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山陰への旅

まだ虫の声も聞こえる夜ではありますが、心地よい調べで眠れたのもほんの束の間。
今やストーブをつけようかどうか迷う夜寒です。
街路樹などに秋の気配を感じると、やはり版元としては仕事に精を出す頃かなと思います。
みなさまにはいかがでしょうか。
私どもは何をするのも人手を借りることが出来ない版元で常日頃忙しくしておりますが、今年に入り、忙殺され、逼塞しておりました。そして、不穏な日本の空気を注視する夏の日々。もどかしく、無力な毎日でもありました。

そんな暑い夏もただ汗をかくだけで過ぎようとする頃、このままではいかんと、「でるべんの会山陰の書店&図書館見学ツアー」に参加いたしました。自分にとっては原点を見つめ直す旅になるかなと思ってのことでした。しかし、そんな甘い期待をはるかに超える旅となり、本当に行ってよかった。
今はあのとき見た風景などが心の支えとなっています。
そんな旅日記をひとつ。

9月19~21日のシルバーウイーク前半。さて、初日は鳥取駅集合前に、ここは行かねばならない鳥取城へ。兵糧攻めでほろんだお城ですから暗いイメージを持っておりましたが(ゆるキャラもかつえさん!しかし公開停止)、鳥取市の官庁街の山際に広々とした天守台をもつお城で、少し高台となっておりますから、登れば登るほど、鳥取市内を見渡せ、よい景色です。何より日本に一つしかない丸い巻石垣は見物です。お城を堪能し、集合となりました。
十数名の参加者で、私にとっては初対面の方ばかりです。出版関係の勉強会とはいえ、扱うものも違えば働いておらえる規模も立場も違うものですから、お話してても珍しく聞かせていただいくことばかりです。とはいえ、みなさん気持ちの良い方ばかりで、それもこの旅のいい思い出につながっています。

鳥取市内では、まず定有堂書店を見学。ここをお訪ねしたことがないのは恥ずかしい話ですが、やっと訪問できました。なんといいますか、書店の領域をはるかに超えて、魔法の館みたいです。親切な店長さんもどんどんいろんな話をしてくださいます。なんとも楽しいレイアウトにその秘訣を尋ねると、「キャラが10年おきぐらいに変わるんです」とおっしゃっておられたのが印象的でした。本を買う魔法にかけられて、手にする本は数知れず。予算を超えて購入してしまいます。

そのあとは鳥取県立図書館を見学。いわずもがなの素晴らしい図書館ですが、具体的に何がどうなのかよくわかっていなかったのは確かで、職員さんからお話を聞くことで初めてよくわかりました。まず一番印象に残ったのは図書館のビジネス支援サービスです。起業、商品開発、技術動向等まで図書館にきて「調べたい」といえば、一般に手にすることが難しい資料も提供してもらえるという、館内見学でもその資料を見せて頂き、充実ぶりを実感。さらに、学校図書館支援センターとしての機能、さらに診療ガイドラインの変更も見据えた最新の情報を提供する医療・健康情報サービスの充実なども、いたれりつくせりです。私事ではありますが、ここはつい最近私も切実に利用させていただきたかった分野です。時々刻々と変わる医療情報は、最新を追うのは書店でも難しいと思われます。しかし、それをあえてしていこうという図書館の意気込みに驚きました。それから、注文があってからの搬出もその日のうちにという、なんという仕事ぶりでしょう。何を見ても「わーすごい」と口をぽかんとあけて見るばかりです。

図書館について、私にはこんなにも身近な仕事の相手であり、また個人としても書店よりももっと近いところで利用しつくしているのに、その作業場や細かな配慮について知らないことばかりでした。説明の上手な職員さんに、本当によくご案内いただき、とてもありがたく思いました。

初日から充実した見学ツアーでしたが、気持ちの良い宴席も今井書店の方に設けていただき、鳥取の夜は過ぎました。

さて、2日目は米子の今井書店本の学校ブックセンターと松江のアルトスブックストアへ。
今井書店本の学校ブックセンターでは、各人めいめいに広い店内をぐるぐる回りました。開店前のあわただしい店内の様子、開店すると同時に親子で来る人たちや何やら調べ物を探す男性やら地域のメディア拠点としての役割をよく感じます。ブックインとっとりで地方出版文化功労賞発表会などに参加し、今井書店の活動に触れたような気でいましたが、書店を訪ねることでどれだけ地域の人びとに必要とされているのかがわかります。また「BooCa」の棚も実際に目の前に見、年配のお客さんが手にとられる様子も見ました。しかし、店員さんにどのようなものかお尋ねすることもなく呆然と見ているだけになりました。まだまだ電子書籍についてこちらに質問をする用意がないのもあり、日頃の営業のお邪魔もできませんから店内で聞くことはやはりなかなか難しいです。圧巻の棚を見て、あとはJPOのHPから「BooCa報告書」があるということですのでそちらで勉強させていただきます。今井書店も今は雑貨も販売し、カフェも直営で、そのカフェで休憩をさせていただきました。

