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緊デジへの参加、ありがとうございました。

ポット出版の沢辺です。版元ドットコムでは組合員社(まあ、幹事みたいなもの)の一員です。
緊デジ(経済産業省「コンテンツ緊急電子化事業」)では、JPO(日本出版インフラセンター )で標準化委員などとして参加し、また出版社申請と制作の仕事を担当しました。

版元ドットコムの組合員社・会員社へは、版元ドットコムの一員としてもたびたび協力をお願いし、多くの皆さんに、緊デジ事業に参加していただき感謝しています。

たいへん遅くなってしまいましたが、みなさんに報告とお礼をさせていただきます。

版元ドットコム会員社の緊デジ参加
まず、数字の報告をしておきます。

版元ドットコムの会員=192社(現在)のうち、59社に参加してもらいました。約31パーセントの会員社が参加してくれたことになります。
事業全体でみると、20パーセント前後かと思われます。

タイトル数では、フィックス型6,500ファイル、リフロー型600ファイルで7,000ファイル強、ドットブックとEPUBのファイル形式がそれぞれ半分ずつ。
制作金額の総計は1億円強で、補助金利用額はそのほぼ半分でした。
タイトル・ファイル数では全事業の10パーセント、金額で5パーセント程度を版元ドットコム会員社が担ったことになります。

データはとっていませんが、初めて電子書籍を制作したという社がとても多かったと思います。それゆえ、著者からの許諾を得る作業、校正作業など、多くの初めての作業が必要で、日常の出版業務に支障をきたしたと想像しています。

自社の書籍の電子化に補助金を受けるわけですから、出版社にはメリットはたしかにあったと思います。しかし、現在の電子書籍の売上状況からすれば、今回電子化に費やした作業量を売上で回収するのはなかなかむずかしい状況だと思います。
特に、校正は、はじめての電子書籍制作でどこをどこまで校正する必要があるかも手探りだったと思います。
実際、ポット出版の現場の様子では、これらの作業に振り回されていたようです。

「こんなに大変だったのか、沢辺に騙された」と思った方もたくさんいたと思います。

 
緊デジをとおして中小出版社の課題として見えてきたこと

僕自身は、この緊デジ事業にかかわることができて大変勉強になりました。
この機会がなければ、電子書籍事業の実務をまだまだ実感としても持つことができなかったと思います。みなさんのお陰で勉強させもらって申し訳ない気持ちです。今後、ここで学んだことを、みなさんに返せるようにするつもりです。

さて、電子書籍制作・販売の課題はいくつも見えてきました。
ひとつは、仕様の標準化です。
仕様というのは、紙の本でいえば「本文13級、41字×17行、ぶら下げあり、( )内11級に級下げ、、、」などというイメージのものです。
中小出版社にとって、電子書籍を発注するための仕様を策定することはとても困難です。
これはまったく単純な理由です。千人社員がいる規模の出版社なら、数人を電子書籍の専属担当にし調査・研究していくことはできるかもしれません。
実際、KADOKAWAは「KADOKAWA-EPUB 制作仕様」をネットワークで公開しましたが、iPadなどの端末と、さまざまな電子書籍書店のビュアーソフトで表示テストを何度も繰り返したと聞いています。これらを数人~数十人規模の中小出版社が行うのはほとんど無理なことだと思います。
各社ごとに仕様をつくるより、版元ドットコムの会員社などがみんなで利用できる仕様の標準化が必要だと思い至りました。
また、アマゾンのEPUBであるmobi(モビ)も、ある種の独自仕様ですし、ほかにもビュアーごとに表示のバラつきがあります。
電子書籍が標準化されていけば、販売する電子書籍書店のビュアーが表示できるようにすればいいということになります。
(大手出版社中心となった電書協が「電書協EPUB 3 制作ガイド」を公開したことは、こうした取り組みの第一歩でした)

ふたつめの課題は、緊デジでつくった電子書籍の今後の利用の仕方です。
特にフィックス型のものをどう活用していくか。

 
プリントオンデマンドの利用

三省堂書店などでは店頭でPDFデータからその場でプリントオンデマンドで紙の本を印刷・製本するサービスをしています。アマゾンにも同じようなサービスあります。このプリントオンデマンドによって、増刷まではできない書籍を長く提供することができます。

緊デジでは、600dpiのtiff(ティフ)という形式で、保存用の画像を納品してもらいました。これはプリントオンデマンドのためのPDF作成に利用できます。
tiffファイルから自動的にPDFに変換するシステムをつくればローコストで利用できるのではないか、と思っています。

 
OCRによる、画像からのテキストファイルの作成

OCR(光学式文字読み取り装置、画像にある文字をテキストデータにするもの)はまだまだ精度が低い、読み取りミスによる誤字の数が多いということです。
しかしこれは技術の問題です。今回緊デジでスキャンした紙面の画像データは活かすことができるようになると考えています。そのときに緊デジでは、紙面の傾き・ゴミなどの汚れ・コントラストなどが調整された画像があるのですから、OCR技術が進歩すれば大活躍してくれるはずです。

 
電子図書館での利用

電子図書館はここ数年で大きく進む可能性を持っています。
今回のフィックス型だけでも販売できるのか? 画像に検索用のテキスト(OCRで抽出したもの、誤字が残っていても検索には利用できる)があれば販売できるのか? などまだまだ未確定のことが多いのですが、緊デジ制作で、電子図書館に販売するための元データをつくったといえます。

今回の緊デジの仕事で得たことを、今後の自分の課題にしようと考えています。

 
そのための第一歩として、電書ラボという研究チームをつくりました。
電書ラボとは
メンバーは、版元ドットコムの組合員のほか、プログラマー・制作者・研究者などではじめました。

まずはじめに仕様の提案をつくりました。
「電書ラボEPUB制作仕様」について
電書ラボEPUB制作仕様

一度、ウェブサイトを見てもらえればと思います。
電書ラボ

 
中小出版社のこれからの電子書籍制作

僕は、中小出版社はまず新刊から電子書籍制作を初めるのがよいと考えています。
著者の許諾を紙と同時に一回ですませることができる、制作コストも出版社の校正のコストも一番かからないからです。

一方そのためには整備すべき課題もたくさんあります。
仕様のこと、校正をはじめとした作業手順のこと、電子書籍書店で販売するという流通のこと、さらにはその存在をいかに多くの人に知らせるかというプロモーションのこと、などなどです。

こうしたことを含めて、6月あたりに「電子書籍にあまり取り組んでいない出版社がいま取り組むべきこと/新刊発行時に、EPUBで電子書籍を制作・発売」といったテーマで版元ドットコム勉強会(版元ドットコム入門)を行おうと準備しています。改めて告知しますので、その際はどうぞご参加ください。

あらためて最後に、緊デジ事業への参加や協力に心から感謝します。

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