造になっている。このような地理的条件のもとでカーブルが全国的な首都としての機能を果たすことは著しく困難であるといわなければならない。
これらすべての阻害要因に加え、一九七九年一二月のソ連軍侵攻以降二二年間にわたった戦争状態が農村部を含めたアフガニスタン国内の分断状況を固定化し、その国民経済の健全な発展を著しく阻害してきたのである。対ソ連軍の農村部を含めた軍事的な動員は、アフガニスタン国民としての意識というよりはより土着的な宗教的防衛心を支えにしていた部分が大きく、この間の戦争が国家統合への誘引になったとは到底考えられない。むしろ一九八九年のソ連軍の撤退後においては様々な地方的軍閥勢力の台頭によって、国内の分断状況は著しく深まっているのである。
以上のように国家統合とは逆行する国内の分断状況が固定化し長期化するなかで、変化は突如として現れた。それはいうまでもなく二〇〇一年九月以降の米国の対テロ戦争であり、その一環としての米軍の空爆によるターリバーン政権の駆逐であった。それ以降のアフガニスタンにおける政治過程は、同年一二月五日に調印されたボン和平合意の方向で、まさに国際的な援助と指導によって「国民統合」を再び軌道に乗せる試みとして始まったのである。
ボン和平合意の内容はよく知られているように、まずカルザイ議長以下合意された閣僚名簿により暫定政権を立ち上げ、六ヶ月以内に緊急ロヤ・ジルガを開催して移行政権を樹立、その後は新憲法の草案を作成し、また政府機関を設立し、一八ヶ月以内に制憲ロヤ・ジルガを開催して新憲法を制定する。その後六ヶ月以内に新憲法下での自由選挙と新政府の発足に至るというものであった。このプロセス自体は新憲法の草案作りが難航したことや「自由選挙」を大統領選挙と国会選挙に分けて実施するという決定により、必ずしも当初の予定通りに進展したわけではない。だがそれでも二〇〇五年九月の時点で議会選挙にまで漕ぎ着けたということは、本書第三章のいうようにこのプロセスが一定の成功を収めたものと評価するべきであろう。
アフガニスタンの国家再建事業に関わっていこうとする場合にどうしても不可欠なのは、この国を一体どのような国に育てるかという長期的なビジョンであろう。それは一義的にはアフガニスタン人自身の構想に委ねられるべきことであるとはいえ、それに外側から関わる我々日本人にとっても決して無縁の問題ではありえない。そしてそのような長期的ビジョンのための手掛かりとなるのがアフガニスタンの歴史的な経験であることは改めていうまでもない。ソ連軍の侵攻期やその後の内戦期、ターリバーンの実効支配期を含めて、我々はアフガニスタンの歴史的な経験のなかから何かしら教訓を得て、将来に向けてこの国の可能性を引き出す努力をしなければならないのである。
アフガニスタンの通史的な記述としては、Ewans[2001](邦訳はユアンズ[2002])、Magnus et al.[2002]などのコンパクトな良書がすでにあり、日本では前田・山根[2002]も出版されている。また、より現代的な事象に的を絞った書物としてはラシッド[2000](原書はRashid[2001]として改訂)やグリフィン[2001]などの決定版ともいえる書物が出版され、また広瀬・堀本[2002]や川端[2002]、総合研究開発機構[2004]、内海[2004]、駒野[2005]が刊行されている。
このようにアフガニスタンに関する書籍が次々に出版され、同国に関する情報がかつてより格段に増えた一方で、現状での緊急の必要という狭い枠を超えた広い視野の出版物も現れている。日本では後に詳しく紹介する尾崎[2003]が特に注目に値するし、欧米では重厚な写真集のMichaud[2002]が出版されており、浩瀚な地名事典ともいえる基礎資料のAdamec[1970-78]はイランで再版されて入手が容易になった。またインドではBajpai and Ram[2002]も編集されており、これは書誌的なデータの扱いで問題が多いにせよ、少なくとも現在までの欧米におけるアフガニスタン研究の動向を俯瞰するための資料としては充分活用の余地がある。
