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今年も出版梓会の賞を逃しました

今年も出版梓会の賞を逃しました。
何年か前、版元ドットコム高円寺イベントの打ち上げで向いに座っていた上野千鶴子さんが、「あなたのとこ、梓会の賞に応募してるの、私審査員だから」とおっしゃった言葉を、ひょっとしたら贔屓してあげるという意味なのかと思い、以後毎年応募してるのにかすりもしない、勘違いだったようです。もっとも、受賞版元をじっくり見ると、うちと毛色が違うのは歴然なんですけどね。でも、今年の「関西電力と原発」はあるかもと思ったんですが。まあ、厳正にやっているのはいいこと、今最も手に入らないと言われているお酒「獺祭」も、品評会では入賞しないですものね。
あっ、獺祭です。

あれは忘れもしない今年の3月の、いつやったかな。あれ、忘れとるがな。
といつものフレーズで始まりますが、大阪の飲み屋で、「獺祭」の蔵元旭酒造の桜井さんとお会いしました。確か、モデルの高岡さんがこの席に呼んではったんですね。
場は盛り上がって、勢いでみんなで岩国の蔵におじゃますることになりました。
新幹線で徳山へ、そこから岩徳線に乗り換えて1時間ほど、そしてタクシーで20分。ほんまの山奥のまた奥に蔵はありました。
蔵を見学させていただいて、夜は、桜井さん行きつけのフグ屋さんで大宴会。
フグ刺しに始まり、から揚げ、鍋、雑炊、酒はもちろん獺祭飲み放題。
この時は、これで終わったんです。
話もそぞろにうろ覚え、美味かったなあという印象しかありません。

次に行ったのは、翌々月、うちのライターがフグ&獺祭をたらふくいきたいと言うもんで、蔵を見て、飲む、食う、ただし今回は瀬戸内の魚介類食べ放題でした。

ここで、日本酒の売り上げが30年で三分の一になっていること、旭酒造も最初は「売れない酒を、売れないところに、売れない方法で売っていた」こと、でも社員一同一生懸命がんばっていたこと、一生懸命がんばっていると、本人が達成感を覚えてしまい新しいことを生み出さないようになってしまうということ、杜氏が酒質を落としている張本人だったこと、営業に力を入れることを止めて美味い酒を造る、そのことに特化したら40倍に売り上げが伸びたことを聞きました。
なんか似てる、だめになりかたが僕らの業界になんかそっくり、でも、未来へのヒントもなんかあるような。

次に行ったのは、また二か月後。この時は、桜井さんの話を本にしようと思っていました。
売れるとは思っていませんでしたが、この話を、出版社や本屋さんの仲間たちに伝えないといけないという使命感を感じていました。
ここでお聞きしたのは杜氏の話。
旭酒造では杜氏に冬の間来てもらうために700万のお金を払っていたそうです。
経営は蔵の仕事ですが、酒造りは杜氏の仕事というのが業界の常識、経営者が「こんな酒を造ってほしい」と言っても、杜氏が嫌と言えば嫌、ひどい時は、途中で投げ出して帰ると言い出す。
杜氏の仕事はオイシイのですね。でも、その椅子の数は蔵の数しかない、そこで起こったのは年配の杜氏が若い優秀な人を潰していくという現実。もちろん、全部ではないでしょうけど、「若い連中は、こらえ性が無い」「最近の若いもんは口答えばかりする」と切って捨てる、テレビでよくやっているあれですね、必然的に杜氏は高齢化していきます。制作過程がブラックボックスですから、もともと手を抜いていた可能性も高いのに加え、歳がいくと体が動かなくなってきますから、よけいですよね。
こうして酒質を落とし、売り上げも当然のように落としてきたわけです。

