味噌仕入れの5月、『マイ・レジリエンス』刊行の4月
2013年5月4日佐久市望月町式部 にて
障子が明るんでいる。時計は6時をまわった。寒い。
庭には一面に霜がおりている。1週間前は雪が降った。
今日は恒例の味噌仕入れのために家族と友人たちが集まった。3年前までは、朝4時に起きて、釜に火を入れた。おととしからは、前夜から火を入れ、9分どおり煮あげる。どっちみち、庭でビールを飲みながら、バーベキュウーをして、ワインを空けて、途中で温泉に行き、お茶を飲み、歌い、弾き、星を眺め、深夜までなんやかやと起きているのだから。味噌仕入れの私のやりかたは、こうだ。
材料
豆1斗、麹1斗、塩5.5キロ。ときどき大麦(押し麦)2キロ。
作り方
- 仕込みの前々日、豆を大釜に浸す。丸1日浸した豆を、夜かまどで煮る。9分通り煮る。
- 翌朝さらに火をくべ煮あげる。豆の煮上りの目安は、薬指と親指で簡単につぶせる程度。
- 挽肉機のような豆つぶし機でつぶす。ロート状のうえの口から豆を入れる。ハンドルをまわすと、ミンチされた豆がにょろにょろと出てくる。この作業がみんな好きだ。「ああ、味噌仕入れだ」という、満足感と充実感に浸る。敷物に広げて人肌加減まで冷ます。
私の子供のころ、高度経済成長前は、ゴザの上に広げたが、いまはビニールの上に広げる。 - 冷めた②に、麹と塩をのせる。
- いよいよクライマックス、ビニールの敷物のまわりにみんなが陣取り、素手で豆と塩と麹をまぜる。
- 途中で、豆の煮汁を適度に加える。
- いろいろな人の手が入るように、混ぜたら向かいの人の前に静かに投げる。
- 都合、ミックス作業を8回繰り返す。
- 赤ちゃんの頭ぐらいの味噌玉にして、桶に詰めていく。このとき、たたきつけるようにして空気を抜くといいらしい。
桶もかつては、木の桶だったが、今はプラスチックの桶に替わった。木の桶には桶くささがある。 - 桶に詰め終えたら、上を晒しでおおって蓋をする。
しかし、最近は晒しを使わずに、サランラップでおおっている。時代は巡る。
桶は、味噌部屋に置いている。その家特有の麹菌が壁に生息していて、固有の味噌に仕上げてくれるらしい。麹菌ちゃんに、「ありがとう」と手をあわせる。
夏のあいだに麹菌ちゃんは活発に働く。このところの暑さですでに活発に働いているかもしれない。秋になれば食べられる。
いま私は、3年もの、2年もの、1年ものの味噌を、気分で選んで使っている。
今回、3年味噌は使い切った。3年物は、さすがに香りがきつい。好みだけれど、私は若いほうが好きだ。あとは1年、2年ものが残っている。
実は、2年ものと1年もの、どちらがどちらの桶かわからなくなってしまっている。つまりあまり変わりないように思える。
今年の豆は、おととし収穫した豆。先日、2キロほど東にある大木村の鈴木さんちに豆を買いに行ったところ、「去年は収穫できなかったんです。鹿に食べられてしまって。一昨年の豆があります」。味に変わりはないから、ほとばす(浸す)時間をすこし長くすればいいということだった。
麹の調達を、うっかり忘れていた。仕込みの5日前に、去年頼んだおむすび長屋に電話したら、「今年やめたんです」という話。まあ、どうしよう。多津衛民芸館のタキちゃんに電話した。
「麹が手に入らないんだけど、なんとかならない」
「4日にいるの? ちょっと頼んでみるから待ってて」
このシーズン、いつも頼まれて麹を出してくれるというおばさんに頼んでくれた。
甘~い美味しい麹が手に入った。秋に味をみるのが楽しみ。
春の一大イベントが終わった。
さちさんの体験
4月、梨の木舎の一大イベントは、さちさん、中島幸子さんの本の出版だった。
さちさんの自分カラーはピンク、来ている服や持ち物はピンクが多い。それにつられるせいなのか、かもしだす雰囲気はソフト、話し方はやさしく的確。自分のイメージや主張を、例をひきながらわかり易く伝える。押し付けがましくはない。
