版元ドットコム

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FAX・DMはラブレター

 自ら出版活動をはじめて5年になります。スタートした直後は、いったいどうやって新刊を世間や書店に知らせたらよいのか、まるで手探り状態でした。少ない人数で営業はとても無理だし、ましてや東京近郊以遠は行くための資金すら無い。インターネットで本の情報を載せるのは当然としても、それとて書店さんや読者の人が見てくるのをただ待つだけです。
 昔書店員だったので、書店に版元からFAXが送られてきているのは知っていたし、新鮮な情報という印象を持っていて参考にもしていました。なので、必然的にこちらから情報を発信できるFAX・DMを考えました。ところが、いざ自分が送るとなると、まず書店のFAX番号が分かりません。
 そんな時に版元ドットコムで、書店へFAXを送るサービスがあると知って、試行錯誤的に使い始めました。送りたい書店の欄に●印を付けるだけですから簡単です。さらにその背中を押してくれたのが、会友のOさんでした。ある飲み会の帰りがけに営業が難しいとこぼしたのです。そしたら「当分はFAX・DMで十分ですよ。全国の書店を回るなんて大手だって出来ないんだから最初から無理しないで、FAX・DMをきちんとやったほうが効果ありますよ」との言葉。ベテラン営業マンのOさんの言葉に力を得て、それからFAX・DMを真剣にスタートさせました。

 まずは送り先の書店の選出。版元ドットコムのFAX・DMを利用したことのある方なら「基本パック」という印がついているのをご存じでしょう。これは、FAX・DMを比較的理解してくれて、反応もしてくれることの多いチェーン店を選んだもの。一番最初は、この選択肢をそのまま利用しました。もっとも、●印を付けたあとに見直しをして、コミック専門店やあまりに小規模の店舗などは除外。逆に、うちの書籍に合いそうな店や、都道府県単位で欠けている所がないか、その程度を追加したりして送りました。
 結果は……。ほとんど返ってこないだろうと思っていたのに、それなりに返ってきたので驚きました。今から考えれば非常に少ないのですが、当時としては大進歩。と同時に「うちにFAXは送らないでくれ」といったお叱りFAXもけっこう来ました。自分が書店員だった頃から、FAX・DM嫌いの店員さんがいるのは知っていたし、それは書店さんの事情。やむを得ません。とはいえ、「お断り」が送られてくるといまだに動揺してしまいます。そんな時は、さっさと版元ドットコム事務局にそのFAXを再送信。それだけで、次回からはリストに×印がつくのです。断られた店に再度送ってしまう心配はありません。
 そうそう、版元ドットコムのFAX・DMで非常に助かったのが、同じ版元ドットコムFAX・DMサービスを利用したFAX・DMが我が社にも送られてくる点です。他社がどんなFAX・DMを送っているのか。これは非常に参考になりました。「あ、これうまい!」とか「これ見やすい!」とか「これ見にくい……」とか。そういう勉強材料にさせてもらいました。

 その勉強の結果気づいた点は、毎回共通のヘッダを付けることの大切さ。何度も送っているうちに、どこかワンポイント目立つ部分を見ただけで「あ、いつもの版元だ」と思ってもらえることを目指したんです。
 これは自分が書店員だった時に感じていたことで、どんなに小さな版元さんでも、しょっちゅう名前を耳にしたり目にしたりしていると、なじみの版元さんのようになってくるんです。ロングセラーが1冊あるだけで違うというのは、その本が常に店にあることで、書店員やお客さんが版元名や書名になれてくるんですね。ISBNコードが2桁の老舗版元くらいしか、いくら書店員とはいえ常に頭の中に名前が浮かぶわけではありません。なじみが無いということは、発注の時に躊躇することにもつながります。まったく記憶の隅にも無い版元の本だと、たとえ客注があったとしても「これ、うちで注文できるかなぁ。いまでもある版元なのかなぁ。受けちゃって大丈夫かなぁ」と後にクレームや面倒が生じないように防衛本能が働きます。
 そこで、書店員さんに版元名を覚えてもらう作戦です。最初からベストセラー続出というような特別な版元さんはいいのですが、大抵の版元は地道にやるしかないのです。とにかく版元名を覚えてもらって躊躇無く発注してもらう、という作戦に出たわけです。東京国際ブックフェアに出展したのも同じ理由。偶然ブース前を通りがかった書店さんが目にしてくれて、版元名や本のデザインを記憶のどこかに眠らせてくれればそれでいいと思ってます。

 その後、本の種類によって送り先は若干変えていますが、平均すると毎回2000件から2500件の書店さんにFAX・DMを送っています。「FAXお断り」という返事も最近ではほとんど無くなりました。もちろん、その大部分が無駄うちになるんですが、こういう版元があって、こういう本を出しているんですよ、ということを頭の片隅においてもらうためなので損だとは思ってません。でも、毎月毎月送っていると、返信率は着実に増えてきています。中には「この本は当店では販売が難しいと思うのでごめんなさい」と0冊の返信をくださったありがたい書店さんも。
 2009年9月に版元ドットコムが水道橋で書店へのDMに関するセミナー兼説明会を開催しました。そのセミナーで、トランスビューの工藤さんが「全国の書店をひとりでまわることなんて到底できないので、毎月決まった日に必ずFAX・DMを送る。何年かに1回来る営業よりも毎月来るFAXのほうが親しみを感じてもらえるのでは」という話しをされてました。数年間FAX・DMを続けてきて、確実に注文の戻ってくる割合は増えていますから工藤説は当たっているんじゃないかと思っています。
 大きな書店さんからの注文FAXを見ると、各棚の担当者に回してくださっている痕跡が見られることもあります。うちだと、芸術棚、コンピュータ棚が多いのですが、「見たよ」というチェックらしき跡がついているんです。そういうのを見ると、本当にうれしくなります。

 FAX・DMは書店さんへのラブレター。「お断り」のFAXは「あなたは嫌い!」とラブレターを押し返されたみたいで切なくなりますが、うちのような小さな版元はこれを続けるしかないのです。注文が戻ってこなくて無視された、と感じる必要はありません。版元の名前はきっと記憶の奥底に刻まれたはず、と勝手に思っています。
 以前は書店で「スタイルノート」と言っても「なんですかそれ?」だったのが、いつの日か「版元ですよね」とこたえてくれる書店員さんが一人でも増えたらいいなと願いつつFAX・DMを毎回送っています。

スタイルノートの本の一覧

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