世界をひらく数学的リテラシー
小寺 隆幸:編著, 清水 美憲:編著
発行:明石書店
この版元の本一覧
A5判 276ページ 並製
定価:2,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2479-1 C0337
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年01月
書店発売日:2007年01月09日
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紹介

世界の数学教育の新しい流れを紹介しつつ,これからの日本の数学教育のビジョンを描き,ひらかれた数学観をさぐる。学校と社会・市民生活をつなぐ発想をもち,キーワードは「現実世界と算数・数学」。小中高校の教師,研究者,新聞記者など多彩な執筆者も魅力。

目次

 はじめに[清水美憲]
 第1章 PISAが提起したひらかれた数学
  市民のリテラシーとしての数学[小寺隆幸]
  ——現実世界を読み解くひらかれた数学教育へ
  PISAが示した新しい価値観[小林道正]
  ——社会生活のなかで数学を使い数学に関わる力
第1部 数学と社会をつなぐ
 第2章 現実世界とむすぶ算数・数学の授業
  現実の量から予想を立て本質を見ぬく算数[山野下とよ子]
  ——教室の中だけで終わらない学習をつくる(小5・6)
  身のまわりのデータを集めて調べよう[平田富美代]
  ——「作業時間の予測」(小6)と「資料の整理と分析」(小4)
  スギ花粉飛散量を予測し花粉症対策を立てる[新井 仁]
  ——グラフ電卓を使い日常生活の問題を解決する(中2)
  アイディアグッズを科学する[植野美穂]
  ——中3・高1合同授業「知的探究科」
 第3章 数学との出会い——人生・市民・社会と数学
  市民と数学をつなぐ[元村有希子]
  ——「数学嫌い」は受験がつくる・身近な題材で生きた授業に
  卒業後の人生を支える高校数学[仲本正夫]
  ——数学と若者の成長・アイデンティティの形成
  数学的な「読み書き能力」を身につける[新井紀子]
  ——希望のための技術としての数学
  数学という快い思考の流れ[渡邊公夫]
  ——数学がわかるということ
第2部 新しい数学教育論をつくる
 第4章 数学を学ぶ目的とカリキュラム
  数学という学問から問う数学教育のあり方[浪川幸彦]
  ——子どもの発達を見据えた新しい系統性に基づくカリキュラムの提言
  数学と現実のあいだを往復できる学力を[増島高敬]【高は口ではなくハシゴ】
  ——基礎・応用の段階論を克服する
  中学校数学教育の新しいカリキュラム[杉山吉茂]
  ——テクノロジーを利用し問題解決能力を高める
  資料 新しい中学校教学科カリキュラム案
 第5章 数学的リテラシー論へ
  数学的リテラシー論が提起する数学教育の新しい展望[清水美憲]
  ——国際的視野から見た新時代の数学教育
あとがき[小寺隆幸]

