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21世紀のグーテンベルクを目指して

 岩手県大船渡市のイー・ピックス出版と申します。実は当社の法人名は有限会社大船渡印刷と申します。創業は、昭和35年4月。私の伯母が活版印刷の会社を始めたのですが、1ヶ月後の5月24日には大船渡市をチリ地震津波が襲い、印刷設備は全て被災。たいへんな苦労を重ねてこの創業期を切り抜けました。
 その後は日本経済の拡大と共に社業を発展させましたが、40年代後半からはふたたび苦労の連続だったようです。
 私が印刷会社を引き継いだのは昭和54年でした。しかし過当競争やインターネットの発達、パソコンの急速な普及などで苦戦が続きます。このままで、はたしてこの会社は21世紀まで生き残って行けるのだろうか…。
 そんな不安をかかえ、あと数年で21世紀になろうかという1995年頃から、当社の生き残りをかけ、新たな「理念」づくりをはじめました。その根底には、「紙の印刷にこだわっていたのでは21世紀に生き残れない」という強い危機感がありました。紙の印刷以外の商品、たとえばホームページ制作や動画制作などを自社の商品にするためにも「印刷」とつく社名を捨てなければならないと考えていました。そこで考えた新しい社名は「イー・ピックス」(E-PIX)という名前です。「E」には「Exciting」と「Excellent」の意味を込めました。「PIX」は「Pictures」の短縮形で、「写真やイラスト」などのビジュアルコンテンツの意味を込めました。「わくわく楽しく、上質なビジュアルコンテンツ」を作り、社会貢献できる会社になろうという気持ちを込めたのでした。
 その時に作った理念は次のようなものです。

●     ●

 「21世紀のグーテンベルク」になりたい、それが私たちの願いです…。
 私たちイー・ピックスは「情報の加工と流通」を通して、人類の幸福と豊かな地域社会の創造に貢献いたします。印刷の父グーテンベルクは、中世の社会にあって、印刷技術の開発と実践を通してその時代の人々に光をもたらしました。
 私たちも21世紀のこの時代にあって、印刷の父グーテンベルクの気概を思い起こし、「情報の加工と流通」における21世紀のパイオニアとしての誇りを持って地域社会に貢献いたします。

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 思えばたいへんな理念を作り上げたものでしたが、この理念そのものが「イー・ピックス出版」誕生のきっかけになったのです。
 わたしはこの理念を名刺の裏に刷り込んで、21世紀最初の年の2001年1月から配り始めました。その中の一人に私の友人の山浦玄嗣さんがおりました。山浦さんは地元に住む医師で、地域の方言「ケセン語」の研究家としても知られる人物です。彼はカトリックの信者であり、わたしも同じ教会の信者ということもあって毎週会う機会がありました。その山浦さんに会ったとき、わたしは意気揚々と山浦さんに言ったのです。

「山浦先生、大船渡印刷は21世紀をきっかけに名前を『イー・ピックス/(有)大船渡印刷』と呼ぶことにしました。『21世紀のグーテンベルク』を目指し、地域の貴重な情報を加工して流通する仕事をして、社会貢献するつもりです!」
 その時山浦さんは目をキラリと光らせ、言ったのです。
「熊谷くん、君が『21世紀のグーテンベルク』というなら、グーテンベルクはどんな仕事をした人物か知っているかい?」
「ハイ、先生。もちろん承知しています。彼は活版印刷の技術を研究して聖書を印刷し、世界で初めて商業印刷をした人物です。」
「フム、その通り。ところでわたしは今、ケセン語で聖書を翻訳しているんだが、君が『21世紀のグーテンベルク』というならば、わたしのこのケセン語訳聖書を出版してみないかね?」
「せ、先生! ぜひ出版させてください。一緒にケセン語訳聖書をつくりましょう!」

 わたしは、この不思議なめぐり合わせに歓喜し、「これぞ神が自分に与えたもうた仕事」と信じきったのでした。
 紙の情報媒体から少しずつ離れ、ホームページや動画コンテンツの制作に取り組んで行きたいと考えた理念と社名だったのですが、結果、イー・ピックスは「イー・ピックス出版」として紙媒体である本の出版をする事になったのでした。
 ここまでがイー・ピックス出版の創業秘話です。
 ここまで読み進んでくださった出版業界の先輩諸兄の中には「怖いもの知らずにも程がある。方言で書いた聖書を商業出版するなど、なんという無謀」と感じた方も多いでしょう。
 しかし幸い(?)にも、当の本人は商業出版など一度たりとも経験のない「ずぶの素人」。商業出版がいかに危険な博打なのか、経験がないのでわかりません。このケセン語訳聖書は半年おきに合計4巻のシリーズで出版しましたが、1巻3,000冊を制作するのに約700万円かかりました。つまり4巻作るのに2年間で2,800万円の投資をしたことになります。
 今思えば冷や汗が出る話ですが、その時は出版の喜びで資金のことなどあまり考えませんでした。
 ちなみに『ケセン語訳聖書』はB5判300ページ、上製本で朗読CD付きの豪華な装丁になっています。地方文化の志の高い仕事を、上質な装丁でしっかりと表現したかったのです。
 作品:ケセン語訳新約聖書3 ルカによる福音書 | 山浦玄嗣全著作案内 | イー・ピックス/有限会社大船渡印刷
 結果、この仕事は出版前にNHKの教育テレビで取り上げられることになり、出版後にも次々と新聞・雑誌に取り上げられ、10年掛けて15,000部を完売。グーテンベルクの「二の舞」で倒産することなく今日に至っています。(^-^)
 この話の続きは止めどがありませんので、いつかの機会に譲るとして、「3.11」の大震災の話を少しさせて頂き本号は終わりたいと思います。
 (2004年4月、『ケセン語訳聖書』全4巻を携えバチカンの教皇ヨハネ・パウロ二世に謁見した際の記念誌に詳細がありますので興味ある方はご覧ください。04年 ケセン語訳聖書・バチカン献呈への旅

 東日本大震災では、当社の社屋は全壊し機械類は全て流失してしまいましたが、幸いデータの8割くらいは保全できました。それというのも過去のデータをDVDに焼いて自宅に保管していたことと、会社から逃げるときにほとんどのハードディスクを持って逃げることができたからでした。これは、大きな地震があるたびに社員みんなで危機管理について話し合っていた成果でした。
 過去のデータを保全できたことは会社の早期再開につながり、今日に至っています。皆様もデータの保全に関しては万全を尽くされるようおすすめいたします。
 震災後に参加させて頂いた版元ドットコムですが、この組織の素晴らしさを生かしきれずおります。つい最近では語研の高島さんの情報で三省堂のオンデマンドシステムを知り、『ケセン語訳聖書』のオンデマンド版が日の目を見ましたが、皆様からの貴重な情報を吸収できずにおります。また、皆様に役に立つ地方発の情報も全然出せないでおります。(オンデマンド版『ケセン語訳聖書』
 これから少しずつ皆様との交流を深めながら、こちらからもお役に立つ情報を提供できればと考えております。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

いわてイーハトーヴ書店(イー・ピックス出版直営Webショップ
 
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