「双子のライオン堂」で羽鳥書店フェア開催中
出版社で営業という仕事をしていると、本を読むことが仕事の一つとなります。もちろん仕事ですから自分の趣味で選んだ本を読むのではなく、自社で作った本を読むわけですが、昨年末に刊行した内藤篤『円山町瀬戸際日誌――名画座シネマヴェーラ渋谷の10年』
を読んだ感想をここで書かせてもらえればと思います。
著者の内藤さんは著作権関係の本を何冊も出されている弁護士の方です。そんな方が2006年1月、渋谷・円山町にシネマヴェーラ渋谷という名画座を開館し、自ら館主となりました。この本は開館した2006年から2015年までの山あり谷ありだったシネマヴェーラ渋谷の祝10周年の記録です。
出版業界も他業界のことをいえる立場ではありませんが、名画座を取り巻く環境もいろいろと厳しい中、「大きく儲かることもないけれど、激しく損をすることもないだろう」(13頁)という言葉に押され、一介の素人が弁護士との二足のわらじを履いて開館してみたら、マキノ雅弘特集では観客総数6名という不入りの回があり、また、山口百恵特集では、和田アキ子の責任か一日に27名しかお客が入らなかった日があるなど、まさにタイトル通りの瀬戸際状態。時には立ち見が出るほどの盛況な日がありつつも、基本的には客足の鈍さを嘆く日誌となっています。
こう書くと、厳しい経営の中で青色吐息の愚痴ばかりという印象を受けるかもしれませんが、本文は能天気な調子を通底とし、どんなテーマでどんな映画を組み合わせて上映するかといった映画ファン垂涎の楽しみを実現し、映画への愛情をあふれさせながら見た映画(シネマヴェーラ渋谷だけではなく、他館で上映された映画まで)の魅力を次から次へと語ります。
「あまり期待していなかったひとつの理由は、公開時にも観たし、その後も何度か観ている作品なので、そんなに面白くなかったような記憶があったからなのだが、今回観て、いったいそれはどんな記憶じゃと、オノレにツッコミを入れる始末となった。笑える笑える、むちゃくちゃに。モウロクして口の回らなくなったという設定のアラカン親分が、何かというと「ニンキョー!」と叫ぶのが訳もなく可笑しい。進駐軍を前にしながら、実にいい加減な采配をふるう藤岡琢也の警察署長も変に可笑しい」(137頁~138頁)
上映作品のプリントの劣化の問題や上映にあたっての権利関係の処理、ぎりぎりになってしまうチラシの作成など様々な苦労も大変ではあるけれど、映画に携わることから派生する楽しい苦労に見えてきてしまう。
「焦燥感の中で「自転車操業」という言葉が脳裏をよぎる」(44頁)とか「毎度毎度、送り出す特集には自分なりの意義を込めてはいるのだが、もう少し何とかならぬものだろうか」(57頁)「好きではじめた商売だけども、やはり商売というのは辛い」(109頁)という言葉を見ると、現実は厳しいのだろうと想像してしまいますが、次々に映画の魅力、映画に携わることの楽しさを伝える文章はそんなことも忘れさせてくれます。
フィルムからデジタルデータへの転換の問題。映写機が壊れた場合、対処のしようがなくりつつあるという現実(映写機関係の消耗品が入手困難になっていたり、映写機メーカーが倒産していたり)といったこの10年、映画業界を取り巻く裏側の環境の変化も書かれていて名画座の先行きの不透明さも感じられますが、内藤さんのような方がいる限りまだまだきっと大丈夫なのだと思えます。
「名画座が名画座としてやっていく上で、さしたる経費は必要ない。我々はそうした意味では資本市場など用のない存在である。別段、名画座というような特殊なマーケットを普遍化する意図はないのだが、昨今のあまりに殺伐とした企業風土(外に対しては持続性のある成長とコンプライアンス経営をコミットし、内に対しては内部統制を至上命題とし、常時個人情報の流出に汲々として対処するというような)に対置するとき、こうしたスローフード的というのか、スローライフ的なあり方は、もしかしたら、独自の意味を持ち得るのかもしれない。名画座こそは、オルタナティヴな資本主義なのかもしれない(冗談です)。
でも、そんなこととは全然無関係に、今日も我々は勝手に映画を上映し続けるのだ。」(15頁)
本書をすべて読み終えて抱いた感想はとにかく映画が見たくなってしまうということ。そして、多分、シネマヴェーラ渋谷という場所は、これは沢山の人に見てほしいと思える映画を上映しつづけるためにある場所で、経済的な利益を得るためだけに存在する場所ではないということ。このことを自分の仕事で当てはめてみると、本を売って利益を得るのではなくて、本に込められた著者の思いを伝えることで利益がえられるような仕組みを作るのが仕事なのかなとも漠然と思ったりするのです。名画座も出版社も道楽で終わってしまってはいけませんが、自分が自信を持って人に薦められる本をこれからも提供していきたいと思います。
シネマヴェーラ渋谷は2014年度、開館以来2度目の法人税の納税という「栄誉」を担い、瀬戸際を少しずつ脱出しているそうです。
ここまでタイトルとまったく関係のない文章が続きましたが、ここからが本題です。
港区赤坂に「双子のライオン堂」(という書店があります。(最寄駅は東京メトロ千代田線「赤坂」)
最近はやりの一人出版社ならぬ、「一人書店」で基本的には水曜日~土曜日と週に4日しか営業をしていませんが、作家をお招きしてのイベントや読書会なども積極的に開催されている書店です。
この書店で3月末まで、羽鳥書店のフェアが開催されています。
さらに、ただ本を並べて売るだけでは、『ほんとの出合い』『100年残る本と本屋』をモットーにして、「選書専門店」を自称している「双子のライオン堂」(らしくないと思い、上に書いたような羽鳥書店の本の感想文を何冊分かまとめフリーペーパーにして配布することにしました。一方通行で終わってしまうかもしれませんが、ちょっとしたコミュニケーションがとれるような売り方ができたらと思っています。
夜は21時まで営業しているお店なので、是非一度足をお運びいただけたらと思います。よろしくお願いいたします。