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「戦後」ついていろいろ考えてみた。

 この3月いっぱいで、熊本市の喫茶店・居酒屋「カリガリ」が閉店になる。1971年に水俣病闘争(水俣病を告発する会)の拠点として開店した。水俣病に限らず、さまざまな社会問題に異議を唱えて、運動、報道、論争、調査、報告しようとする人たちの集う場所として活気に満ちていた。私が店に出入りし始めたのは90年代になってからなので、70年代から80年代初めにかけての、時代の流れを変えるほどの思想と行動力を持った人たちを生み出した頃の雰囲気を知らない。店主の松浦豊敏(労働争議の専門家)、渡辺京二(水俣病闘争の理論的指導者、近代史家、評論家)、石牟礼道子(『苦海浄土』著者)の3人を編集人として『暗河(くらごう)』という雑誌が発言の場としてこの店から刊行されていた。この雑誌の特に創刊号(1973年刊)は、出版という仕事を続けていくうえでいろいろな意味で精神的な支えになっている。「カリガリ」は閉店してもその店と同時代の記憶は、生き続ける。

もうひとつのこの世
もうひとつのこの世


 今年(2014年)は日露戦争開戦から110年。陸軍の精鋭部隊がロシア軍の後方の動きを偵察するために敵の中へ騎馬で潜入した後、帰還するという実話をもとに『敵中横断三百里』が昭和5年に『少年倶楽部』に連載された。その挿絵を描いたことで知られる樺島勝一の評伝『心の流浪 挿絵画家・樺島勝一』を刊行した。この人は芸術的な絵画をいっさい描かず、雑誌に挿絵を描き続けた。大衆絵画やデザインに徹したわけでそこに親近感が持てる。船と海を線だけで表現したペン画がすごい。細部へのこだわりが、この人の生き方を表しているようだ。

 日本近海の島々が太平洋戦争後しばらく占領されたのち本土へ返還されたことをほとんど意識することはない。1972年の沖縄返還はよく報道されるが1953年の奄美群島返還、1968年の小笠原諸島返還はあまりニュースにならないので意識されない。4月に『小笠原諸島をめぐる世界史』を刊行予定。特に、なぜ小笠原諸島が本土から1000キロも離れた太平洋上にありながら日本の領土でありえたのかを当時の外交史に照らして、具体的に記しており、先人たちの苦労に胸を打たれる。また、夏ごろ、奄美群島の喜界島出身の作家・安達征一郎の作品を今の大学生たちはどのように理解したのか、さらに奄美から日本を見るとはどういうことなのか、それをまとめた『喜界島の文学と風土』を刊行予定。構成がひじょうにユニークなので同世代の若い読者にもぜひ読んでほしい。

 来年(2015年)は戦後70年。前述の小笠原、奄美返還に関連した企画のほかに、高度経済成長期にみられた「集団就職」という独特の現象をまとめる企画がある。「戦後」という時代が作り出したものとして、「故郷」を出た人たちと見送った人たちの当時と今の声を聞きとり、まとめる予定。いわゆる「ふるさと」というイメージは、戦後70年の間に、さまざまに変化したのではないだろうか。生誕地、移住地、転勤地、嫁ぎ先によって、複数の「ふるさと」を持つ人、ただひとつの「ふるさと」にこだわる人、「ふるさと」を持たない人などがいる。漠然とした「ふるさと」像を、集団就職を経験した世代はどのようにとらえているのか。生きづらい世の中で、この点はかなり重要な気がする。

昭和の貌
昭和の貌 《あの頃》を撮る

 昭和7年から昭和20年までのわずか14年間だけ存在した満洲国。植民地でもなく、日本本土でもない、もうひとつの日本である。近現代史を考えるとき、あるいは明治・大正・昭和初期に生まれた人物の足跡をたどるとき、この満洲国の存在を考えないわけにはいかない。この地を直接知っている世代は、戦後引き揚げて後、「もうひとつ別の人生を歩んだ」と表現する人もいる。忘れられないことばだ。節目にあたる年(2015年)に、日ごろ意識しない忘れかけている文言を改めて深く考えてみたい。
 
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