竹島も尖閣諸島も「日本固有の領土」とは言えない
元外務省外交官の佐藤優氏は2012年9月7日付け毎日新聞のコラムで、「日本政府が尖閣諸島に関して『固有の領土だ』と胸を張って主張することはできない」と書いた。多くの外交官も同じ見解だという。それなのに、大多数の日本人は政府の建て前として言うことを鵜呑みにして、「固有の領土だ」と信じている。その人たちに、「アメリカも尖閣諸島は日本領と認めてはいない」と事実を告げると、のけぞって驚くことが多い。日本人だけ、日本だけの「日本領」なのだ。それを私たちは忘れ過ぎている。
同じようなことが、竹島についても起こっている。1年前の2014年5月、われらが安倍政権は、竹島は日米安保条約の適用外だと正式に表明しているのだ。(朝日新聞デジタル2014・5・13付)米国は竹島を日本の為に守ることはない。米韓相互防衛条約によって、韓国の為に守るというのである。もし自衛隊が竹島を”奪回”しようとすると、韓国軍と米軍に排除されてしまうというのが安倍政権そのものの正式見解である。
こうした状況は今回の安保法案の成立によって何も変わらない。安保法案が出来たから竹島と尖閣諸島を守れるようになった、とするのは単純なカンチガイにすぎない。というより、余りにも安保に関する勘違いが多すぎる。
日本は日清戦争の最中に台湾との間にあった尖閣諸島を領有化宣言した。日露戦争の最中に韓国との間にあった竹島を領有化宣言した。そして、その後間もなく両戦争に勝利して朝鮮半島と台湾を自国化・併合した。しかし、1945年の敗戦で朝鮮半島と台湾を手放した。手放すはずが手放されずに 宙ぶらりんになったのが尖閣と竹島なのだ。
「尖閣諸島は日本領」とする歴史文書は皆無だが、「中国領」の文書は多い。江戸時代の学者林子平の『三国通覧図説』(1785)の彩色地図では、尖閣諸島は日本とも琉球とも違う、福建省と同じ色に塗られている。
また、明治時代になってから、日本政府は中国(清)に対して石垣島や宮古島、西表島などを割譲する提案をしたことがあった。とても「固有の領土」に対する平時の仕打ちとは言えない。
竹島は朝鮮半島と日本列島の間にあったから、古来その存在は公知のものだった。明治になってから「発見」されたとは言い難い。20世紀になってから、日本政府があたかも新発見の島のように領有化宣言したのはムリがあった。
そうした尖閣の所属を巡る事実究明に奔走した井上清元京大教授の『「尖閣」列島ーー釣魚諸島の史的解明』の新版(950円+税)を小社第三書館 から新書判で刊行して3年。当初は新聞がなかなか「尖閣列島中国領説」の本は広告を載せなかったのが、昨今の新聞不況の所為か、ようやく規制緩和となって、売れ始めた。林子平の彩色地図も入って廉価だから、一読して目からウロコを落としてみてほしい。