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ネット上の情報と出版物上の情報

 12月になると必ず思い出すのが、2010年末の『流出「公安テロ情報」』騒ぎです。
 あれからもう4年になります。ネット上に公安警察の捜査情報が大量に流出。日本中のイスラム教徒・関係者1200余人を「テロリスト」容疑者としてリストを作成し、家族構成・日常生活から企業活動・商店経営・モスク参拝など事細かに調査し、尾行し、メールをのぞき見している違法捜査の実態がすべて実名で誰でもすぐ読める状態で露見してしまったのでした。その捜査活動を実施している公安警察員たちの氏名・住所・電話・家族構成までもが一緒に実名で流出してしまったのは、ご愛敬。
 第三書館はこの流出情報を全部1冊化して『流出「公安テロ情報」全データ』――イスラム教徒=「テロリスト」なのか(A5判460P。定価2000円+税)として発行。
 刊行と同時に新聞各紙が報道して、版元ドットコムへはメールが殺到。事務局の皆さんには大変ご迷惑をおかけしました。
 取次各社に見本を出しましたが、それと同時に東京地裁から出版差し止めの仮処分が出て、配本無し。
 裁判はこの本に実名で登場するイスラム教徒十数名が名誉毀損として出版差し止めを提訴したものです。この本を実名のまま出すかどうか、版元も考えました。しかし現に世界中の誰でもパソコンで数十秒の内にゲット出来る情報で、既に数百万人がダウンロードしていると報道されているものを、紙の上に印刷する時だけ抹消して出さなければならないとするならば、出版メディアの萎縮であり敗北だとして無修正での出版を決意したのでした。裁判の原告たちも実名で刊行されたから自分たちが違法捜査の対象にされているのを知りえたわけです。仮に彼らが裁判で主張したように、何処の誰であるかを絶対特定されないようにして出版していたら、本人も気づかず、本は何事もなく流通し、公安警察も糾弾されず、国賠訴訟もなく終わったことでしょう。
 取次が仮処分の段階で入荷拒否したため、版元に書店から直送依頼のあった注文は、書店に直送して取次回しの取次決済伝票を付けました。番線印の捺された伝票が返送されて、それをいつものように持参しましたが、取次は決済しないのです。仮処分の段階で入荷を拒否して、直送分の決済もしない。これが取次の「出版の自由」を守る姿勢の実態なのです。あれから4年経って、未決済分は、この定価2000円+税の本がトーハンと日販で合計600冊、定価で120万円にも上ります。
 それだけではありません。この取次側が取り扱いを拒否しているという本が、返品としては、返ってきているのです。つまり、取次は仕入れ代金の支払いを拒否した商品を知らん顔して注文返品として戻して現金を(版元への当月支払いから差し引く形で)得ているという訳です。版元側は売った本の代金を支払ってもらえないだけでなく、その同じ本を返品として現金買い戻しさせられているのです。取次企業のコンプライアンスという観点からして、いかがなものでしょうか。

 流出公安テロ情報に関するイスラム教徒対版元の裁判は、ネット上の情報アップロードについてはお構いなしだが、印刷物にしたとたんに怪しからんという理屈を裁判所が持ち出して来て、版元の全面敗北に終わり、最高裁まで行って約3000万円の支払い命令判決が確定しました。
 一方、イスラム教徒対警察の国賠訴訟は今年始めに一審判決が出て、東京都に総額約1億円の支払い命令が出ました。東京高裁での控訴審が2015年1月29日に始まります。
 このことでは、あさって施行される特定秘密保護法のことも含め、いくつかぜひ版元各社に聞いて頂きたいことがあるのですが、字数制限もあり、近々また書かせて頂きます。

 なお、原告たちの主張した通りに個人情報を全部抹消して出版するとどうなるか、どれほど黒塗りだらけになるのかを実証して見せた、この本の第3版を版元ドットコムで販売している(これは販売禁止ではありません)。この本を実際に手に取ってみて、ネット上の情報と紙の出版物上の情報 との違いについて考えていただければばと思う。

流出「公安テロ情報」全データ第3版

 
 
 
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