アフガニスタンにおける復興支援のプロセスは、一国の国家的分断状況のなかからいかに統合された国民国家の基礎構造を立ち上げるかという試みであった。そしてそこには例えば諸民族間の伝統的な合議制度であるロヤ・ジルガをはじめ国民的合意を演出するいくつかの仕組みが周到に組み込まれていた。一九七三年以来断絶したドゥッラーニー王家の正統性を引き継ぐザーヒル・シャー元国王の地位をどうするかといった問題もその重要な一要素であったが、ボン合意によって予定されたプログラムは国民選挙によってカルザイ大統領を選出し、さらに議会選挙も終えて現状に至っている。
だがいうまでもないことであるが、アフガニスタンの国家統合の実質的なプロセスはこれによってやっとその端緒に至ったに過ぎない。二度にわたった国民選挙の過程を見ても、各選挙民は実際には帰属するそれぞれの民族集団に従って投票していることからそれは明らかである。今後とも長期間にわたる国際社会の支援と関心の持続のなかで、仮にボン合意以降の政治プロセスが「適切に」展開すれば、徐々に民族的な様々な障壁が解かれ、実質的な統合が実現していくものと考えられる。だがそこに至るまでのプロセスは、逆にアフガニスタン南部を中心に治安の悪化する現状においてあまりに困難が多く、山積する問題の全体像すら明らかになっていないというのが現状ではないだろうか。
このような厳しい現状認識を出発点にして、本書では「国家統合」をキーワードに以下二部構成でアフガニスタン国家の直面する問題を扱う。まず第1部ではアフガニスタンの近代国家形成における国家の正当性の問題をテーマ別・時代別に横断しつつ考察する。第一章ではアフガニスタンの国家統合における正当性をめぐる諸問題を、憲法、ロヤ・ジルガ、教育といった側面から検討する。第二章では憲法を軸に国家の正当性の問題を特にイスラーム法規定との関係において解明する。第三章では最近の大統領選挙のプロセスを跡づけることによって、ターリバーン後のアフガニスタン国家の現状を浮き彫りにする。第四章では「非公式経済」という概念の導入によって常識的な国民経済の外延部で肥大化した地方的な経済活動に接近し、今後のアフガニスタン経済の将来的な再建の方向性を探る。
このように「統合」への契機を検証しようとする第1部に対し、第2部ではむしろ逆のベクトルでアフガニスタン国家を表面的には「分散」に導くような諸要因の検討を行なっている。第五章は多民族国家としてのアフガニスタンの特質から国家統合に向けての課題を解明する。第六章ではアフガニスタンの現状を描写する際のキーワードとなっている「軍閥」について、歴史的・理念的に遡ってとらえ直そうとする。さらに第七章ではハザーラ人といったいわば「少数・周縁」諸民族の事例を検証し、諸民族の相対的な自立とアイデンティティの獲得がひいてはアフガニスタン国家自体のより強固に安定した統合を実現するという将来の道筋を模索する。最後の第八章では相対的なマジョリティであるパシュトゥーン民族がパキスタンとの関係のなかで直面している国家統合の矛盾を跡づけている。
編著者
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著者プロフィール
アジア経済研究所(アジアケイザイケンキュウジョ)
アジア経済研究所
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
連絡先 〒261-8545 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目2番2
電話 043-299-9500(代表)
URL http://www.ide.go.jp
鈴木 均(スズキ ヒトシ)
日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員
1958年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修了(学術修士)。1989-91年と1999-2001年の2回テヘラン(イラン)に滞在、9・11同時多発テロ事件はテヘランで体験。専門はイランおよびアフガニスタンの地域研究。
著書:『中東における中央権力と地域性——イランとエジプト』(共編著、アジア経済研究所、1997年)、『ハンドブック現代アフガニスタン』(編著、明石書店、2005年)。
論文:「ハータミー政権末期の全国選挙とイランにおける民主化の挫折——歴史的転換点としての第7回イラン国会選挙(2004年2月)」(『現代の中東』第42号、2007年)など。
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