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クロマチックハープをはじめた!

 どういうわけか、5年程前、急にドラムが叩きたくなった。まあ、沼澤尚という好きなドラマーがいて、彼の叩くドラムの音が、自分のこころを妙に熱くした、という動機らしきものはあった。考えてみれば、小学校時代の「合奏」では、自分は小太鼓やシンバルやトライアングルといった〈打楽器系〉ばかり担当してたっけ…。母親に「何でいつもそんな“簡単な”楽器ばっかりやってるの!」といわれたときは、子供心に「えっ、打楽器って簡単なのかなぁ?(確かに出番は少ないけど、音はハデだし、目立つし、『簡単だから』やってるって意識はないんだけどな…)」、などと思ったものだ。しかし、以後、実際にドラムを叩く機会というものはなかった。

 それが、昨年の春頃、いつものように仕事を終えた後、数名で飲んでいるうちに「音楽やりたいね〜!」などという(ありがちな)話題になり、「じゃあ、いっちょバンドでもやるか」ということになった。「出版界は(社員チームによる)野球はさかんなれど、バンドはないだろ」「じゃあ、バンド名は(地名をとって)『本郷BOOKS』だね!」などと、ノリはまるで高校生である。通常は「宴席上の与太話」として、翌朝はキレイさっぱり忘れているのだが、私はそれ以上にドラムが叩きたかった。バンドという枠は関係なく、ただ自分の欲求のために…。かくして「素人バンド」は誕生した。メンバー構成は私と、界隈では有名な組版職人N氏(ギター)、元書店員で人妻のTさん(ギター)、私の元同僚のO(ベース)を中心に、適宜「ピアノ経験者」(ここがミソである!)のイラストレーターMや新婚のNさんに「キーボード担当」として参加してもらうことになった。

 全員が演奏に関してはほぼ素人にもかかわらず、無謀にも、いきなり「貸スタジオ」なるところへ行ってみようということになり、当方、あわててドラムを叩く「バチ」(=スティック)を購入する始末(2本で千円ちょい。思ったより安かった)。もちろん、自宅にドラムを所有しているはずもなく、何となく自分の膝をCDの曲に合わせて叩いていると(まぁ、“イメトレ”っつーやつですか?)、おっ、これがいい感じ! 案外オレってできるかも!? たまに膝小僧を強打して、これがまた痛い!! などと、ほとんどアホであります。練習の日が近づくにつれ、だんだん緊張感が高まってきたのだが、そんな初・スタジオ練習の前夜、偶然にも祖父が他界。「う〜ん、これは、『いい年こいて、バンドなんてしょーもないことやめとかんかい!』」という祖父からのメッセージかとも思ったが、生前はパイプと酒とバイクを愛した新しいもの好きの祖父だったので、「きっとバンドも応援してくれるよね、おじいちゃん」と思い至ったのでありました。

 そうこうしているうちに1ヶ月が経ち、第2回のスタジオ練習の日がやってきた。おお、これが本物のドラムセット! ロック少年に叩かれまくってボロボロだけど…。しかし、スネア(ドラム)の音がハート(=心臓)に響くぅぅ〜! うーんシンバルの音色、グッとくるっっ!! と、私はただただ感動、メンバーの「うるせーなー、あの野郎…」という声も無視して叩きまくり、至福の2時間は過ぎたのでした。……で、演奏はどうだったか、というと、〈なんとなくできた〉のだ。当然、楽譜どおりのリズム・パターンが叩けるわけでもなし、タイム・キープはムチャクチャ、スティックの握り方さえ「亜流」なのだが、それでも、ドラムという楽器は「とりあえず」叩けば音が出てくれるし、「ここで強い音を刻もう!」とか「このサビの部分には、こういうソロだ!」とか、初心者にも「自由度」があるというか、「音の構成」は自分のセンス次第なのかも…、と思わせる何ものかは感じた気がした。こういう解釈で良いんですかね、加藤茶さん?
 日頃自分は出版業務の諸々に従事しているのだが、本の装幀(=ブックデザイン)に費やす時間も少なくない。この装幀という作業は、「ドラムの演奏と似ている……かも」と、初のスタジオ練習時に感じた。つまりこういうことである(以下[ ]内はドラムの演奏)。装幀は(簡単にいうと)本の内容を自分なりに咀嚼し[演奏する曲の意味合いや構成を解釈する]、カバーデザインや造本意匠として具体化する作業である[演奏として「音」にする]。書名や著者名の書体はどうしようか[ドラムセットの“どの”ドラムを叩こうか]、カバーのどの位置にレイアウトしようか[曲のどの部分で、どういうリズムを刻もうか]、表紙にはどういう紙を使おうか[どういうタイプのドラムを叩こうか]、カバーのバックには全体に地模様を配置しよう[バス・ドラムでリズムをキープする]、キラキラ光る特殊印刷を使おう[ちょっとかわった音のするシンバルを思いっきりショットする]、以下略。ちなみに、この〈発見〉を知人に話したら「お前はアホだ」といわれました。

