創業3年目の山場
羽鳥書店は2012年4月で創業3周年を迎えます。1月現在で刊行点数は32点になりました。法律・美術・人文という営業泣かせの幅広い刊行分野も、それぞれにラインナップが揃い始め、出版社としてのイメージもようやく少しかたちになってきました。
そのなかでも昨年後半は、英文学者であり翻訳家でもある高山宏先生(明治大学国際日本学部教授)の『新人文感覚』全2巻、『1 風神の袋』『2 雷神の撥(ばち)』の刊行が大きな柱となりました。904頁と1008頁、A5判上製でそれぞれ厚さ5cmを超える大冊です。ここ15年間のエッセイや論考を87本ずつ、図版も800点以上収録した集大成で、価格も12000円、13000円という破格(!?)です。
編集過程でどんどん発表原稿がたまってしまうため整理がなかなか追いつかず、最初は1冊本だった企画がそのうち2分冊となってしまいました。そうやって内容が充実しつづけていく傍らで、編集作業は山のように、というよりも山脈のように厖大なものに膨れ上がっていきました。
羽鳥書店創業時から予告していた刊行でしたが、案の定、蕎麦屋の出前のように延び延びに。そんな状態でありながらも読者の懐は深く、問合せの電話などで、「高山先生の本だからたいへんでしょうが、がんばってください」と励ましてくださる声も多くありました。みなさま、本当にありがとうございました。
ようやく刊行が現実味を帯び始めてきた昨年春ぐらいから、ホントにそんな本が出るならと、刊行にあわせたフェアの企画がたくさんもちあがってきました。編集としては、こうなると後にひけない状態で、なんとか8月には第1巻『風神の袋』の刊行にこぎつけ、真夏の熱風とともにそのまま第2巻の秋刊行へなだれこんでいったのです。
なだれはそのまま大きなうねりとなり、そんな2冊組みの本が完結するならと、紀伊國屋画廊で展示をしないかという話まで舞い込んできました。しかも、すでに予定していた紀伊國屋サザンシアターでの完結記念トークイベントと同時期にです。嬉しいけれど、これはたいへん!
なんだか凄い本らしい。1冊だけじゃなくて、2冊目も出るらしい。しかももっと分厚いみたいだ……。学魔と呼ばれる高山宏先生を知っている人も知らない人も巻き込んで、事はどんどん大きくなっていきました。
2011年11月。完結記念トークイベントも決まり、なおかつ、画廊で「高山宏の書斎」を再現する!などと銘打ってしまったからには、本がきちんと間に合わないと……。あとはもうやるだけ、です。直前の10月頃のことはもう記憶も定かではありません。
そんな極限の状態をへて、全2巻は無事に完結し、多くの人に喜び楽しんでもらうことができました。しかも高山先生は、その2冊刊行の合い間のひと夏をかけて、『新人文感覚』の副読本と称した『夢十夜を十夜で』(はとり文庫003)、原稿用紙300枚超を書下ろしてくださいました。12月には、大冊直後に文庫という、なんともサイズ変化の激しい怒濤の連続刊行を果たすことができ、読者にはとても面白がってもらえているようです。
昨年は、3月に東日本大震災が起き、出版活動にもさまざまな影響がありましたが、本の力を改めて考える年になりました。2012年も、たゆまず本をつくり続けたいと思います。
参考
・高山宏「学問はアルス・コンビナトリアというアート」展
[紀伊國屋画廊/2011年11月10日~11月15日]
・『新人文感覚』全2巻完結記念トークイベント
高山宏「知の風神・学の雷神 脳にいい人文学」
[紀伊國屋サザンシアター/2011年11月12日]