さちさんには文房具の収集癖がある。大小のクリップや付箋。付箋は形や大きさ、柄、さまざま用意しているという。黒いクリップではなく、柄の入ったクリップに、「これ素敵ね」ともらした。コップいっぱいほどのきれいな柄入りのクリップをプレゼントしてもらった。縞あり、水玉あり、色も青やピンクやとりどりで楽しい。
さちさんはDVの被害者だ。仲間と一緒にNPO法人レジリエンスを立ち上げ、10年になる。10年のイベントと出版記念会を一緒にお祝いした。新刊は、『マイ・レジリエンス――トラウマと生きる』。
さちさんの体験は厳しい。大学に入ってすぐ知り合ったボーイフレンドから、4年半にわたり暴力をうけた。暴力の体験は、聞いているだけで痛い。なぜ離れられなかったか、さちさん自身、何回も自問したに違いない。トラウマティック・ボンディングとして本書で説明されている。
自分の感情を出すとそれが暴力につながった。暴力を振るわれて泣くことが、さらなる暴力を生んだ。さちさんは、生き延びるためにすべての感情を押さえ込み、自分の感情の出し方がわからなくなった。
「みんなでご飯食べにレストランに行くでしょ、でも食べたいものが見つからない」
「今日何がしたい?どこか行きたい所ない?ときかれても、何も浮かばない」
「今日寝るまでに楽しみにしていること、一つあげてといわれても何も見つからない」
長い間、慢性的なうつを抱えて生きてきた。さまざまなカウンセリングを受け、自分の体験を少しずつ振り返ることができるようになった。
本書の中に、ネコ好きならとてもうれしい、猫好きでなくてもぐっと来るエピソードがある。キキという名のネコの話なのだが、とても賢いまるで人間のようなネコで、誇りたかい。キキのやりかたで、さちさんに寄り添ってくれた。さちさんが一人で大丈夫だということを見極めたとき彼女は天国に旅立った。「さち、もう大丈夫だね」というように。さちさんは、いろいろな人から支えられた。彼女自身も多くの人を支えてきた。これからもそうしたい。そのために本書を刊行した。さちさんにとっては、つらい仕事だった。
レジリエンスのメンバーと一緒に、今までに本を2冊出版した。
『傷ついたあなたへ』と『傷ついたあなたへ 2』。
1冊目は4刷りになった、つまり7000冊を売り切った。
それは、幸さんたちがDVの被害者の体験から学び、体験者を支えるために刊行された。
DVは蔓延している。DVを招くのは支配とコントロールである。恋人や妻を「自分のものだ」とする所有意識が根底にある。旧民法が、いまの日本でひょっとして生きているの? 女には何も決めさせられないって思っているの、統治者は?
「命と女性の手帳」?!
政府の少子化対策として、「命と女性の手帳」が導入の方向で走り出している、と『東京新聞』2013年5月9日が報じた。作業部会の「少子化危機突破タスクフォース」のメンバーは、男性8人女性7人、大きな議論にはならなかったという。
出生率を上げたいなら、生める環境を整えること、フランスのように婚姻を問わずに政府が出産や育児を支援すること。簡単なことでしょう。女は子生みの道具、子どもは「国のもの」と考えているわが日本政府は到底容認できない、でしょうね。子どもはあなたのものではない。
一方では、橋下徹大阪市長が、慰安婦問題について無知を露呈させた。
「猛者集団に休息を与えようとすると、慰安婦制度が必要なのは誰でもわかる」と慰安婦制度を肯定し、戦争を肯定し、そのなかでの人間の犠牲を肯定した。このような人権意識のかけらもない人が政治家である日本という国の貧困を世界に喧伝した。おまけに、沖縄の米軍・司令官に「もっと風俗を活用してほしいと話した」という。絶句。
こういう社会的な女性蔑視意識が蔓延する中で、DVは再生産されていく。どんなに、慰安婦にされた人たちが、DVを受けた人たちが深く傷つき、生きていくためにどれだけの時間を耐えてきたか、彼らの貧困な頭は想像できない。これって、日本の社会にとって大きな損失で、それこそ国家利益を損なう。さっそく韓国政府から批判された、「歴史認識と女性の人権尊重意識の深刻な欠如を露呈した」。
梨の木舎のTwitterアカウント @hatayumiko1