 まあとにかく、下手ながら「演奏」という行為は、心から愉しい! スタジオがひとり数千円程度で借りられるなら、カラオケよりよっぽど心躍る「娯楽」といえましょう。あと、私がドラムを叩いている最中に、例えばキーボードの人と目が合って、「無言のコミュニケーション」をとったりすると、く〜っ、これが快感!! 勤務中にMACに向かっていて、ふと横を見ると、原稿校正中の社長と目が合う、とはエライ違いだ〜! こんな愉しいことがあるんなら、過去、体育会系の軟式庭球部なぞに青春を捧げずに軽音楽部入ってりゃよかった〜!

 さて、そんなバンドだが、そもそも飲み会の場で盛り上がった勢いではじめてしまったバンドである。当然、「各人の音楽性」(つまり、やりたい曲)がバラバラなわけで、それは(「演奏はさいこーにド下手」のくせに)相応のストレスとなる。当初は「とっかかり」ということで、やれストーンズだのイーグルスだのクラプトンだのと選曲していたのだが、前出N氏はブルース・マンだし、他のメンバーの嗜好も「ロック」、「民俗チックな曲(なんだそりゃ?)」「フュージョン」「ポップ」「忌野清志郎」などなど、バランバランなのである。これではまとまるはずがない。

 そこで私はこのバンドとは別に、自分ひとり、つまり「ドラム+他の楽器の同時演奏」で完結する楽曲を模索することにした。う〜ん、他の楽器ねぇ…。ドラムに合わせて歌をうたうだけじゃ「つのだナントカ」か昔の稲垣潤一だし。そこで、ハッと気づいたのが「ハーモニカ(ブルースハープ)」である。おぉ、あれならみんなギター弾きながら吹いてるし! ……素人の浅はかさの何とやら、である。たまたま私は西脇辰弥という人のハーモニカのCDを愛聴していた。この人は作・編曲家でキーボーディストでドラマーでもあり、歌もうたうというマルチ・プレーヤーで、アイドルへの楽曲提供も多く、一時期ゲームセンターで流行った「キーボードマニア」の音楽作曲でも知られる奇才だ。どうせなら、この人と同じハーモニカがいいな、と思い調べたところ、何と彼が使用しているハーモニカは「クロマチック」というタイプだったのだ! これは右側にレバーが付いており、それを押すことによって半音が出る構造のモデルで、つまり「どうしても手を使う=ドラムのスティックが持てない」のである。

 …これは困った、となるところなのだが、楽器屋でクロマチックハープの実物を色々見ているうちに、ドラムのことなどどうでも良くなり(楽天的!!)、一番安いモデルを購入した。で、「西脇辰弥のCDに合わせて吹いてみよう」と思い、自宅で吹いてみたが、これが、吹けないのである。まったくのトーシロなので至極当然という噂もあるが、部分的に吹けるメロディもあった。そもそもスコア(楽譜)の入手が難しい曲だし、仮に手に入ったとしても、アドリブ的に吹いている部分も多い曲なんだから、あまり役立つとは思えないしな〜(ナマイキな奴ですねー!!)、ということで、今はとにかくCDのとおりに吹こう、と日々テキトーに吹いている(音を探すだけでちょい大変)。しかしながら半年もすれば吹けるようになるのでは、と(無謀にも)思ったりする。またいずれこの場を借りて、上達具合いのご報告ができれば、などと考えつつ…。

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 マスコミ関係者をはじめ、ミュージシャンも多く購読していると聞く、この「版元ドットコム」の場に、怖いもの知らずの文章を書いてしまって、いささか緊張している。現在、出版界は「ハリー・ポッター」とかいう本の部数ばかりが喧伝されるが、2001年の出版販売金額が過去10年間で最低だったことからもわかるように、景気のよい話を聞くことは少ない。しかしながら、時代状況によって人びとの意識に多少の相違はあっても、読者が面白く有用な本を欲していることにかわりはなくて、不況云々は身内の事情に過ぎない、ともいえる。したがって、版元の台所事情はキビシイけど、日常の生活態度ぐらいは「いや〜、ハーモニカはじめちゃってサー!」などと愉しく笑いながら、読者ともども愉しめる、刺激に満ちた本をつくりたい、と思うわけである。……もっとも、「別段、日々の生活を愉しんでいない“出版人”」が作っている本でも、結果的に多くの読者に受け入れられているケースは(多々)ありますけどね。しかしそれには無理があろう。そもそも、私はそんな“出版人”にはなりたくないのだ。

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