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風化させてはいけない戦争の記憶 ~陸軍登戸研究所~

今年で69回目を数えた「終戦の日」も過ぎましたが、日本国内でも世界でも、戦争やそれにまつわる話題に事欠きません。一方で、「終戦の日」について問われても、正確な日付を答えられない若者が増えていると聞きます。

――そんな若者たち、そして子どもたちに、戦争とはどんなものか、人を、国をどのように変えてしまうのかを伝えたい。

そんな想いから、69年前に若者だった方々が、とある秘密についてずっとかたく閉ざしていた口を開きました。彼らの口から語られたのは、おそるべき事実でした。

――戦争中、登戸(今の川崎市多摩区)には、秘密の研究所があった。そこでは日々、おそろしい実験や研究が行われていた・・・。

戦後70年を目前に控えた今年、てらいんくでは彼らの証言をもとに『ひみつにされた登戸研究所ってどんなとこ?』という一冊の本を刊行しました。ジャンルは児童向けノンフィクションで、小学生にもわかりやすく、「戦争」、そしてそれを支えた「登戸研究所」について伝えています。

■きっかけは、高校生の調べ学習

陸軍の秘密施設であった登戸研究所は、戦後、その存在が封印され、誰にも語られることはありませんでした。ところが、戦後40年以上も過ぎてから、川崎市内の高校生たちがその秘密施設にまつわる噂を聞きつけました。市民も一緒になって調べるうちに、登戸研究所で働いていた方たちに出会いました。彼らはずっとその記憶を秘密として抱え込んでいたものの、「辛い体験を若い世代にさせたくない」という想いから、登戸研究所について語り始めたのです。

■秘密の研究所

研究所で働いていた人々は、戦争当時から、決して研究所でのことを外で話さないように言われていました。ではその研究所では何が行われていたのか・・・。
それは、動物を使った細菌兵器の研究、女学生を動員した風船爆弾づくり、敵国で使うための偽札づくり、スパイ活動で使うための秘密兵器づくり、などでした。

終戦を迎えたその日から、資料は燃やされ、働いていた人々の口は閉ざされ、登戸研究所の存在は完全に封印されました。世間では戦争そのものの記憶も徐々に薄れていき、戦争を知らない世代がどんどん増えていきました。
それでも、登戸研究所にかかわっていた人々の中では、いつまでも辛く苦しい思い出として、その記憶は色鮮やかに残っていたのです。

彼らの想いをつないでいきたいと考えた市民たちは、「登戸研究所保存の会」をつくり、活動を続けています。登戸研究所にかかわった方々から実名で証言や資料を提供していただき、今回の『ひみつにされた登戸研究所ってどんなとこ?』にまとめました。当時の研究所を知る方々の生の声に、ぜひ子どもから大人まで触れていただき、戦争について、平和について考えるきっかけとしていただけたら幸いです。

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風船爆弾をつくる女学生たち

ところで、登戸研究所の史跡は、今でも「明治大学平和教育登戸研究所資料館」として保存されています。当時作られた動物慰霊碑や弾薬庫なども残っています。小田急線「向ヶ丘遊園駅」からバスが出ていますので、興味を持たれた方はぜひ訪れてみてください。

最後になりますが、当時登戸研究所などで研究の中心的な役割を担った伴繁雄さんが後に語った衝撃的な言葉を紹介します。伴さんは、毒物兵器を研究し、人体実験もしていました。

「最初は嫌だったが、だんだん趣味になった(自分の開発した薬の効き目がわかったから)・・・」

伴さんは、戦後、犠牲となった方たちの冥福を祈り続けました。

子どもから大人まで巻き込み、人を「人ではない何か」に変えてしまう戦争。
その記憶は、戦後どれだけの時が経っても、決して色あせさせてはいけないものです。
来年は、戦後70年。
戦後100年の日本は、そして世界は、どのようになっているのでしょうか。平和であることを願うばかりです。

●明治大学平和教育登戸研究所資料館
〒214-8571 神奈川県川崎市多摩区東三田1-1-1 明治大学生田キャンパス内
TEL: 044-934-7993
<開館時間>水曜~土曜 10:00~16:00
・小田急線「生田駅」南口から徒歩約10分
・小田急線「向ヶ丘遊園駅」北口から小田急バス「明大正門前」行き(終点で下車)
 
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