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「南島叢書」とわたし

昨年11月に『島の小説集 二天抱擁』を南島叢書95巻目として刊行しました。

90巻目の奄美の地元紙南海日日新聞に連載された長編ユーモア小説『板付け舟で都会を行く』の後、久々の本格小説、しかも島にまつわる因習と島に暮らす人々の内面を何気ない日常に深く投影した私小説ともいえる短編集です。
著者はペンネームを使い、来歴等をあえて伏せてはいますが、日本の古代文学や信仰、歌謡、民俗学の研究者であり、その専門知識がこの小説に魅力的な奥行きを与えていることは間違いありません。
弊社の新刊のコマーシャルになってしまいましたが、興味のある方は弊社のホームページで立ち読みしてくださるとうれしいです。

さて「南島叢書」に話をもどします。
「南島叢書」は弊社の看板のシリーズで初代社主(と言ってもまだ私で二代目です)が1982年にスタートしました。30年以上をかけてようやく100巻のゴールが見えてきたのですからまさしく牛歩の歩みです。地方出版の例にもれず何度も立ち止まりそうになった時がありましたが、苦しい時にいつも読み返すのが「南島叢書刊行に際して」であります。
32年前、出版の志をこめた決意の文です。

その後、もちろん弊社のみならず南島論や離島論が多く出版という形で出てきましたし、先の社主作井満自らもいくつかの小論をおこしています。
その中の一つに「離島論 宮本常一のはげまし」があります。編集者として「沖縄文学全集」(国書刊行会発行)を企画し、南島叢書を60巻ほど出し終えた頃に書いたものです。彼はこの宮本常一の離島論との出会いの中で柳田民俗学の「南島イデオロギー」や「植民地主義」についても学んだと言っていますし、南島叢書という出版に引き寄せて離島論を次のように書いています。
少し紹介させてください。

離島論がおのずといまひとつの政治論の位相をもったのは戦後のこの国の成り立ちをみてもたちまち了解できる。高度成長をはたし、世界に冠たる経済大国などといってマスコミが浮かれ、日本人の誰もが腹一杯食うことができ、飽食にまみれ、猫も杓子もこぞってダイエット・ブームがごときご時勢を眺むれば一目瞭然。なぜなら、驚異的な経済発展こそが離島、僻地、辺境を形成したのであり、戦後のあまりもの大都市への人口吸収は、そのまま過疎化の再生産でしかなかったのだから。本土と離島の人口格差の現実、政治と経済の二本立てによる離島化の推進は、いかに離島振興事業を言葉よろしくはやしたて、「島を愛しましょう、自然と人情のみちあふれた島へ!」とキャンペーンをやったところで所詮焼け石に水。そういう意味でも、離島論をわたした  ちは政治論で終わらせるのではなく、現実の島人の日常論にコミットしつつ展開していくべきではないだろうか。
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昨年12月、スタンダードブックストア心斎橋で「Shima-Jimaナイト奄美」と題して黒糖焼酎を飲みながらのトークイベントがありました。仕掛け人の一人は離島経済新聞社の鯨本あつこさんでした。トークショウは奄美群島の各蔵元から黒糖焼酎がふるまわれて、長崎県出身のフォトグラファー高比良有城さんが群島を巡って撮り集めた奄美の島々の写真を眺めながらのとても気持ちの良いイベントでした。そうそう、奄美の郷土料理の豚骨とツワブキの煮物、鶏飯、豚味噌などなどもとても美味しかったです。大阪でもこんな本格的な島料理を味わうことができるのだと感激しきりでした。
もともとは奄美の各島々の黒糖焼酎の蔵元が黒糖焼酎を全国的に広めたいということから始まった企画らしいのですが、この群島を串刺しにする発想が今後の弊社の南島叢書に必要だと黒糖焼酎に酔いながら感じ入った次第です。

なんだかとりとめなくなってきてしまいました。
要は南島叢書100巻を目指してやってきてまもなくという時にふと振り返ってみたくなったのですが30余年前の「南島叢書」発刊の志を受け継ぎつつ今あるものを未来に向けて批判的に継承するとはどういうことなのかを考えています。
世の中のグローバル化が進んで地理的ハンデはハンデではなくなってきました。経済的に立ち遅れた分、「手つかず」と言われる多くのものが残りました。
島尾敏雄のヤポネシア論にある「昔の日本にあって今の日本にない日本的なもの」がそれです。離島であるがゆえに奄美の島々には豊饒な自然が残り、ユネスコの世界遺産の候補にもなっています。

では、奄美の島々は取り残された楽園なのでしょうか?

今年のお正月休みが過ぎてから1通の転居通知の葉書が届きました。
都会から入植し、32年余りを徳之島で過ごし、離島の経済の立て直しと有機農業のあり方を模索し続け、島の農業家に多大な影響を及ぼした人です。
彼が今般徳之島での生活にピリオドを打ったというのです。

まず、今年は彼に会ってじっくり話を聞くことから「南島叢書」を考えてみようと思います。
 
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