子どもたちと、かつて子どもだった大人たちへ贈る本をつくる
はじめまして。
九州大学で「子どもプロジェクト」を主宰し、「旅する絵本カーニバル」や「子どもとともにデザイン展」、「宮沢賢治展」を実施してきた目黒実を中心として、2015年の夏に立ち上げた福岡の小さな出版社、アリエスブックスと申します。
2009年より合同会社という形で企画・デザイン会社として「子ども」と「本」をテーマとし、展覧会やワークショップなどの活動をしてまいりましたが、「やはり自分たちで本自体をつくりたい!」という気持ちが高まり、出版社立ち上げに至りました。
弊社の最初の絵本は『鳥たちは空を飛ぶ』
。
目黒実によるポリフォニックな物語と荒井良二氏の美しい絵の、64ページに及ぶ絵本となりました。
自分たちで本をつくりたい!という衝動から出発した出版社なので、なんと出版社をつくった時点では、刊行予定は最初の1冊しかありませんでした。さらに版元として、ヨチヨチ歩きどころか寝返りがうてるかどうかの赤ん坊。さてどうしようかと、兎にも角にも次の刊行について数々の企画を練り、計画を立てていたところ…友人を通して福岡教育大学の先生から、福岡県宗像市の中学生と本をつくってみませんか、というお話を受けました。宗像市は「神宿る島」「海の正倉院」と呼ばれる沖ノ島のある、歴史深い土地。2017年の世界遺産審査対象地にもなっています。これまで展覧会やワークショップを通じて、表現者としての「子ども」の宇宙に魅了されてきた私たち。中学生とじっくり付き合いながらつくってみようか、ということに相成りました。
宗像市内から申込みのあった21人の中学生(偶然ですが全員女子)との半年間に渡るフィールドワークとワークショップの末、彼女らの手で物語・原画全てを作成したのが絵本『みあれ祭の日に』
です。
「神宿る島」と祭りがテーマになったことから(このテーマ設定も、彼女たちが行い審査により選ばれたもの)その扱いについて、このプロジェクトに関わる大人たちの間で、場合によっては手を入れるかどうかという議論がなされたこともありました。しかし版元としては、彼女たちをきちんと著者として敬意を持って接したいこと、本づくりや表現手法について導くことはあっても、その内容については歴史的な整合性を違えたり、思想や地域性を揶揄したりするようなことがない限り手を入れたくない旨をお伝えすると、行政や関係者の方々にもご了承いただけました。行政のこの決心については、すごいことだと思います。原画完成から2ヶ月半後の今年5月、子どもたちの瑞々しい感性による、心やさしい少年と、宗像市を象徴する鳥「オオミズナギドリ」の心温まる絵本が完成しました。
アリエスブックス3タイトル目は、文はいしいしんじ氏、絵は荒井良二氏による新たな試みの本『赤ん坊が指さしてる門』です。いしいしんじ氏が各地で行う「その場小説」によってうまれた8つの掌編小説の、ほぼ全ページに及んで荒井良二氏のドローイングが差し込まれた、絵本とも読み物ともとれる四六判。8つのお話のうち、6つは2014年の「みちのおく芸術祭 山形ビエンナーレ」にて制作されたもので、本年2016年のビエンナーレ開幕に合わせて刊行しました。「門」というテーマを通して、声なきものや、姿なきものの気配を感じる不思議な作品たち。赤ん坊や、かつて赤ん坊だった私たちが感じていた気配。その、ほのかな記憶がぼんやりと浮かんでくるような、素敵な作品となっています。
子どもたちや、いしいさんや荒井さんのように、『星の王子さま』の「大蛇ボア」が見えてしまうような素敵な大人たち(もちろん、ふたりもかつては子どもだった!)と、わくわくする本づくりをしていけたらと願っています。
ヨチヨチ歩きを目指し、やっとつかまり立ちができるようになったくらいの私たちですので、今後もみなさんのお力添えをお願いすることが多々あるかと思います。先輩方、何卒なにとぞ、宜しくお願いいたします。