蔵の数が多かった時は良かったんです、多分、日本酒の進化は歴代の杜氏の努力と等値です。そこは、間違いない。

旭酒造は、ひょんなことから杜氏に逃げられ、社員だけで教科書を見ながら純米大吟醸を造ることになりました、そうすると杜氏が造ったものより美味しい酒ができてしまったんです。手を抜かなかったというか、抜けなかったんですね。抜くポイントが分からなかった結果です。
この話を聞きながら思い浮かべていたのは、初期のジュンク堂書店です。

大手出版社のお金の話よりも、中小出版社の本作りのエピソードを愛し、お客さんと店頭で真剣にお話しする。そのお客さんが、また、店の人たちにあこがれて入社してくる。京都店ができて、京の老舗書店から中小出版社の営業も、大学生や大学の先生方などのお客様も、いっせいにジュンク堂書店に流れたのもムべなるかな。同時期、同じような傾向のアバンティブックセンターができたこともあって、駸々堂をはじめとした目抜き通りにあった書店は無くなっていきました。

プロは手の抜き方を知っています。それは短期的にはいいんです。売り上げが落ちても、合理化で利益確保ができますし、多くのコンサルもこの手法を取ります。でも、切るものが無くなる日が絶対来ます。

旭酒造は、岩国の山の奥に12階建ての蔵を建てています。これができれば、製造能力は4倍、どん底の時と比べると70倍になります。
でも、個々のタンクの大きさなどは変えず、現在やっている、手間のかかる製法をそのまま踏襲するそうです。スケールメリットはあまり無い。社員も相変わらず、地元のハローワークから雇っています。
経験者は、手を抜く手法を入れようとするので、やりにくいそうです。
いいものを提供するためには、手を抜かず、お金をかける、それだけ。
売り上げは結果であって、目的ではない。
そうなんですよね。
製造過程はすべて見ることができます。

執筆は、文藝春秋社を辞めたばかりで明日をも知れぬ状態の時、光文社の小説宝石の取材で、同じく明日をも知れぬ状態の旭酒造を取材し、以来20年獺祭を支持し続ける勝谷誠彦さんにお願いしました。勝谷さん、この仕事で日本全県の蔵をまわっていたので、20年間の日本酒の世界のことにめちゃめちゃ詳しかったんです。桜井さんも盟友勝谷さんに書いてもらえるのならあかんとこも含めてなんでも書いてくださいということで、このもくろみを快諾してくださいました。

ほぼ70時間に及ぶ、桜井さんからの僕の聞き取りは、「獺祭 天翔ける日の本の酒」を造る決心をするためだけに使われました。

10月1日に本書を発売して、今、3刷13000部です。

書店さんに営業に行っては、「売るのはええから、まず、読んでみて下さい。ここに出版社と書店の失敗と、希望が書かれていますから」とお話ししています。
そして、読んだ店長や社長から「ほんまや、でも、これはぼくらだけの話やない、日本の失われた20年の話や」という話をいただくようになっています。

帯を、桜井さんが「酒米山田錦の生産調整をやめさせて下さい」と直談判し、嫌がる農水省を動かした安倍晋三首相にいただいたので、右の本みたいに思われていますが。
そこは、勝谷さんから、極左だの共産党だの日々突っ込まれている僕が作った本です。
「今のままがいい」という、農協や自治体、業界団体、他の多くの蔵の、実態も書き込んでいます。そこは、買って読んでください。

先週、神戸大学で行われた「獺祭 新政 に見る日本酒業界の革新ー伝統産業は伝承産業ではないー」というタイトルのシンポジュームに行ってきました。
酒業界の風雲児「新政」の社長佐藤さんは、出版社から編プロを経て、実家に帰って杜氏になり、社長を継いだ39歳。日本酒業界内の改革派は5%ほどらしいです。その5%の中小の蔵の動きが、酒販店や飲食店を動かし、2011年に30年続いた日本酒の売り上げ下落が止まりました。

負けてられへんなと思う、今日この頃です。


獺祭 天翔ける日の本の酒

 
 
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