その手があったか!
「本と読者と書店をつなぐために自分は何をできるのか」について熱心に考えているつもりではありますが、日々の業務に追われ、なかなか新しいアイディアに乗っかることができていません。いや、もちろん、日々の業務の積み重ねこそが「本と読者と書店をつなぐため」になるのだという思いはありますが、そうは言ってもやはり十年一日の業務を繰り返していると、正直ちょっとは飽きます。例え内心では飽きてしまったとしても、そこからどれだけ頑張れるか、時期によって繰り返す作業を飽きようが飽きまいが地道に淡々と積み重ねていくことができるか、そんなことと同時に「飽きる飽きないは売る側の問題で、初めてその本を手にする読者にとってはどの本も新鮮なんだ」などとも思います。
話は逸れますが、国立国会図書館がデジタル化した書籍を電子書店を通して無料配信する実験を始めるそうです( http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2012/1199380_1827.html )。第一弾として取り上げられた13点の中には『エロエロ草紙』というタイトルが。なんでも一番人気とか。古くても新しい驚き。エロは強し。
さて、何か新しいこともやらねばと思いつつやらねばならないことを積み重ねていく日々ではありますが、たまに他社の「おっ!」という取組を見聞きして大いに刺激されることがあります。
今回もまた、トランスビューの工藤さんがやってくれました。
工藤さんとその仲間たちが始めた新しい取り組みは、「委託配本をしない出版社による書店向け共同DM」です。(参加出版社:アルテスパブリッシング/ころから/スタイルノート/サンライズ出版/トランスビュー/バナナブックス/ベターホーム協会)
「いや、そんなのさほど新しくないから」という声も聞こえてきそうです。確かに、出版社による書店向け共同DMそのものは今までも様々な取り組みがありました。それらと比べて今回の取組が新しいと思えるポイントはいくつかあります。以下、つらつらと挙げていきます。
まず、ひとつめは、参加している出版社が全て版元ドットコム会員社である(これから立ち上がる「ころから」を除く)ということ。我田引水ではありません。共同で何かやる時に書誌データや原稿を集めるのが大変な話なのは、そういった作業に携わった経験のある方ならご存知のはず。事務処理に抜かりのない工藤さんのことですから、「DMを作る際に版元ドットコムに登録してある書誌データを使えるんで簡単なんですよね」とか、多分そんなことを考えているはずです、多分ですが。
ふたつめは共同の受注FAX番号(しかもフリーダイヤル)を用意したという点。出版社で集まって書店向けに案内を送った場合でも「発注はそれぞれの出版社へ」という例は少なくありません。FAX番号を一本化することで書店側の手間や通信コストが省けます。これも工藤さんのアイディアっぽい気がしますが、うまいですね、このあたり。
みっつめは、そもそも在庫の管理から発送まで協業している社もあるということ。トランスビューが独自のアイディアに満ちた書店との直取引を実現しているのは有名な話ですが、「バナナブックス」と「ころから」はその仕組みに完全に乗っかるそうです。
そして最大のポイントは、「委託配本をしない」という宣言。つまり、書店からの主体的な「仕入れ」を明確に志向しているという点です。これは「売りたい書店だけが売ってくれ」という表層的な話ではなく、「(客層などから考えて)うちの店では難しい」と判断したお店に対して積極的に「売らない・扱わない」という判断を促すという意味合いも含んでいます。従来の見計らい配本は「(店から見て)欲しい本が入らない」という点と同時に「(店から見て)欲しくない本が入ってきてしまう」という問題を抱えています。その問題に対してこの共同DMは「欲しければ欲しい、欲しくなければ欲しくないとお伝え下さい」と、まさにお店の判断による「仕入れ」を最優先している姿勢を打ち出しているわけです。書店の判断を最優先というのは「言うは易く行うは難し」の典型です。普通の出版社の営業の仕事は「出版社として売りたい本をお店に伝え受注を集めること」であり、その下敷きには「出版社として売りたいという意思」があります。そこには、例えばデータや経験に基づいてそのお店で売れると思われる数を把握しその数以上はススメないといった節度から「とにかく全部平積みで」までという幅があります。だからこそ、仕入れの全てを書店に委ねるという決断には営業の枷ともなりかねない決意が必要です。そして、そのためには、「書店が本当に読者に届けたいと思える本を作る」という覚悟が不可欠です。
もちろん、「委託配本をしない」社は今までも沢山あります。特に取次を通さない「直取引」の出版社は当然のことながら委託配本はやっていないところばかりです。
でもね、直取引の出版社って営業が熱心なところが多くないですか、書店の皆さん。
営業がお店に置いてもらいたい本とお店がお客さんに売りたい本とお客さんがお金出して買いたい本、古くて新しい、新しくて古い、常にグルグルと回る問題がそこにはあります(今回のDMに参加している社が営業に熱心ではないという意味ではありませんので念のため)。
ひとつひとつを見れば「新しくもない」「今までもやってきた」と言えるとは思います。ですが、今までやっていなかった社が今までやっていなかった何かを始めるという意志は常に「新しい」もののはずです。
今回の取組にはあとふたつ、重要なポイントがあります。ひとつはFacebookやTwitterを積極的に活用しているという点。もうひとつは特別付録、『「本屋」は死なない』(新潮社刊)の石橋毅史氏による「本屋な日々」。
やるなあ、工藤さん。
●委託配本を行わない版元による共同DM「《注文出荷制》今月でた本・来月でる本」のfacebookページ
https://www.facebook.com/DETA.HON.DERU
●委託配本を行わない版元による共同DM「《注文出荷制》今月でた本・来月でる本」のTwitterアカウント
@DETAHONDERU
追記 その1
私が関わっているJPO近刊情報センターでは今春の仕様変更に向けて2月7日にシステム技術者向け説明会を開催いたします。詳しくはJPO近刊情報センターのWebサイトで。
JPO 近刊情報センター
追記 その2
2月8日、東京開催で好評だった「図書館にはどうやって営業すればいいの?」勉強会を関西でも開催いたします。詳しくは以下のURLで。
お知らせ » 版元ドットコム西日本勉強会:「図書館にはどうやって営業すればいいの?」
追記 その3
2月22日、版元ドットコム勉強会「パブリシティ入門」を開催いたします。詳しくは以下のURLで。
お知らせ » 2月22日 版元ドットコム勉強会:パブリシティ入門