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娘(息子、子ども)と話す−−

四六判の左右を10数ミリだけカットした変型判で、新しい翻訳シリーズの刊行を始めた。フランスのスイユ社が数年前から刊行しているのが原書で、『娘(息子、子ども)と話すーー』と題して、専門家である親が、「国家のしくみ」「非暴力」「宗教」「イスラーム」「人道援助」「左翼」「愛」「死」「アウシュビッツ」「神」「レジスタンス」「文化」「先史時代」などについて、問答形式で語るというものである。いずれも、けっこう、世の中の難問と言うべきテーマである。それを、子どもたちが退屈しないように、簡潔に説明することが求められるのだから、翻訳しても、上の判型で100頁から120頁程度の、小さな本である。

このシリーズの「人種差別」については、1998年に青土社が『娘に語る人種差別』と題して出版している。著者がモロッコの作家、タハール・ベン・ジェルーンで、すでに紀伊国屋書店、晶文社、現代企画室、国書刊行会などから主要な小説・エッセイが紹介されてきているから、注目度もある程度は確立している作家だ。青土社にはシリーズとして刊行する意図がないようだし、内容的には、なかなか面白い試みだと思って、それ以外のものをいくつか出すことにしたのである。専門書、思想書、文学書を出版するのは、もちろん楽しいが、いつか子ども向けの本を出したいと考えていた思いに見合うものだった。
自分が子育てをした過程を思い出してもよいし、ラジオの「子ども電話相談室」での子どもたちの発問を思ってもよい。子どもというものは、思いもかけない発想で、事態の本質を衝くことばを発する。親・大人はたじたじとなり、答えに窮する場合もある。それでも答える方法を見つけるために、大人は真剣に試行錯誤する。それが浮かび上がってくる作品ほど、読んでいて、面白い。答え方によっては、異論をもち、反論もしたくなる。著者から結論を押しつけられているというより、読者も、著者と娘(息子、子ども)の対話に参加していけるような感じがある。
すでに『娘と話す国家のしくみってなに?』『娘と話す非暴力ってなに?』『娘と話す宗教ってなに?』を刊行した。最初の本の著者は、レジス・ドブレ。私たちの世代にとっては、カストロやゲバラの武装革命論をまとめた『革命の中の革命?』の著者であり、ゲバラを追ってボリビアまで行って逮捕されたこともあるなど、けっこう数奇な運命をたどった人物だけに、いまどこに行き着いているかを知りたい欲求がある。『娘と話す宗教ってなに?』の著者はロジェ=ポル・ドロワで、版元ドットコムの会員社であるトランスビューが今年5月に出されたばかりの『虚無の信仰:西欧はなぜ仏教を怖れたか』は好評でよく売れているので、並べて展開してみるという書店もある。
いろいろと楽しみなシリーズなのだが、ここで生まれる問題は、定価の安さである。上に触れたような判型と頁数の本だから、定価はせいぜい1000円である。少し頁が多いもので1200円にできるかという程度。初版部数は2500部である。製作経費はもとより著作権料などを加算したら、仮に初版を売り切ったところで何ほどの「利潤」が生まれるかをいまさらのように計算してみて、絶句した。大手が手懸ける新書判や文庫判は初版数万部からスタートすると聞いてきたが、その意味が、あらためて身にしみてわかる。しかし泣き言を言っても仕方がない。世の中の難問と思想的に格闘してみようと考える、いまどき珍しい若者とこれらの本が出会うことができるように、いろいろな試みをしてみようと考えているところである。

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