「避難」の実像、「辺境」の逆襲
出版界では、「3・11ブーム」はとうに終わったと言われているらしい。売れたのはほんの一部、大半は需要を供給がはるかに上回り、返品が押し寄せてきたという絶叫が方々から聞こえてくる。読み手のない本をつくっても仕方がない、テーマを変えろという声は、それはそれで常識的な反応と言えるかもしれない。
だが、あの事故をめぐって、いま語られていること、起きていることを考えたとき、出版屋の使命などという口幅ったい言葉を、思わず呟いてみたくなる。なにせ、マスコミはこんな状況なのだから。俺たちぐらい、好きに騒がないでどうするんだと。
原発事故に関してもっとも関心があったのは、ひとつは避難者あるいは避難を選択しない人々に、事故当時なにが起き、いまもなにが起き続けているのかだ。それについては『「原発避難」論――避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』で、山下祐介さんと開沼博さんを中心に実像を追って頂いた。
そしてもうひとつの関心事は、福島原発でつくった電力を福島の誰も使っておらず、すべて「東京」で消費されていたという事実が、なにを意味するのかだ。この疑問は、「東京」が欲望するものを「東北」につくらせるという不均衡な関係性が、原発にかぎらず米や鉄など多くの産業に当てはまることを知るなかで、より大きな問いへと発展していった。
それは、3・11によって社会のそうしたありようの限界が示されたとするなら、次はどのような社会を構想しうるのか、という問いだ。新刊『「辺境」からはじまる――東京/東北論』では、赤坂憲雄さんと小熊英二さんを中心に、この疑問への明確な回答がなされている。
いま、原発避難者は分断され、避難問題は深刻化し続けている。また被災地の復興政策においては、「中央」が相も変わらず公共事業に勤しんでいる。若者はもう出ていってしまったというのに。老人はもう耕せないというのに。だが、それでも「辺境」は逆襲する。世界を変えるのは、彼らだ。
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