彩流社新刊『ろんだいえんー21世紀落語論』ご案内
入社間もない一色です。社内的なことはもちろん営業や流通も含めて日夜、勉強の日々です。その点、会社に毎日たくさん送られてくるメールを読んでいるととても刺激になります(会友でないかたに念のため説明すると、版元ドットコムに入るとメーリングリストに登録され、そこではメンバー間で様々な情報が交わされているのです)。がんばって目を通し、咀嚼しながら、同時に職業として本に関わっている人の多様さに驚かされています。版元ドットコムのこの幅広さは大きなメリットではないでしょうか。生意気いってますが。少なくとも僕自身それぞれ違った視点からの議論にビシビシ刺激を受けています。
さてここまでがマクラです。…と、何を言っているかといえば、落語では本題に入る前の前口上を「マクラ」といいます。「するって〜と、ここからが本題って訳かい」なんて声が聴こえてきそうですが、その通りです。新人君は考えました。「まだ右も左も判らないのに、版元日誌という大役を引き受けてしまった。偉そうなことはとても言えない。上司につっこまれる…。どうしよう…。よし、新刊を紹介しよう!」と。あまりに安直ですが。
紹介するのはもちろん落語の本、三遊亭円丈著『ろんだいえん—21世紀落語論』です。
著者はその筋では知られている新作落語の第一人者。「円丈以前、円丈以後」という言い方があるように、新作落語を切り開き、いまの落語ブームの土壌を作った人物です。人気沸騰中の落語家集団SWA(創作話芸協会「すわ(っ)」)が自分たちのことを「円丈チルドレン」と呼ぶことからも、その影響力を知ることができるでしょう。
新作落語の理論と実践。本書を格好よくひと言でいうならば、こうでしょうか。円丈師匠いわく「古典=落語」の世界で新作は長いあいだ評価されず、差別すらされてきた。本書では、そんな状況下で奮闘してきた師匠の努力と思考の跡を、存分に知ることができます。寄席とは別に、渋谷ジァンジァン他で新作落語の発表の場をつくってきたこと。新鮮さを追及したどりついた座布団放棄の試みの顛末。ゼロから物語をつくることの難しさと、ストーリー構築法…。45年にわたるその歩みは、本人も言及するように失敗だらけ。でもだからこそ爆笑もので、また深い。
そして新作に限らず「落語とは何か」が分析されます。ギャグの分類(ダジャレ、優越感の笑い、ブラック・ジョークetc…)。古典落語のテーマによる分類(だましネタ、間抜け泥棒ネタ、夢モノetc…)。落語の歴史。立川談志や林家三平のこと。演じ手の発声や仕草のこつ…。
新作落語を切り開いた人物だからこそ見える、落語の本質と可能性。試行錯誤の末導かれた理論は迫力さえあります。
落語ビギナーの僕も愉しめた本書。これから聴き始めようという方は是非。また、十分に落語を熟知している人にも刺激となることでしょう。進化した落語の世界。とくとご覧あれ!
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さてさて、この日誌が公開されている頃には終わっている版元ドットコム「夏祭り」IN東京国際ブックフェアに、本書『ろんだいえん』も出品します。少なからずの売れ行きを祈って。