今も風土と生きる「日本」のストーム・チェイサーの心意気
現在、製作進行中の『ストーム・チェイサー-夢と嵐を追い求めて』が、本日、印刷入稿。ほっと肩の荷が下りた。と同時に、販売に向けた新たに営業活動が始まるのが弱小出版社としての実情というもの。
版元ドットコムのサイトで2月1日に近刊のご案内をさせていただいたところ、その翌週の近刊の週間アクセスランキングで、なんと2位に! 出版社のこのネットワークに昨年10月に入れていただき、その効用を早くも実感。とはいえ書名の「ストーム・チェイサー(Storm Chaser)」は、日本でまだなじみがなく、一体何者? と思われる方も多いと思う。
簡単に言えば「嵐を追いかける人」なのだが、著者で、写真家の青木豊さんによれば、日本語でのネット検索でヒットするのはまれ、というか青木豊さんお一人という。つまり青木さんは、「嵐」を追いかけている日本人のプロのストーム・チェイサーの一人で、おそらく第1号ということになる。嵐に掛ける青木さんの思いは、ブログにもあふれている。
なぜ青木さんがストーム・チェイサーを目指したかは本をお読みいただくとして、少しだけネタを明かすと、青木さんが現在住んでいる茨城県筑西市が雷の多発地帯であったという、その風土性に起因している。
アメリカのストーム・チェイサーが主に追跡するのはトルネイド(竜巻)だが、青木さんが追跡する被写体は、筑西名物の雷が落ちる瞬間、スーパーセルと言われる巨大な積乱雲やそこから吹き下ろす風、ダウンバーストなど。
「なんだトルネイドじゃないんだ」とがっかりしないでください。手前味噌ながら、関東平野を統べるがごとくに覆い尽くすような壮大な雲や広大な天空を引き裂く稲光の写真は、アメリカの広大な平野を覆い尽くすトルネイドに負けてはいないのです。
さて、今回は書名の後ろにカッコ付きで(The Japanese Storm Chaser)と入れた。書誌情報では長くなるので省略したけど、「日本の」という点が、青木さんの密かな矜持でもあるからだ。
異常気象もこう毎年毎年異常が続くと、それが異常かどうかの議論もその内に起きるかもしれない。急変した天候による被害が出ると、気象庁や行政からの警報や注意報を出すタイミングが良かったかが問題になる。気象情報も衛星を使い、かなり精度は上がったとはいえ、その分情報に頼り過ぎ、異変をキャッチする感性は鈍くなっているのかもしれない。やはり基本は、空を見上げ、五感を研ぎ澄ませて、危険を肌身で感じることだ。
例えば、筑波山に懸かる雲の位置で、雨か晴れかが分かる。山頂付近を覆う「笠」なら雨、中腹付近を覆う「簑」なら晴れというように、微妙な雲の読み解きが明日の仕事を決めていた時代がそんな遠くない昔まであった。このように天気ををことわざとしたものを観天望気と言うが、いわば天気予報が発達していない時代の暮らしの知恵で、「猫が顔を洗うと雨」という遊び心たっぷりの観天望気もあるが、なかには科学的根拠に裏付けられたものもある。何しろ職業が漁師だったら、雲の読み解きを誤れば、それが生死につながるのだから、観天望気を覚えることが一人前になることにも通じたのだ。
観天望気は、もちろん本書でも紹介している。この辺は、日本のストーム・チェイサー、青木豊の面目躍如では、と思っている次第です。
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