それから松江のアルトスブックストアへは、駅から松江の静かで懐かしい町並みを歩きながら向かいました。町中は丁度昼頃であることも理由かもしれませんが、人通りは本当に少なく、どこにそんな書店があるのかもわからないような通りに、ガラス張りの本屋さんとは思えない店構えのアルトスさんが突然出現しました。店内は手作り籠の展示販売、そのまわりの壁をぐるっと取り囲むように本が展示されています。こちらは雑貨と本とが見せるという次元で同一であるのが特徴かなと思います。本についてお話されるのはもちろんのこと、雑貨についても同様にお話されるというのは、なかなか売る側の力量がいると思われますが、
それが実現できているのでした。人気のない通りでも、ここにはお客さんが終始訪れておられました。

2日目も盛りだくさんのスケジュールでしたが、さらに松江からジェット船で海士町中央図書館の見学のため、隠岐諸島のうち、中ノ島へ移りました。ここからが更に楽しい旅のメインです。隠岐諸島は一度は行ってみたいと思っていた場所です。その上、今回訪問予定の海士町中央図書館は、「島まるごと図書館構想」を実現し、「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー2014」で優秀賞を受賞したところでもあり、いやがうえにも期待は高まります。

海士町菱浦港に着いて真っ先に驚いたのが、「ないものはない」のポスターでした。大変な力強さで納得させられる言葉です。そのないものはない、しかしその裏には「あるものはある」という意味合いもありますから、ないものとあるものを考えあわせて、町作りをしていくのだという見事な宣言です。そこから「島まるごと図書館構想」も出ているのだと思われました。これは「図書館のない島」という現実を逆に活かし、島の学校を中心に、地区公民館や港など人が集まる既存の施設を図書分館と位置づけ、ネットワーク化し、島全体を一つの「図書館」とするものです。この港にもしっかり本が置かれておりました。現在は14の分館と8カ所の返却ポストがあるそうです。

宿についてから隠岐神社を訪ねてみましたが、ここを見るだけでもこの島が風格をもった島であるかがわかります。神社そのものは昭和14年に建てられたものですが、同敷地は後鳥羽上皇の行在所として使われていた場所で、夕闇の中で見るととても幻想的でした。これだけでも来てよかった。
神社のまわりをうろうろすると、地域の人たちも高齢とはいえ、どう見ても自分の地域でみるおばばよりもはるかに元気そうです。

宴席から海士町図書館主任の磯谷さんと海士伝報堂さんも参加され、話しが盛り上がり、夜の図書館を訪問することになりました。夜の施設はそれだけでワクワクものですが、暗闇のなかに明かりをつけると本が浮かび上がります。現在3万弱の蔵書ということらしいですがどの本もよく顔が見えるような気がします。
各人めいめい図書館を巡りじっくり見てまわります。夜も更けてまた明日お邪魔することに。

さて、3日目の朝、早速海士町中央図書館へ。夜の顔とは全く雰囲気が変わりました。窓から見える景色と図書館の清潔でアットホームな雰囲気が見事で、既にお顔を知った磯谷さんも何かりりしく見えます。なんと素晴らしい場所だろうと思いました。しばらく見た後、図書館の概要を説明いただき、その数字がどんなものなのかわかりませんが、わずか2400名の島民のうち、利用登録者数は916名(島内650名)、利用登録率39%で町民一人あたりの貸出冊数が5.7冊になるということで、朝からごっそり借りていくおじさんの様子を見ても、大変な稼働率だというのがわかります。
学校図書館との連携がうまくいって、本好きな子ども達が増えているということでした。Iターン者が増加している海士町の人びとにとって、図書館の存在はとても大きいものだということがわかります。

写真1-1

写真2-1

たしかに、この図書館の窓から見た眺めを心に抱いて未来へ羽ばたく子ども達を想像すると(写真1,2)、とても暖かい気持ちになり、本をつくる側の人間としてはとても嬉しく思います。そういう場所を作りだしておられる磯谷さんの仕事はとても尊いことだと思いました。それでいて、磯谷さん本人は肩肘のはらない軽やかな人で、さあ帰るというころになって、のんびりと気軽に島を案内してくださる姿に、ますます尊敬の念は深まります。明屋海岸の美しい浜辺を見て(写真3)、しみじみといい旅だったと思いました。

写真3-1

あともう一点書きおきたいのは、その図書館での本の購入はすべて島の唯一の本屋さんであるブックスたなかさんで頼まれているということで、そちらの本屋さんにもお訪ねしました。町の書店というのはこういうところだったと思い出すような場所です。店主である奥様も少しお年はめされているかもしれませんが、ひとたび名刺を差し出しお話し始めると、鋭いご指摘をずばずばと。それはまた印象的な方でもありました。なんといいますか、矜持があるというのか、小さい書店だからとか、町に一件だからとか、そういう言葉では言い尽くせないものがあります。本の文化というのは、こういう人達に支えられてきたのだと思わされました。
最後の更に一言。港で食べたサザエカレーも美味しかったです。

このような機会をいただきましたでるべんの会さんに感謝するとともに、ご同道下さった皆様にも感謝しております。今思い出しても、胸のうちが熱くなります。図書館や書店さんを巡り、規模や立場の違いはあれど、やはり魅力があるということが本を活かしていくのだと思われます。さあ、がんばって仕事しよう!
 
高菅出版の本の一覧|版元ドットコム

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