前書きなど

新しい時代の数学教育のビジョンを描く
 わが国の新しい政権の最重要課題は、教育の再生であるという。この「教育再生」や「教育改革」に関するニュース、そして教育現場で起こっているさまざまな問題が、テレビ・新聞等で連日報道され続けている。教育界をとりまくさし迫った状況を理解しつつも、だれもが語れる「教育」の問題や、だれもが関心をもつ「学力」の問題が、マスメディアを通じていわば「消費」の対象とされ、教室での学習指導から遠く離れたところで議論されていると言えば言い過ぎだろうか。
 一方では、次の時代の学校教育のあり方が模索され、学習指導要領の改訂が目前に迫っている。また、来春2007年4月には、全国のすべての小学校6年生と中学校3年生を対象とする「全国学力・学習状況調査」が控えている。さらに、経済協力開発機構(OECD)による2006年の国際学力調査(PISA 2006)がすでに実施され、2007年12月にはその結果が公表される予定である。このような学習指導要領の改訂の動きと、これらの調査結果の公表を経た後には、「学力」論がさらに新しいステージを迎えることになるであろう。
 本書は、こうした状況下で、学校教育の中核を担う教科である算数・数学科の側から、新しい時代の数学教育のビジョンを提示することをねらいとして編まれた。「学力」をめぐる近年の議論の発端となったのは算数・数学であり、「学力低下」「学力向上」の象徴となり続けてきたのも算数・数学であったという点で、このことの意味は小さくないと考える。
 この新しいビジョンを探るために採った方法は、経済協力開発機構(OECD)による国際学力調査(PISA)の数学的リテラシー論が提起する「世界標準の学力」像を批判的に受けとめたうえで、わが国にふさわしい形で新しい時代の数学教育を展望するということである。
 PISAの数学調査では、学校で学んだことがらが社会生活において機能的に活用できるようになって身につけられているかどうかを、国際的に比較可能な指標によって明らかにするために、斬新な枠組みが示された。本書で示すように、この枠組みは、これからの日本の算数・数学教育が描くべき学力像に対し、多くの新鮮な示唆を与えるものになっている。本書では、それを、学校数学の目標論と内容論のみならず、教室実践にまで引きつけて吟味しようとしたのである。
 このことの背後には、主として次の三つの意図がある。
 第一に、わが国の未来を担う大切な子どもたちを前に、教室で日々奮闘努力しておられる教師のみなさんに対し、エールを贈りたいということである。
 第二は、新しい時代の教育のあり方が描かれつつあるこの時期に、教育政策の立案や決定に関わる人々に対し、問題提起をしたいということである。
 そして、第三に、教師や保護者、教育界の関係者に限らず、社会全体に対し、算数・数学の役割、ひいては学校教育の役割を改めて問いかけるメッセージを送りたいということである。
 学校数学は、単に分数計算ができるようになるため、あるいは方程式が解けるようになるために学ばれるのではない。数学の授業は、卒業まで、あるいは受験まで、じっと教室でがまんしながら学ぶ無味乾燥な時間であってもならない。新しい時代に必要なのは、技能の習熟に焦点化されがちな学校のなかでの閉じた算数・数学ではなく、社会と将来とにつながりのある、世界にひらかれた算数・数学である。PISAの数学的リテラシー論は、「思慮深く、身の回りの諸問題に関心をもった建設的な市民」として生活するために必要な諸能力とは何かを我々に問いかけることで、この「ひらかれた算数・数学」のたいせつさを思い起こさせてくれる。
 この「ひらかれた算数・数学」のたいせつさを、理論的・実践的に検討して問題提起することを意図した結果、本書のタイトルは『世界をひらく数学的リテラシー』となった。本書が、現在の教育改革の動きのなかで、「学力」論に一石を投じることになれば幸いである。

2006年12月
清水美憲

著者プロフィール

小寺 隆幸(コデラ タカユキ)

1951年生まれ。31年間都内公立中学校に勤務し、現在明星学園中学校・東京学芸大学附属大泉中学校講師。数学教育協議会会員。原爆の図丸木美術館理事長。テーマは現実世界とつながる数学の授業の創造。チェルノブイリ子ども基金ボランティアとして現地を訪ね子どもたちと交流することが喜び。編著書等に『地球を救え!数学探偵団』(1996年)、『時代は動く!どうする算数・数学教育』(1999年、以上ともに国土社)、『数学で考える環境問題』(明治図書、2005年)、『習熟度別授業で学力は育つか』(「未来への学力と日本の教育」第2巻、明石書店、2005年)。

清水 美憲(シミズ ヨシノリ)

1961年生まれ。東京学芸大学助手、同助教授を経て、現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科・助教授、博士(教育学)。OECD-PISA 2003、同2006数学専門家委員会委員。専門分野は数学教育の国際比較。主要刊行物に以下のものがある。
・Mathematics Classrooms in Twelve Countries: The Insider's Perspective. Rotterdam: Sense Publishers. 2006(共編著)
・Making Connections: Comparing Mathematics Classrooms Around the World. Rotterdam: Sense Publishers. 2006(共著)
・Teaching Mathematics Through Problem Solving: Grades PreK-6. Reston, VA: National Council of Teachers of Mathematics, 2003(共著)
日本の優れた授業のしくみを科学的に探求し、国際比較をとおして、その文化的な特徴を海外に発信したいと考えている。

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