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70年前の「ふるえる」若者たち

 2015年7月16日、安全保障関連法案が衆議院を通過。参議院での審議が始まり、多くの憲法学者がはっきり「違憲」だとする法案を、立法府が認めてしまうのか、注目されています。
 そんなタイミングで、小社は1945年に平均年齢18.5歳だった15人の戦争体験者の証言を、同じ数の現代の若者が「同世代」の物語として読み直した本を出しました。

 証言とともに、現代の若者による手紙を収録したことから、『若者から若者への手紙 1945←2015』(落合由利子、北川直実、室田元美)とのタイトルにしました。
 証言者はもちろん、平均年齢22.4歳のまさに安保法制に「ふるえる」若者たちの写真をあわせて掲載して、「同世代」として交わることが可能なのか、どうか、読者に判断してもらいたいと思っています

 さて、この本を編集する過程で、とても重い一言と出会いました。
 それは、約10年をかけて証言を編んできた著者たちが、ある証言者の遺族から言われた言葉です。
 中国人を生体実験したことなどで知られる元七三一部隊の少年兵として自らの加害体験を語ってこられた証言者の遺族が、著者らがまとめた原稿を手に、「被害(証言)は、いいんですよね…」とつぶやかれたと言います。
 これを聞いたとき(私が面と向かって言われたわけではありませんが)、加害体験をこれからも引き受けていく遺族の苦悩を思うと、私は目頭が熱くなるばかりで、言葉をつなぐことができませんでした。

 しかし、本書には「加害」とも、また「被害」とも割り切れない証言もあります。
 たとえば、敗戦後の「満州」から逃れる途中、自らの子を現地の人に預けて生き別れとなった方の証言があります。
 著書らは、その方のご自宅へ何度も通うなかで信頼関係を築き、そして過酷な半生を書き留めたのです。
 戦後、息子さんのことを思い続け、中国に探しに出かけたという半世紀を超える名も無きヒストリーを、私たちはどのように読むべきでしょうか?
 傀儡国家「満州」に出かけ、そして子供を他人に託してでも生きてほしいと願った若い母の語りを、被害体験として読むべきでしょうか? それとも……。

 あるいは、朝鮮半島出身で、当時は日本兵として南方に送られた若者は、捕虜となった連合国兵士を監視する役務につかされ、戦後に戦犯として死刑判決を受けました。巣鴨プリズンなどに約10年間投獄され、その後に釈放されたものの、日本国籍を失いながら帰国の途も閉ざされ、日本で暮らしてきました。
 彼の半生については、今月1日にTBS系列の「報道特集」でも詳しく報じられ、「加害と被害の狭間で」と紹介されていました。
 これらの貴重な証言から垣間見えるのは、戦争という国家間の「外交の果て」におかれた国民の多くは、被害や加害といった表面的な見え方とは違った状況にいやおうなく放り込まれる、ということです。
 そのことは、加害証言をされてきた方たちの遺族も、深い部分では理解されているのではないかと考えます。
 それでも、言わずにおれなかった一言に、私は打ちのめされたのです。

 今国会で審議されている武力攻撃事態法改正案には、「武力攻撃事態等」の際の「国民の協力」が明記されています。
 いわく、「国民は、国及び国民の安全を確保することの重要性に鑑み、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が武力攻撃事態等において対処措置を実施する際は、必要な協力をするよう努めるものとする」(第8条)とあります。
 このまま改正案が可決した場合、国民は武力攻撃事態はもちろん、他国が攻撃された場合(条文でいう「等」)であっても、国家に協力しなければならず、いともたやすく加害側に立ちかねないのです。
 このことを、直感的に理解したのがSEALDsをはじめとする学生たちで、彼・彼女らが「ふるえる」理由は、70年前の「同世代」がすでに示してくれています。
 いまこそ、祖国防衛のため中国を転戦した「少年」や、日本の発展のため異国に住み我が子を置き去りにしてしまった「若いお母さん」、あるいは歴史に翻弄されてはからずも戦犯とされた「青年」の言葉と向き合う時ではないでしょうか。

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