ブックフェアが結びつける本と人
「クリエイティブが価値をうむ」
2008年3月にとびら出版という新しい出版社を立ち上げました。
船出に際して、まず心に決めたことがクリエイティブの力で勝負をしようということでした。
出版とは紙の上に文字や図を印刷する情報産業です。大手出版社の本でも、とびら出版の本と使っている紙やインクは一緒であるならば、価値の違いは掲載されている情報のクリエイティブさで決まるというのが最初の実感でした。
私自身がデザインという能力をもっていたこと、起業する前に書店を巡り、書店員の方に企画した本のゲラを見せて回ったところ、「これなら売れるんじゃないか」という感想をいただいていたことも決意の背景にはありました。書店員の方の本を見つめる姿勢から感じることは、今の時世こそいかに内容のある本を作れる出版社が必要とされているかということでした。
出版不況などという言葉が使われて久しいですが、それはあくまで本を作る側の不況であって、本を読むことを楽しみに待っている方たちの不興ではないのです。
いみじくも今月27日から全国読書週間が始まります。読者週間は約80年の歴史をもつ読者運動で、今年は「思わぬ出会いがありました」というキャッチコピーとともに、11月3日の「文化の日」を挟んだ2週間の期間に全国の書店や新聞社を中心に様々な読者関連のイベントが開催されます。まさに「読書の秋」を象徴するイベントであり、出版社としてこのタイミングを逃す手はありません。
とびら出版も八重洲ブックセンター本店1階で行われる地方・小出版流通センター主催のブックフェアに「ちぎり絵で海外に友だちをつくる」(ISBN:978-4-904318-02-7)を出展することにしました。
ブックフェアという場所と機会は不思議な効力をもっていて、そこには著者、版元、小売、読者のすべてが集います。本が結び目となって、人と人が結び付けられる現場に立ち合っていると、次の本のアイデアなどは湯水のように沸いてくるものです。2~3時間そこに立っているだけでお客様が何を気にかけて、何を手にとっているかは、見るからに明らかだからです。
出版という業界は、読者は著者であって、版元は読者であって、その垣根は非常に低いものです。「本が好き」という共通の趣味を持つもの同志で読みたい本をつくる、そのきっかけがブックフェアという場では発生しています。本を介したミーティングであるといってもよいでしょう。
書店にいる人たちを見回して「ここに今いる人たちは全員、自分と同じ本好きの人間なんだ」と思ってみると、版元として得られるものは果てしなく大きいことに気がつきます。