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『遠野物語』の旅

 これから出版する本に『『遠野物語』のいまと昔―もうひとつの遠野を歩いて―』(金原左門先生 著)というものがあります。昨年の夏、この本に載せる写真を撮影しに初めて岩手県遠野市を訪れました。
 言うまでもなく、『遠野物語』は民俗学者・柳田国男の代表作で、遠野地方に伝わる怪談や不思議な話を集めた名作ですが、子供の時から怪談話が大好きな私は高校生の時にこの本を初めて読みました。カッパやザシキワラシ・雪女・山男、さらに幽霊の話など盛りだくさんの挿話に熱中した事を憶えています。いつか行こう行こうと思いつつもなかなか訪れる機会がなかった遠野の地に、昨年ついに降り立ったのです。
 「遠野郷は・・・・・・山々にて取り囲まれたる平地なり」と『遠野物語』冒頭にあるように、遠野は静かな盆地にある、思っていたよりも小さな町でした。しかも、夏休み前ということもあって観光客はまだ少なく、どこに行っても殆ど私一人だけという状態の時が多く、撮影も順調にこなす事が出来ました。
 滞在した3日間で、神社仏閣はもちろん、カッパが棲んでいるというカッパ淵や南部の曲がり屋と呼ばれる古い民家、蝦夷の末裔という安倍氏の屋敷跡、さらに道端に無造作に建っている道祖神や塞ノ神の石碑など、『遠野物語』に登場する場所は殆ど撮影することができました。
 そのなかで、何とも不思議な経験をしたのは「デンデラ野」という所を訪れたときでした。かつて、遠野地方には「姥捨て」の風習があり、年老いた人々は住まいを出て「デンデラ野」という野原に住まわされ、その僅かな田畑で作物をつくり、死ぬまでそこで過ごさねばならないということだったということです。
 私はレンタサイクルでその場所に行ったのですが、そこは山の麓にある小さな野原でした。そして自転車を止めて何枚か写真を撮っていたときです。夏のさなかだというのに、とても冷たく強い風が急に吹いてきて、周りの木々を激しく揺らし、大きな音をたてました。空もあっという間に曇ってきて、風が全くやみません。このとき、何とも言えない恐ろしさが襲ってきて、一気に鳥肌がたちました。まるで、「デンデラ野」に捨てられ亡くなっていった人たちの霊が私の周りを取り囲んでいるような恐怖をおぼえたのです。私には霊感も何もないのですが、こんな経験は初めてで、思わず合掌し(私には別に何の信仰もないのですが)、慌てて自転車に飛び乗り、その場を離れました。しばらく行くと、たちまち雲が切れて真っ青な夏空が再び広がり、セミもやかましく鳴きはじめ、元の夏の風景に戻りました。
 あれは一体何だったのか。今でもあのときの、肌が粟立つような感覚は忘れられません。
 実は、その「デンデラ野」の写真をこの本のカバーに使うことになりました。霊が映っていないか、目を皿のようにして確認したのですが、どうやら大丈夫のようです。でも、本当に何も映っていないのか、今でもちょっと心配ではあります。
 
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