捕らぬ狸の“高齢化社会”
小社は俳句や短歌関連の書籍を主に出版しておりますが、ジャンル的にも対象となる読者は高齢者が多く、また地方の人が多いので、数十年来、新刊のたびに、過去に愛読者ハガキを送ってきてくれた人や直接注文してくれた人たちにダイレクトメールを出して、そこからの注文売り上げを見込んでの原価計算、定価設定をしております。しかしこの数年、すこぶる反響が悪くなってきました。これには、いわゆる読書離れとかインターネットの影響とかとはちょっと違う原因があるようです。
転居先不明や受け取り拒否による戻りはある程度は想定内にしても、「もう目が見えなくて本を読むことが出来なくなったからこれ以上ご案内をお送り下さらなくて結構です」とか「母は(or父は)もう亡くなったので名簿から削除してください。」という、とても丁寧でありがたいけど残念な連絡が毎回増え、それはやむを得ないことですが、つまりは、高齢化がさらに進んで“超”高齢化社会となってしまい、単純に対象読者がいなくなってしまったからだと思われます。
数年前までは「これからはますます短歌、俳句の読者が増えるぞ!」と、大いに期待した団塊の世代も、目論みほどこのジャンルの読者として参入しては来ず、先行きはかなり怪しい状況となっております。
ともあれ、ぼやいてばかりいられないので、新規読者を掘り起こすべくHPで連載企画を展開したり、本の体裁も図版を多く取り入れたり、上製から並製に変え今までの価格設定よりも下げたりして対策は講じているつもりですが、これによる効果の程はいまだ不明です。
さて話は変わりますが、先月1月26、27日はそれぞれNHK全国短歌大会、俳句大会が開催されました。これはNHKが全国の短歌俳句愛好者に向けて、事前に募集した作品を著名な選者により選び抜かれた秀作の選評と作者を表彰するという会なので、何らかの賞をいただける誇らしげな歌人、俳人が全国から集まるわけです。そこで、この会場であるNHKホールに行って本の直販をやりました。
もっともそこには、ライバルといったらあまりに失礼ですが、同じジャンルの本を出版している「角川学芸出版」や「短歌研究社」「ふらんす堂」なども出品しており、挨拶を交わしたりして和やかに過ごしておりました。
13時から始まる大会で全席指定なので11時くらいに準備すれば充分かなと思っていたのですが、あの寒さのなか9:00過ぎにはホールの周りはすでに長蛇の列とのこと。主催者側も当初の開場の予定を早めた為こちらもあわてて本を並べました。
開場と同時に押し寄せてきた人たちは、見事に“昔”紳士、淑女であったであろうご高齢の方たちばかりで、落ち着いたスローな動きかと思いきや、我々の出品テーブルなど脇目もふらずお弁当を並べている売店に突進し、その後壮絶な椅子取り合戦を繰り広げつつ幕の内弁当やサンドイッチを食しておりました。恐るべし老人パワーです!
食事が一段落して落ち着いたころ、ようやくこちらのテーブルにも目を向けてくれ、我々の仕事もいよいよ本番です。
やはり圧倒的に「角川」の前に人が集まり、その隣にいた小社もおこぼれを頂戴して、「ボウズになったらどうしよう・・・」という不安も早々に消え失せ、想像していたよりも多く売れました。ヒットは「お買上の本をご自宅に配送します」サービスが功を奏して大型本も売れたことでした。なかには「隣で買った本だけど送ってくれる?」という大胆発言をする方もおりましたが、「うちの本と一緒ならいいですよ!」と商人の顔になって売りつけ、いやお買い上げ頂いたりして意外と面白いものでした。なによりの収穫は、日頃想像だけで理解していたつもりだった実際の読者に直接触れられたことです。
こうなる上はこの老人パワーが健在のうちに、全国の俳句短歌大会が開催されるところをしらみつぶしに、フーテンの寅さんよろしく渡り歩けば結構イケルかも、などと皮算用をしている今日この頃です。