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版元日誌担当者日誌(?)

はじめまして。ポット出版の尹(ゆん)と申します。この版元日誌の原稿を各版元さんにお願いしたり、原稿を頂いたりする担当をこの9月から務めさせていただいております。「まだ君から連絡もらったことないよ」、という会員社、会友の方々、「ああ、こないだ連絡くれたよね」、という会員社、会友の方々共に、今後とも私から版元日誌依頼のご連絡を差し上げることもあるかと思いますが、その際はどうぞよろしくお願い申し上げます。

私が出版業界に飛び込んできてはや8ヶ月が経ち、あの頃はあんなに暖かかったのに、気がついたら寒さが身にしみる時期となっていました。最初の4ヶ月はひたすら長く、その次の2ヶ月では長かったようなあっという間であったような気がしましたが、ここ2ヶ月はあっという間に時が過ぎ去っていく実感がします。ようやく仕事に慣れてきたということなのかもしれません。

もともと、書店が好きで、暇な時間があれば店内をうろちょろしにいっていたものですが、版元に入ると、ただうろちょろするだけではなくなるようになります。各ジャンルの棚に自社の本が何冊入っているか、平積みか、棚か、などと初めてだったり久しぶりに行った店に関しては必ず確認するようになりました。一方で、良く行く書店では、自社の本がどこにあるかは既に把握済みなので、本が動いているかどうかを確認しています。

ある日、渋谷にある某書店にて、自社の新刊が2冊棚差しで入っていました。おやおやっ!と思い、定点観測することに。今日も減らない、また減っていない…。2、3日に一度、必ず確認に行くものの、新刊に動きはありません。発売から3週間ほどたった時、ようやく動きがありました。棚に1冊しか差さっていなかったのです。次の日に、返品のデータをあさって見ると、その書店からの返品は無いようでした。ああ、売れたんだ、良かった…。この仕事を初めて、一番嬉しかったかもしれません。

こんな当たり前のことをここに書くのも気が引けますが、取次に100冊入れようと1000冊入れようと、それは読者の元に届いている訳ではもちろんありません。そのあと運送会社が書店に入れ、書店員さんが頭をひねって陳列して、それを本を求める人が自分の貴重なお金と見合うものかどうか、自分が期待する本であろうかということを逡巡して、やっと読者の元に届きます。さらに、より正確に言えば、買った後、読んだところでようやく「読者」となります。

書店を定点観測していて一冊売れていたことにことさら喜びを抱いたのは、数字でいくつ売れたとか、電話で客注をもらって売れたとかいうことももちろん嬉しいのですが、自分が見ているこの棚の前で逡巡の末にこの本を選んでくれた人がいる、ということです。その人が看護婦か、サラリーマンか、はたまたそれとも定年を迎えて孫と過ごすおじいさんなのか、そんなことは解らないのですが、数字ではない、今、同じ時間を生きている人が、目の前で自社の本を手に取って選んでくれたということが、今、具体的に目に見えている。どういう気持ちで手に取ったのだろう、この本に何を求めてくれたのだろう、今、楽しんでくれているだろうか、、、などと考えることができることが嬉しいのです。

本を作る仕事に限らず、モノを作る仕事というのはそういうものかもしれません。農家の人はおいしい野菜を買って食べてくれる人がいることに、自動車を作っている人は買って快適なドライブを楽しんでくれている人がいることに喜びを感じているのかもしれません。大切なのは「具体的な」「人に」「買って」もらうことではないでしょうか。本の代わりに牛丼でおなかを膨らませば、生活に必須の一食分を得られます。だから「買う」ことは身を削ることだと思うのです。「買う」という「生活へのリスク」を負ってまで、自社の本を買ってくれる。とても素晴らしいことで、ありがたいことです。

今は、さしたることも出来ない私ですが、この仕事に就いたからには、「リスク」を負ってでも買って満足してもらえる本を作れる人間に、「リスク」を負ってでも買ってもらえるものです、と自信を持って書店員さんにいえる人間になりたいと今、思っています。手あかのついた、理想論的な目標かもしれませんし、具体的にどうすればいいのかなど、今の私にはさっぱりわからないのですが、多くの方にご教示いただきながら、自分なりにここまで考えたこの気持ちは、大切にしていきたいと思います。

…と、大上段に書くと、純粋で美しい言葉かもしれませんが、実際はそうは思いつつも日々に忙殺されて仕事をしています。今は理念よりも具体的に仕事をいかに進めるか、自分の低能力、低理解力、低成長力をいかに補完するか、が本当のテーマだったりします。まずは本よろしく、「お前、もういらないわ」、と悲しくも会社から返品されないよう、今をひたすら頑張ります。

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